年末の友達の話
今日は十二月三十一日、年末だ。
一年間の締めの日として、皆は家族と過ごすだろうか? 彼氏、又は彼女と過ごすだろうか?
因みに、僕は一人で過ごす。
今年成人し、一人暮らしの身。
彼女はできる気配もないし、家には仕事で帰れなかった。
だから……一人で過ごす。
悲しいけれど、仕方あるまい。
これからはこんな風に何年も過ごすのだし、この悲しさにも慣れなければ。
さて、年末の歌番組も終わりに差し掛かり、僕がズルズルと年越し蕎麦さながらの、年越しうどんを啜りながら、今年も終わりかと干渉に浸っていると、微々たる振動音が聞こえた。
携帯の着信音である。
両親には連絡を済ませたし、誰からか全く見当もつかないけれど、一応出てみる。
もしもし、という声が聞こえ、その主が分かった。
僕の唯一の友達だ。
それに対し、僕も、もしもし、と返す。
「お前、今暇か?」
「うん、まぁ暇だけど」
「それなら良かった。俺も暇なんだよ。ちょっと話さないか?」
「いいよ」
僕も暇だし、丁度よかった。
「んー、まぁ話って言ってもつまらないことというか、ただの自分語りになってしまうんだけど……いいか?」
彼は遠慮がちに僕にそう尋ねる。
「因みに聞くけど、どんな話?」
「嫌だった話かな。今年は厄年だった」
「ふーん……」
僕が適当にそんな相槌を打つと、「それで……話していいか?」と再度、彼は僕に聞く。
「うん、厄年というくらいだし、相当嫌なことがあったんだろう? 全部話して忘れればいいさ、遅めの忘年会ってところかな?」
「二人しかいないけどな」
ハハッと二人で笑い、少し間を空け、彼は話を始めた。
「えーっと……じゃあ一月からだな。これは確かお正月の時だ」
「お正月……か。餅を詰まらせたとかかい?」
「そんな軽いことじゃあねえよ。もっと酷いことだ」
「家が爆発したとかかい?」
「それは重すぎだ!」
それもそうだ。
「大体だなぁ……家が爆発するなんてこと滅多にないだろ。燃えるとかならまだしも、爆発って」
彼は呆れるようにそう言う。
「そうかな? 某国民的アニメでも家が爆発する回があったことあるんだよ?」
「嘘だろ⁉︎ なんだそれすげえ気になる」
思ったより食いつきが良いな。
こいつ魚なら生まれた途端に釣られそうだ。
そして即リリース。
「うーん、まぁ詳しくは調べればでると思うけど、僕はそれより君の話の続きが気になるな」
「ああ……うん、なんか大したことないような気がしたからもういいや。二月三月は何も無かったし、次は四月の話していいか?」
「いいよ」
話の続きが無駄に気になるけど、まぁいいだろう。
「四月、俺に彼女が出来たんだよ」
「へ? 本当かい?」
こいつ……女っ気なんか無かったと思うけど、いつの間に……。
羨ましい。
「それで、その彼女がさ、傘が欲しいって言うんだよ」
「うんうん」
「買ってくるだろ? 折られた」
「折られたの⁉︎」
どうやって折るんだ? 笠なんて……。
「あぁ、最悪だよな。それでその女、もっと私に見合う高貴な傘を買いなさい! とか言うんだよ」
「へぇ……それは大変だろうね」
高貴な笠って……どこに売ってるんだろうか?
「そりゃあ大変だったよ。どんな種類を買ってきても駄目、どんな色を買ってきても駄目って言うんだから」
「色? 最近の笠って色とかあるのかい?」
「最近も何も傘に色があるのは当たり前だろ?」
「当たり前なのっ⁉︎」
嘘だろ……?
僕の知らない内に随分、笠は進化したもんだ。
「ん……? 何を言っているんだ? お前は」
「いや……別に。それにしても変わってるね、その彼女。笠を買ってこいだなんて」
「んー、まぁそうだな。傘って別に人に頼んでまで買うもんじゃないからな」
「まあどこに売っているのかわからなかったのかもしれないよ。笠なんてどこにでも売ってる訳じゃないんだし」
「は? 傘なんてどこにでも売ってるだろ?」
へ……? 笠ってどこにでも売ってるの?
そんなに笠って流通してるの?
もしかして笠ブームとか来てたの?
「うーん……まぁじゃ続き、話してよ」
「ああ、いいぜ。それでな。その彼女とは面倒臭いから別れたんだけどさ、あ、こっから先は七月の話だぜ?」
「はぁ……七月、随分跳ぶね」
「それで、七月にな。その彼女と図らずも再開しちまったんだよ」
「ふーん、それで?」
「んあぁ、そいつ、ビニール傘を持ってやがった」
「ビニール笠……? そんな安上がりな笠があるのかい?」
「んあ? お前知らねえのか? 金持ちかよ」
金持ちじゃあないけど知らないよ……。
「まぁいいや、続きどうぞ」
「ああ、それで俺、超腹立ったんだよ。だってだぜ? 傘なんてどうでも良かったんだぜ? 俺と別れる口実を作りたかっただけなんて酷すぎるだろ」
「確かに……酷いね」
「それで俺はそいつに近づいて言ってやったんだよ。ふざけるなよ! ってな」
「おお」
「それで彼女、なんて言ったと思う?」
「ん?」
「口が臭い……だってよ」
「…………ふふっ」
おっと、つい笑ってしまった。
「お前今笑っただろ?」
「そ、そんな訳な……HAHAHA!」
「思いっきり笑いやがった⁉︎」
「いや、だって……口、臭いって……くはっ、ちょとまってやばい、過呼吸になる」
そう言ってそこそこ笑った後、「さて、それで続きは?」と僕は言った。
「いや、もう良い……それで終わりみたいなもんだ。次は十月の話だ」
「十月……ねぇ」
「十月……と言えばハロウィンだけどさ。今年のハロウィンってみんなやけに張り切ってたろ?」
「ああ……うん、そうだね。一部ではゴミが大量に地面に落ちていたとか」
「んあぁ、ああいうのは良くねえよなぁ」
全くである。
盛り上がるのも、楽しむのも結構だが、その辺の処理もしなければいけないだろう。
「それで、ハロウィンでどうかしたの?」
「ん、あぁ……被り物したんだよ」
「へぇ、被り物……なんの?」
「某国民的アニメのだよ」
爆発したやつかな?
「それで、被り物をしてどうなったのさ」
「いや、どうなったというよりさ……」
「うん」
「被り物だから、密閉されてるだろ?」
「うん」
「俺の口、やっぱり臭かったわ」
「…………」
その後、僕が大爆笑したのは言うまでもないだろう。
「それで十二月の話なんだが」
「へえ、今月も何かあったのかい?」
「ああ、友達と話してたら、今年が終わっちまった」