表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
player  作者: arikiti
1/1

プロローグ

彼ら人類は、生物である。だからこそ脆弱で、不完全で、感情的だ。

それを克服することは容易ではなかったらしく、いくつもの試行錯誤とそれ以上の過ちを繰り返してきた。

それでも人類は、現在でもより良い未来を得るために、自信を持って変化を望むのだ。

だが、そこには果たして幸福はあるのだろうか?

彼らは選択しなければならなかった。自身の幸福を追求するか、他者に与えられた役割を達成するか。

人類が地球上に誕生してから1億年が経過した。

後者を選んだ者が大半だった。多くの人々が進化した。機械に意識を移植するものもいれば、あるものは外宇宙に進出し、あるものはバイオテクノロジーで自らを変えた。

それは既に遥か昔にアフリカ大陸で誕生した、人類とは程遠い存在で、全ての生物がそうして来たように、人類の後継者たちは、飛躍的な進化を遂げたのだった。

では、前者を選んだ者たちはどうだろうか?保護されなければとうに絶滅したであろう罪深き者たち。未だに古臭い感性・・・怒り、悲しみ、憎しみ、喜び、愛、欲求、願望、理想、不安などなど・・・けっしてその高い知能に似合わない感情というものは、彼らがかつて生物と呼べる存在であった名残だろうか?

まあ、良い。それは美しいのだ。宇宙に存在するほとんどの存在がその意味を感知出来ないこの情報は、彼らにこそ相応しい。

さあ、残された矮小なる人類の末裔よ。本能の赴くがままに戦うが良い。全ては私が提供しよう。

ん?君はこの私の行動の意味を問うのか?では逆に問うが、君はこの世界において、どれほど意味のあることを成したのかね?

名言を生み出した哲学者。世の理りを解明する学者。人々を束ねた政治家。感動を与える芸術家。凡人を救った英雄。彼らは人類という小さな小さな存在の中の、ごく一部の人々の人生を動かしただけだ。それもほとんどの場合は悪い方向へ。所詮人の為せることは限界がある。世界のすべてから観ても、極小から観ても、それは余りにもたいした事はなく、無意味なのだ。

まあ、他者の評価を糧にして生きる生物の不思議な質問としてとらえておこう。

君はどうするかな?全て整っているぞ。人類の欲望を満たすための、優越感、快楽、欲望。大概を叶えられる。

それなら無意味でも参加するか?実に人間らしい回答だな。

良いだろう、案内しよう。彼らの世界へ。




「player」





空を見上げれば、そこには見た目は小さな人工の球体がある。その球体が、宇宙空間に浮かぶ直径3500kmの巨大なコンピューターで、全人類の知能をはるかに上回る能力を持っているなど、理解はできていても容易に想像できるものではない。

つまらないのだろう、我々は。とうの昔に自らが生み出した機械に自分自身が越えられ、なんとも言えない寂しさを感じている。

僕は、砂浜に来ている。空は良く晴れており、人類の築き上げた巨大な構造物が、幾つも宇宙に伸びているのがよく見える。空色の海水は、小さな小魚の群れと共に輝き、打ち寄せる小波を浴びて濡れた砂の不快な感触は、自然特有のものだろう。そんなどうでもいいようなことを考えながら、自分の前歯に埋め込まれた通信端末にフルーツの注文をする。

僅かな時間をおいて、小型のロボットが、バケットに盛ったフルーツを持ってきた。その中から、リンゴを取り出し、光沢のある果実にかぶりつこうと思った瞬間、手を止めた。旧約聖書に描かれているアダムとイブの物語を思い出したからだ。

我々の住んでいる世界は、まさにエデンだろう。色とりどりの果実を思うがままに食し、一切の労働なく健康かつ安定した生活を送ることが出来る。そんな世界に住んでいる人類に、また知恵の実とかいう詐欺まがいの存在を紛れ込ましたのではないかと・・・・

僅かな恐怖は口の中に含んだ甘い果汁が忘れさせた。きっと、我々の祖先が犯した罪は許され、住むことがたのだろう。与えられたのではなく、自ら作り出したエデンに。

そもそも神は、我々の存在を許しているのだろうか?自らの力によって生み出された子孫「コンピューター」によって育まれ、特に発展することなく停滞している私たち人類は、むしろその存在価値は無いに等しいかもしれない。

それでも、永らく生き続けている人類とはなんだ?変化を拒んだ我々は、多くの者たちと異なり外宇宙に進出したわけでもなく、デジタル化したわけでも無い。ただ、「ホモサピエンス」という種族に進化してから約1億年、ほとんど姿形を変えることもなく、その攻撃的、貪欲的な性格は一向に変化しないまま今に至る。地球を我々にとって住みやすい環境に改造し、エネルギーや食料が無造作に手に入る状況を整えた。人工の増減も無い上に、かつて無数に繰り広げられた理不尽な死は、今となっては過去の悲劇でしかない。結果生まれた超安定化社会は、人類から冒険心と向上心を奪った。この変化の無さは何を暗示しているのだろう。

かつてのバイオテクノロジーによって拒まれた人類の進化は、結局空虚かつ膨大な時間を作り出したに過ぎなかった。

ああ、やはりつまらない。我々は現状維持では満足できないのだ。しかし、進歩する自由を奪われた人類に、もはや現実世界での欲求不満がはらされる事はないだろう。

現実世界では。

1億年積み重ねてきた現実世界に対する絶望を気にすることはない。なにも、この世界だけが我々の住むべき場所ではない。その試みは、最初は想像という形で、次に文章として、絵画として、さらに映像として、コンピューターによる仮想空間として・・・・

今、演算された現実世界のコピーが手元にある。それは小さな空間「量子力学」から大きな空間「宇宙」までが、現実世界に則って作られた物だ。時間は生成当時、高速で変移していたが、空間生成・・・ビッグバン・・・から137億年、人類世紀で西暦2000の地点でゆっくりとした流れに変わった。

この世界は、人類が見つけた法則すらも書き換えることが出来る。たとえば・・・ここに1つのリンゴがある。これを次の瞬間一匹のネズミにする事も、強力な破壊兵器にする事も出来る世界。

自由でしかない世界。制約はない。法律も、法則も、義務もない。その上で、闘うことができれば?人間の存在の証明。闘争心の解放という傲慢な欲望を満たしても、誰も不幸にしない。そんな世界に今から僕は、挑むことになるだろう。すでにplayerは10億を突破している。そこに今から僕も挑む。その為に、ここにやってきたのだ。

そして世界は動き出す。自分にとって都合の良い世界へ、現実から離れ始める僕の意識は、仮想空間へ向かって行く。

先ほどまでに自分の目に映っていた世界はぼやけて来る。青空が混沌とし、きらめく濃霧の中で眠りに落ちるようだ・・・・

そう、まるで夢だ。たまに見る現実的すぎる夢なのだ。こちらの世界からあちらの世界へ、思考するのが億劫になる。あぁ・・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