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3話 彼の家編

最終回です。

お楽しみ頂ければ幸いです。


「おはよう百合子」

「...おはよう謙一君」


あれから謙一君は毎日私の家まで迎えに来るようになった。

...一緒に帰らなければ良かった。


そのせいで学校では注目の的になっている。

彫刻のように整った顔に潤いたっぷりの艶やかな髪、華やかな笑顔。

そんな彼はやはり学校の人気者であったようだ。

友達が少なくその全員が喪女だし、私達は俗世のことに興味もないから知らなかったがファンクラブもあったようだ。


まぁやっかみとか色々あったがそんなことよりとんでもないことになった。

それは...




「...大きな家ですね」

「うんまぁ、でもそこまででもないよ」


私の目の前には豪邸があった。それを死んだような目で見詰める。

ここは彼の家であった。

何故か私は彼の家にお邪魔することになったのだ。

全くもって嬉しくない。

「僕だけ君の家に招待されたなんて不公平だよね? 僕のうちにもおいでよ!」

「いや、いいです」

「遠慮することないよ、おいで」

「いや、い...「おいで」

...そんな押し問答の末今に至る。


「男の家になんて上がったこともない百合子だから緊張するのも分かるけど、ほら入って入って」


彼に先導されるがまま門を潜る。

フェンスや門は白く、上部がハート型のような可愛い形をしている。

流石に漫画なんかであるような門から家まで車で何十分なんてことはないが、門から家まで10mはある。

庭には色とりどりの花が沢山咲いていて綺麗だし、敷石は茶と白の煉瓦で可愛らしい。

だが、物凄く居心地が悪い。

初めての男性宅、しかも豪邸ということでめちゃくちゃ緊張しているからだ。

今すぐ帰りたい...


「ただいま母さん、彼女連れて来たよー!」

「はいはいはいはいはーーーーい!!」


彼が玄関の扉を開け中に声を掛けるとドドドドと凄い音が聞こえ物凄い美人が現れた。

謙一君に似て整った美しい顔に艶やかなブラウンの髪。肌は謙一君より色白で顔の作りもハッキリしてるし、ハーフか外人さんかもしれない。

その人は私を見ると固まった。

当たり前だ。こんなデブスを息子が連れて来るなんて夢にも思っていなかっただろう。

私は冷や汗ダラダラだ。

なぜ来てしまったのか、今すぐ帰りたい...


「母さん...」

「あっ、ごめんなさいね! どうぞ上がって!」


謙一君が低い声を出すと、その途端お母さんは再起動し慌てて私を家に招き入れてくれる。

お母さんと謙一君の後に続いて家に上がると広いダイニングキッチンに通され驚いた。

私は家が炬燵なので椅子に座るダイニングに憧れてたんだ。

しかもペニンシュラキッチンの対面式で片側が壁にくっついている。対面式も憧れてたんだよねー。

お隣の部屋はリビングのようでソファーがある!!

ふかふかしてそうなクリーム色のソファー! これも欲しかったんだー♪


「可愛いな」


ハッとなり隣を見ると優しげに私を見る謙一君がいて恥ずかしくなって俯く。

どうも憧れの品の数々に見惚れていたようだ。ぼーっと突っ立てた、反省。

お母さんにはクスクス笑われて、顔を真っ赤にしながら椅子に座って縮こまった。


「謙一が惚れたのが何だか分かるわ~、百合子ちゃんってとっても可愛いのね~」


ニコニコしながら私のことを見ているお母さんに落ち着かない。

こんなに綺麗な人に、こんなに褒められるなんて慣れてなくて益々俯いてしまう。


「その辺でいいでしょ、早く夕飯用意してよ」

「はいはい、分かったわよー」


底冷えするような声を出す謙一君に驚いて肩が跳ねてしまったが、お母さんはニコニコ嬉しそうだ。

慣れてるのかな?

そのままキッチンへと行って料理をしている。

私が恐る恐る謙一君を窺うと、彼は困ったように私を見ていた。


「ごめん、怖がらせたね。ちょっと母さんに嫉妬した」

「?」


お母さんに嫉妬? 私にお母さんが取られて嫉妬しちゃった?

