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2話 彼女の家編

ようやく私の家に着いた。

これで彼と別れられると安堵していたのに...


「えっと...?」

「え? 家族に紹介してくれるんじゃなかったの?」


「それじゃ」と彼に別れを言って私が家に入ろうとすれば、なぜか彼も付いて来る。

その疑問を声に出せばとんでもない発言が返ってきました。


...出逢ったその日に家族に紹介とか、普通ですか!!?

私は絶対おかしいと思います!

なのになんでそんなうるうるした目で見るんですか。

あなたがおかしいんですよ! ここはさすがに認められません!!


「ごめんね、両親は共働きでいないから...」

「そっか、じゃあ帰って来るまで二人きりだね!」


何とか諦めさせようと言った言葉にとんでもない言葉が返ってきました。

入れねーよ! なんで入る気マンマンなんだよ!!


「ご、ごめんね、家散らかってるか...」

「そんなの気にしないから大丈夫! 何なら一緒に片付け手伝うし」

「けっ、結構です! そんなことお客様にさせられません!!」


家が汚いから帰って作戦はあえなく失敗。

その上掃除手伝うなんて無理!! 他人に触られたくない!!


「そっか残念。じゃあ部屋で大人しくしてるね」

「いや、それは...」


...そうして終始笑顔の彼は、結局家の中へと上がりこんだのでした。





「意外と家は綺麗なんだね」

「...えぇまぁ、どうぞ」

「ありがとー。ほら百合子もここ座って!」


私達は今、我が家の居間にいる。

和室に大きな炬燵がドンッと置かれた居間で、炬燵に、なぜか隣同士で密着するくらい近い位置に座っている。

私はもちろん対面にそれぞれの座布団置いたんだよ!

そしたらこの男、座布団持ってきて私の隣に置いたの!!

頬を染めながら「一緒がいいな」って!

だから全く落ち着かない。


「百合子の家って和室なんだねー、すごく落ち着く。

地味な感じが百合子みたいだから癒されるのかな?」


お茶を飲みながら和室をキョロキョロする彼の様子を見ていたら、また引っ掛かる言葉が聞こえた。

...地味?


「百合子を初めて見たときはマツコDXだと思ってすごく驚いたんだよねー」

「はぁ!? 私そこまで太ってないよ!!」

「あのときの衝撃は凄かったなー」


私の言葉を無視して突然昔話しを始めやがったよこの男!!

懐かしそうに遠くを見詰めて微笑んでるのがまたむかつく!!


「二重顎とか三段腹とか嘘だろうって何度も見ちゃって、あまりのインパクトに忘れられなくなってさー。

これが恋なんだなーって気付いたよ」

「それは恋じゃないと思います!!」


とんでもない誤解をしてるよこの男!

それが恋なら私を見た男はみんな私に恋してることになっちゃうよ!!

その発想が恐いわ。


「でも百合子が家に一人でいるって知って驚いたよ。

幾ら百合子が男受けしない巨漢デブタイプでも女の子でしょ?

一緒に来てよかったよ」


そう言って優しく微笑み掛けてくるその顔面を殴りたい!

私はデブだけど巨漢デブじゃないし!!

この人大分口悪いよね、段々分かってきたよ。

そんなふうにイライラする時間を過ごしているとガチャっとドアが開く音が聞こえた。


「ただいまー」

「あっ、おかえりー!」


ようやくこの男から解放されると笑顔で母を出迎えに行く。

母は私と似てるけどぽっちゃり地味顔で私と比べれば美人だし、気立ての良い自慢の母親だ。


「あら珍しいわね、百合子が出迎えてくれるなん...」


そのとき母が私の横に視線をやり固まったので、ものすごく嫌な予感がした。

恐る恐る横を見るとそこには謙一君が...


「はじめましてお母さん、僕は永谷謙一と言います。

娘さんとお付き合いさせて頂いておりますのでこれからもよろしくお願いします」


そう言って彼は綺麗に90度腰を曲げてお辞儀をしている。

そ、そこまですることか? しかも本当に挨拶してるし...


「信じられない! こんな綺麗な男の子がうちの娘と付き合ってるなんて...

何かのドッキリなの!?」


暫くして硬直が解けた母はそう言って周囲を探し始めたが、カメラはありませんよ。

母の気持ちが痛いほど分かってちょっと泣きたくなってきた...


「ドッキリなんてとんでもない!

僕はいずれ娘さんを貰いたいと思っています。それくらいの覚悟を持って言ってるんです」


真剣な顔から飛び出した爆弾発言に私と母は固まった。

まだ初日だよね? 付き合って6年とかじゃないよね??

なんでもうそんな考えになってるのこの人!!

理解できないし恐いから! 何なの本当に。

イケメンから告白されたって最初の段階なら誤解もあっての付き合いだけど、それでも何だかんだで嬉しかったよ。

けど、ここまで来るとひたすら恐い!!

何が狙いなの!? 借金背負わされるの!? 奴隷のようにこき使われるの!?


「...本気なのね。うん...うん!

謙一君みたいな素敵な彼氏が出来て私も嬉しいわ!

