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異界渡りシリーズ

時の勇者とマグノリア

作者: 星宮雪那

マグノリアは、魔物の襲撃で孤児となり。

勇者国広に拾われた。


小さな小さな声で、助けを呼んだ。

「誰か…たすけ…。」

魔物の大群にやられて住んでいた村は壊滅。

余りに急な襲撃に、魔物除けの柵など焼け石に水とばかりに簡単に打ち破られ。

小さな食糧保存庫が申し訳程度に地下の、いや、床下をくり抜いた場所にマグノリアは隠された。

小さな村の食堂兼我が家には、そこ以外隠れられる場所など無かったし。

「いいかい、可愛い私達のマグノリア。

よくお聞き。

お前はここに隠れなさい。外が静かになるまで、中から鍵を開けて出てはいけないよ?」

「でもでも、パパやママは?」

抱きしめる両親の力が強まる。

母は震えて居たから、何か恐ろしい結末が幼心にも感じられた。

この温もりから離れたく無くてグズる。

しかし、眠りの術で即座に意識が途切れた。

両親はそんな私に口付けて。

愛してるよと何度も囁いて居たのを、夢見心地で今でも覚えている。

鍵は外からは魔法で、中からは手で開けられる仕掛けだった。

目覚めた時、外の激しい音が静寂に包まれていて、生き物や命の音がしない。

密閉した場所なのに、薄っすらと焼け焦げた様な、異様な臭いまで漂ってきて、恐怖と寒気を覚えた。

外に出たいのに、出てはいけないと本能が知らせてくる。

次に困ったのは、地下の扉の上に瓦礫が乗ったのか、意を決したのに、幼女の力では動かない。

半泣きになって扉を叩き、声を張り上げる。

「誰か!助けて。

あかないの誰か開けて!」

けれど誰も来ない事にさらに半狂乱になる。

「パパ!ママ!お願い、助けて!」

数刻叫んで声が枯れ。

扉を叩き続けた手から血が滲む。

魔物に外の人達がやられたんだと嫌でも気付いて、某然と脱力し絶望した。

こんなところで一人取り残されて死ぬなら。

両親と一緒が良かった。

どんな事をしてでも、一人娘の自分を生き残らせたかった両親の気持ちなど、この頃分かるはずもなかったのだ。

喉が枯れて泣き声すら出せず、涙がボロボロながれる。

そして泣き疲れて少し寝てしまった。

暫くして、何かの気配がして、次に足音がした様な気がした。

ビクッと震える。

魔物が戻って来たのだろうか?

「怖いよ、パパ、ママ。」

小さな呟きに反応して、足音が又近づく。

「誰か!まだ生き残って居るのか?」

大きな声で、若い男の人が叫ぶ。

人が来たんだ。

そう思って、扉を叩く。

掠れた声で助けてと言いながら。

瓦礫をどかし、扉をこじ開けた人は、15歳程の黒髪黒目の異国風の人だった。

優しく強いその人が、異世界から召喚された勇者様だと少ししてから知った。

普段は優しく大人しいのに、戦闘になると別人みたいに強くなる。

無理やりこの世界に呼ばれ、魔王を倒せと言われたらしい。

だからなのか、夜中一人で泣いていたり。

遠くを眺めたりする事が多かった。

孤独で寂しいのだろうか。

魔物も見知らぬ世界も人も怖いのだろうか。

彼を召喚した国の人達は、そんな彼を気遣うふりして催促するのだ。

与えられた彼の護衛、というかパーティーメンバーとは距離感がある。

一月程共に居たまだ八歳程の私には、多少心許してくれたのか。

眠ると怖がり泣く私を、抱き枕の様にして寝てくれた。

彼こそ泣きたかったのだろうに。

一月後、壊滅を免れた大きな街の孤児院に、私は預けられた。

危険の多い旅に、子供は邪魔だからなのか、同行者達が彼から私を引き剥がした。

一月も有れば情も湧く。

私は泣きじゃくったが、困った顔で勇者は私の頭を撫でただけだった。

再会の約束すら不安定な今は、口に出せなかったのだろう。

それから一年、私は孤児院の隣の教会で、勇者の無事を祈り続けた。

風の便りで、仲間が連携無視して、時々脱落者した者もでたらしい。

スペアをすげ替える様に、新しく仲間が増加されたらしいが、彼らは危機感が足りないのでは無いだろうか?