謙一君ってマザコンなのかな?

そんな私の思考を読んだのか彼は嫌そうな顔をして言った。


「本当百合子って鈍いよね、頭が悪いのは知ってるけど本当どんくさい。

百合子が僕じゃなく母さんに照れてるから嫉妬したの! それくらい分かるでしょ?

...そういう可愛い姿は僕だけに見せてよ」


私への悪口が続いてイライラしてたら、何か急にデレた!!

そっぽを向いて顔が赤いのを隠しつつ最後の一言をボソッと言うから私まで真っ赤になっただろ!

恥ずかしくて顔を上げられません... なんでこの男は時々急にデレるんだろ?

そうして恥ずかしくてお互い沈黙して過ごしていると、コトッとテーブルに食器を置く音がして顔を上げた。


「あらやだ可愛い青春よねー♪ もうすぐ夫と謙二が帰ってくるからそれまでにしとくのよー。

謙二に見られたらからかわれちゃうから」

「うっせーよ、どっか行ってろ!」

「やだ反抗期かしら、可愛くなちゃってー♪」


お母さんが戻ってきて私達をからかうから、謙一君が本気で苛ついてそうだ。

何かこういう姿って新鮮だよね、普段の様子を見てるのかなって。

まぁ、謙一君の場合は怖いからあまり見たくないけど...

お母さんは流石と言うか、全く臆せずからかってる。

謙二君は確か中学生の弟さんだ。

もうすぐ帰って来るなんて言われると不安になってくる。

中学生なんて多感な時期でしょ。私の姿を見たら何を言われるか...少しでも覚悟しとかないと。


そんなことを思っていると玄関を開ける音と「ただいまー」という声が聞こえた。

お母さんは嬉しそうに「はいはいはいはいはーい!!」と行って玄関まで駆け出した。


そうして戻って来ると痩せた弱そうな男性を連れて来た。

...地味な感じだけどお父さん?

その人は私を見て驚いていたけど、すぐにニッコリ笑って「今晩は」と挨拶してくれる。

その表情は優しげで、地味な顔もあり親しみやすい。

謙一君の美形なのに親しみやすい所はお父さんに似たのかな。

「今晩は」とお父さんに返事を返していると、「まじかよ兄ちゃんの彼女来てんの!? すっげー美人だろ!!」なんて何だか騒がしい声と音が聞こえて身構える。


廊下の扉を開けて現れたのは、思った通り謙一君とお母さんによく似た綺麗な少年だった。

彼は私を見付けた瞬間固まり動かなくなる。


「...謙二」


呆れたように謙一君が声を掛けると謙二君は再起動し、叫んだ。


「前に連れてたあの美人はどうしたんだよ!? 何このオーク! !

どこのファンタジーだよ、いらねーよ! 連れて来るならエルフだろ!!」


物凄く失礼な発言なんですけど。謙二君、私のどこがオークだって?

私は眉間に深い皺が寄るのを止められません。


「何言ってんだ謙二! どこからどう見ても豚だろ!

養豚場で育てられた丸々と太ったいい体してんじゃねーか!!

それと百合子の前で元カノの話しなんかすんじゃねーよ!!」

「あぁ豚だね! でもこのレベルは唯の豚じゃねー、オークだよ!!

なんであの美人フッてこのオークと付き合ったんだよ、頭蛆湧いてんじゃねーの!!」


謙一君は何なんだろね、この人私を馬鹿にしてんの?

なんで豚かオークで言い合ってんの? 私、そこまで太ってないし! 太ってないよね!?


「オークオーク言うなよ、段々オークに見えてきたじゃねーか!! どうしてくれんだ!!」

「そりゃどう見てもオークだからだろ!! なんであんなオークと付き合うんだよ! 襲われるぞ!?」

「襲われ!? ...っくそ! いいじゃねーか逆レイプ興奮する!!」

「!!? しっかりしろよ!! 兄ちゃん女騎士じゃねーだろ!!」

『言い加減にしないか!!』


お父さんの怒鳴り声で場がしんとなった。

そんな静かになった場で私の啜り泣く音だけが響く。

誰もがばつの悪い思いをする中で、お母さんだけがお父さんにキラキラした瞳を向けていたのを私は知らない。


「...ごめん百合子、俺は例え百合子がオークでも愛してるから」


すげーよお前、まじブレねーな!!

