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オデオン  作者: 瀬古冬樹
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終章

 朝になり、国民が見たのは半崩壊状態のオデオンだった。国の隅に建っているオデオンは、町中から見ても明らかに崩壊していた。壁も何もかもが半分だけ、崩れ去っていたのだ。

 昨夜、何かがあったわけでもない。何かあれば寝静まった国中に響き渡るだろう。けれど国民は誰も、それらしき音は何も聞いたりしていなかった。朝になったら突然崩壊したオデオンがあった。

 人々は遠くからそれを見ながら、長老たちが説明してくれるだろうと、できる限り日常を続けていた。オデオンは歌姫の象徴のようなものでもあった。それが崩れ去ってしまったことで、人々の心の中にどこからともなく恐怖が侵入していた。


 人々は辛抱強く待った。きっと突然のことに長老たちも対応に追われているだけなのだと。

 日が高く昇っても、それが沈みかけても、長老は誰一人として姿を現さなかった。さすがに人々の間に動揺が広がった。長老たちの家へと押しかけた者もいた。

「いないって。姿がないって、言うんだ」

 長老たちの家へ行った者は全て、長老たちの不在を知らされただけだった。その知らせはすぐに国中に広まった。


 翌日になっても、その翌日になっても。

 長老は誰一人姿を現さず、家族の者にも行方がわからなかった。

 消えてしまったのだ。長老が全員、忽然と。

 日、一日と国民にざわめきが広がっていった。この国は長老たちが治めていたのだ。治める者がいなくなった国は、混乱に陥った。


「オレは、歌姫なんか反対だったんだよ。素性もわからねーのに。アレに何が出来てたっていうんだよ」

 そう声だかに叫ぶ者がいた。

「長老たちが何でもかんでも決めていたのは、ちょっと納得がいかなかったわ。特にガデス長老はね……」

 そう言葉を濁す者もいた。

 いくら住み心地が良くたって、何かと小さな不平や不満はどこかに溜まっているもの。長老たちの姿が消えたことで、少しずつそれらが露見してきた。

 小さな不平や不満は大きな暴動へと繋がっていった。


 歌姫という存在に少なからず反対を示していた、主に外から移民してきた者たちが半壊のオデオンを完全に破壊した。儀式が行われていた劇場も一緒に。

 それなりに大きくなりつつあった国のそこかしこで、小さな、あるいは大きな諍いが毎日のように続いた。国民は疲弊し、その諍いに巻き込まれるのを恐れた者は外へと移住していった。

 国はどんどん人がいなくなり、諍いは大きな戦火へと繋がった。


 そして、歌姫たちが歌い祈り続け、その命をも捧げ続けた国の繁栄は、終わりを告げた。

 時を経てすっかり廃墟となった国のその上には、新たな国が作られた。しかしその国も近くの火山の噴火によって消えた。


 歌姫が歌で守り続けた国は、今もまだ発見されてはいない。

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