以前同行した時も、どこと無く勇者に丸投げしている。

サポートもロクにしていない様な気がした。

勇者の心を閉ざしたのは、彼らの責任だ。

無関係の部外者に、無理矢理過酷な試練を課すのだから。

其れなりに真心込めた対応しなければ。

こちらの願いなど、無視される。

そう、勇者に縋らなければ生き残れないからの召喚にだから。

命令しても無意味だ。

召喚した意味が無いだろうに。

従順さだけを求めても、碌な結果は出ないだろう。

彼が悪辣な人なら、王様達は殺されて居た事すらわからないみたいだ。

異世界召喚した勇者だけが、魔王を倒せる。

この世界の人は倒せない。

子供にも分かる構図だ。

だからこそ、神の罰として魔王が産まれたのでは無いか。

と思う程に誠意が足らなかった。

せめて私だけは、勇者のお兄ちゃんを助けたい。

そう願い続けていた。

そんなある日、教会で祈りを始めた途端、私のおでこが光った。

それを見たシスターが慌てて神父を呼ぶ。

光が収まった頃、おでこには女神の花印。

マグノリアの紋様、いや聖痕が、淡く輝くように刻まれていた。

奇しくも私の名前と同じ花の名前。

マグノリアはユリに似ている花だが、大抵赤が多く。

女神のマグノリアは白みがかった淡いピンク色で愛らしいのだ。

勇者が私の名前に驚いていた。

異世界のマグノリアは、別の花らしい。

それを見せたら余計に驚いて。

異世界なんだな、と淡く笑った。

彼が私だけに見せる、優しい微笑みだ。

私の勇者様。

ああ、なんて甘美な響きだろう。

聖痕は女神の使者。

聖女の証。

やっと貴方を助けに行ける。

それから一年修行して、勇者に追いついた。

私は十歳、勇者は17歳になって居た。

私の淡く輝く聖痕は、サークレットの下で見えないが。

薄い桜色の様な淡いピンクの腰まで伸びた髪と同じ色で輝いて居る。

再会した時、私が真っ直ぐ見つめ、再会に幸せそうに微笑むと、勇者が少し赤くなって動揺していた。

私は教会や孤児院と言う閉鎖的環境に居た為知らなかったのだが。

飛び切りの美少女に成長して居たらしい。

無邪気な微笑を、仲間から向けられる事も無かったらしく。

距離感を掴めなかった様だ。

「私だけは、絶対勇者様を信じ、裏切らないわ。

貴方の助けになりたくてここに来たの。」

そう何度も何度も、彼にだけ聞こえる様に様囁いた。

心を閉ざした彼に信じさせるなら、真心込めて目の前でそれを実証しなくてはならない。

聖女のサポートは、彼の怪我を減らし。

心の傷も癒していった。

他の仲間達にもクドいほどに進言する。

「助かりたいなら、勇者様を信じ支え。

真心見せなければ、彼はこの世界を見限るでしょう。

魔王だけで無く、勇者も敵に回したいの?」

初めは庶民の戯言と思ったのか、相手にされ無かった。

そう言う人に、私はサポートをし無い。

勇者の傷は全て治し、サポートを怠らなかった。

聖女のサポートは女神のサポートだ。

それの有るなしの違いを痛感したのか、折れた人にサポートを緩く掛け。

反省した人には勇者様同様にサポートした。

私の意思でも有るが、女神の指示でもあったのだ。

かのお方は、折角招いた勇者様の心を憂いておられたから。

これは特権階級への罰でもあった。

それでも、貴族のプライドで反発した人は死にかけた。

私は勇者様と、それを支える人のサポートの為にここに居る。

勇者様が死ねば、いずれ世界も民も死に絶えるのだ。