見た目はあれだけど料理も上手だし良い子だから、娘をよろしくね」

「はい!」


なんか勝手に盛り上がってる!? い、いいのか母よそれで。

母は人を見る目があるからその母に認められた謙一君は信用出来る人ってことか。

うん、...うーん。まぁ、いいか。気持ちは本物だって母が認めたってことだから。


そうして母に気に入られた彼はこのまま夕飯を食べていくことになった。

母と一緒に料理をしていると背後からすごい視線を感じて落ち着かない。

母が「もうラブラブね~」なんてからかってくるから居たたまれない。

食卓に食事を運んでいると「ただいま」と父の声がして、「は~い♪」と嬉しそうに母が返事をして玄関へと走って行った。

うぅ、胃がキリキリしてきた...


謙一君はどうしてるのかと見れば、私と目が合ったことにホッとしたように微笑んだ。

...もしかして緊張してる?


そうして居間へと現れた父は眉間に皺を寄せていた。

母から私の彼氏・・の話しを聞いていたのだろう。機嫌が悪い。

父は私や母のように太ってはいないが、がたいがいいし恐い顔をしている。

なので初見の人には恐がられやすいのだが謙一君はどうだろう?


彼はすっと立ち上がって母の時と同じように90度に腰を折りお辞儀をした。


「はじめまして私は永谷謙一と申します。

娘さんより1つ年上になるのですが、お付き合いさせて頂いています!」


うん、結構緊張してるみたいだ。

そして私より年上だったらしい。先輩って呼んだ方がいいのかな?

しかし父のリアクションがないな。

母が「お父さん」と言って父の背中を叩いている。


「あぁ。まぁ掛けたまえ」


そんな風に言って彼に座布団に座るように促しているが父よ、お主も緊張しているな!

うちの父は強面だけど性格は温厚だし緊張しいだ。

内心では焦ってると思う。


そうして食事が始まったが誰も話し出さず気まずい空気が漂う。


「...娘とはどれくらいの付き合いになるんだ?」

「まだ1日です」


いきなりの父の不味い質問に平然と返す謙一君。お陰で父母共に唖然としている。

そんな空気に気付いていないのかそれとも鋼の精神なのか、彼は平然と語り出した。


「2年前から僕が片想いしてたんです。初めて見た時からずっと気になっていて...

それで今日思い切って告白して了承してもらえたんです。

あんまりにも嬉しくて、こうしてお宅にお伺いしてしまいました」


頬を染めながら恥ずかしそうにしているが、初日に家に行くのがおかしいって認識はあったんだね。

それと初めて見た時に気になったのは絶対に恋じゃないぞ。

今の気持ちも怪しいが。


「そ、そうか」

「嘘、謙一君の片想いだったの!? しかも一目惚れ!!

やだわ百合子ったら羨ましい!!」


父は返答に困ってるし、母は興奮したのか炬燵に身を乗り出してくるからちょっとうざい。

私に一目惚れしたんなら謙一君はデブ専ってことだけど、それでいいの?


「でも謙一君モテるでしょう。本当にうちの子でいいの? 後悔するんじゃない?」

「告白されたことは何度もありますが、自分から告白したのは初めてです。

それくらい本気なんですから後悔なんてしませんよ」


母の質問に当然のように答えてるよこの男。

その自信に満ちた態度に私の口元はひくつく。よく見れば父も同じような顔をしていた。

母だけは益々興奮したようで一人盛り上がっている。


「うちの子のどこが好きなの? 一目惚れってことは...まさかの顔!?」

「顔もありますが、何より豚さんみたいで可愛かったんです!

僕は豚やハムスターとか丸っこいものが好きなんですけど百合子さんの丸々とした体も薄ピンクな白い肌も、短く潰れぎみな鼻も、くるんとしたポニーテールも豚の尻尾みたいで可愛いんです!」


突然ハキハキとはしゃぎ出した謙一君に、さすがの母も引いている。

この人デブ専だっただけなんじゃ!? それにしても酷い言われよう...

この男本当に私のこと好きなの!? 腹立つだけなんだけど!




...そんな感じで夕飯も食べ終え、お帰り頂くことになった。


「それじゃ、また明日ね百合子」

「はい! それじゃまたね謙一君。あっ、先輩って呼んだ方がいいですかね?」

「先ぱ... っ、いや、今まで通りでお願いします!」


漸くいなくなってくれることが嬉しくてニコニコしながら手を振り見送る。

彼はそんな私を見て困ったように眉尻を下げながらも微笑んでいたが、私が先輩と言うと目を見開き驚いていた。

そうして暫く俯いて片手で顔を覆っていたが、「今まで通りで」とお願いされた。

よかった。この変人を先輩扱いせずに済んだ。


「駅までちゃんと帰れる?」

「...ん、大丈夫。心配してくれたの? 嬉しい」


彼がちゃんと駅まで帰れるか心配だが付いて行く気はない。

だが一応駅まで行けるか聞けば、ずっと俯いていた顔を上げ「大丈夫」と返事をした。

「嬉しい」なんて、本当に嬉しそうに笑うから私の顔が赤くなってしまったではないか!!

慌てて顔を隠そうと俯くと、頬に手を当てられビクッと肩が跳ねてしまった。

そして「可愛い」なんて小さな呟きが聞こえて恥ずかしくて更に俯こうとしたが、頬に触れていた手に力を入れられ阻止される。

恨めしくて睨みつけると何かが急に近付いてきて思わず目を瞑った。

すると額に何かが当たって、驚いて目を開けると自分の唇に人指し指を当てる謙一君がいた。


「今日はこれくらいで我慢しとく」


なんて、頬を染めながら悪戯っ子のように笑われて...キスされたんだと気付いた。

呆然とする私は、去って行く彼の背中をただ黙って見送った。



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