ジト目で睨むとなぜか頬を染める謙一君に苛つく。


「本当にごめん、俺まじで百合子の前だと何時もの調子が出せなくて失言ばっかりでさ。

緊張して思ったことそのまま言ちゃって傷付けて... でもその分必ず幸せにするから。...約束する」


緊張してたの!? あの毒舌わざとかとずっと思ってた。

でも思ってたことそのままなんだね。本当に思ってることなんだ...

彼の言葉に驚いてマジマジと凝視してしまうと、恥ずかしそうに顔を逸らされた。

おい!?


「...そんな潤んだ目で見詰められるとムラムラする...っいて!!」


ゲシッと思い切り足を蹴ってやった。

この状況でその台詞はないよね、どん引き。


「...ごめんね百合子ちゃん、うちの息子が馬鹿で」

「いいえ、お父さんのせいじゃないですよ。謙一君がおかしいだけです」


謝罪してきたお父さんにニッコリ笑って返事をすると、謙一君がお父さんを睨んでいたので睨み返してやった。

でもそうしたら頬を染めて赤くなるので本当に苛つく!!


「うあぁぁぁーー!! 俺の、俺の自慢の兄ちゃんが!!」


そう叫んで床に蹲り咽び泣く謙二君の姿は凄まじい憐憫を誘った。





彼の家で夕御飯を頂き家に帰ろうとすると謙一君が付いて来た。

送ってくれるらしいけど、あんなことがあった後だし気まずい...

唯、一つだけ言っておきたいことがある!


「私は豚でもオークでもありません!! 人間ですから、に・ん・げ・ん!」

「...分かってるよ、本当にごめん」


辛そうな顔で謝罪してくるが許さないぞ。

自分の彼女をオークって言ったんだぞこいつは、オークって!!

彼は俯くと前髪をくしゃりと握りしめて呟いた。


「本当は百合子を家族に紹介して結婚の許可を取りたかったんだけど、そんな雰囲気じゃなくなっちゃって...

うちの家族ならすぐOKしてくれそうだし先に攻略しとこうと思ったんだけどなぁ」


おぃい!? えっ、何しようとしてたのこの男!?

俯いて悲しそうな顔をしてると凄く絵になるけど言ってることおかしいよね!?


「まだ百合子の気持ちを得られてないから焦ってたんだ。

結婚だってまだ学生だからすぐには出来ないし、既成事実作るのは百合子の両親に嫌われるから最終手段だし、せめて婚約でもしとこうと思って...」


おかしいよね!!?

結婚も既成事実もないよ! 婚約もないけど既成事実作られるよりはよっぽどましだわ!!


「け...謙一君のこと、それほどでもないけどちょっとは好きだよ?

だからそういった恐い考えはよそう。ね?」

「百合子...」


恐ろしい考えを改めてもらえるように出来るだけ優しく語りかけると、謙一君は感動したような顔をした。

それから「嬉しい」と頬を染めて微笑むから危うくノックアウトされそうになった。

危ない、この男にときめいたら色々終わりだ。


「絶対結婚しようね」

「......考えとく」


嬉しそうな顔で恐ろしいことを言われ、なんとか誤魔化すが彼は黒く微笑んだ。

その顔に背筋が冷え怯える私に、更に恐ろしいことをのたまった。


「結婚してくれるって約束してくれないなら既成事実しかないかな?」

「結婚します!!」


困ったように眉根を寄せながら可愛く小首を傾げて言われ、同意する以外になにが出来ただろうか...

謙一君は輝くような笑顔で大喜びした後、急に近付いて来てチュッと音をさせて離れていった。

頬を染めて微笑むその顔を、真っ赤になった私は口元を押さえて俯くだけで睨むことも出来なかった。



如何でしたか?

個人的にはもっと謙一君には毒舌を披露してほしかったですね。

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