それが早まっただけ。

まだ騒ぐ貴族に、私は女神の罰を告げた。

女神の怒りと嘆きを告げた。

死にかけた貴族は青ざめ、帰国後国王に告げたらしい。

その後、勇者様への護衛役の人達はガラリと変わる。

私の様に助けられた恩を返しに来た者。

世界の惨状に憂いて、勇者様へのサポートを率先参加したかった者。

能力と貴族地位が高すぎて、将来の為に参加を止められて居た者。

などだ。

もっと前に増やすべき人員だが、やっとこれで形になった。

初めは戸惑いを見せて居たけれど。

仲間が仲間として機能せず、孤独で辛い日々が終わりを見せたからだろう。

これで勇者様は頑なな表情を、やっと穏やかにして行った。

「マグノリアのお陰だよ。

ありがとう。」

恥ずかしそうに、そう言って抱きしめて頭を撫でてくれた。

その頃私は12歳、勇者歳は19歳になって居た。

それから、私は益々女性らしい身体になり、勇者様は年々私に触れなくなって行った。

何か距離を置かれ、少し寂しく思ったが。

仲間が増えて私以外とも関わって居るから仕方ないと諦めた。

しかし、私は知らなかったのだ。

勇者様は、私に女を感じ始め。

余りに懐に入れすぎて、つい不埒な事をしない為に距離を置いた事を。

ストイックな勇者様は、他に女性と事に及ぶ様な事も無く。

闘いに明け暮れた。

魔王の位置が特定出来ず、各地で出現する魔物退治に日々追われた。

そんなある日、私は怪我をした。

勇者に合わせる様、魔物が段々強くなり。

後衛の私が狙われたのだ。

祈りを捧げ術を行使する間、無防備になるのだが。

いつもいた護衛が別の敵に気を取られた隙にやられた。

幸い大した怪我では無かったし、術ですぐに治せた。

けれど、勇者様が凄く心配して来た。

そのままお姫様抱っこをされ、真っ赤になった私に気付かず、宿へ。

そこは部屋が空いておらず、他の仲間は別の宿へ。

私は勇者様と同室になった。

私はもう15になるから、この世界では婚姻可能だ。

軽く熱を帯びた私を看病する勇者様は、気付いて居るだろうか?

婚姻可能な男女が、宿で二人きり。

その意味を。

異世界ではもっと婚姻は遅いらしいから、気付いて居ないかもしれない。

その大きな手が触れるだけで、期待に震え。

子供扱いに嘆く私の心も。

少しして、勇者様が狼狽えた様に赤くなって居る。

無理もない。

熱で汗をかいたから着替えさせようとした手が止まったのだ。

もう大人の女性の身体になった私を脱がせるのは、さぞかし大変だったろう。

仕方なく、私が脱ぐ事にした。

モソモソと起きて上の服と下着を外し、背中を無防備に晒す。

「勇者様、脱ぎましたから背中を。」

「あ、う、うん。」

薄い布越しに触れる勇者様の手は、ゴツゴツとして大きい。

触れるたびに小さな声を出しては勇者様が狼狽える。

私も恥ずかしいが、勇者様も恥ずかしいのだろうか?

少しだけ冒険してみよう。

「あ。」

などと呟き、力が抜けたふりをして、胸元のシーツを取り落とす。

ふらりと力を抜いて横倒しに倒れる。

けれど、布団の衝撃の前に、勇者様に抱きしめられた。

「ひゃん。」

まさか胸を鷲掴みされるとは思わなかったけれど、少しは意識してもらえただろうか?

「だ、大丈夫かい?」

慌ててまだ気付いて居ない。

「あ、あの、んっ、その勇者様、手が。」

「え?手…うわっ!ご、ごめん。」

胸も鷲掴みした手も、ガッツリ見た後に、慌てて手を離す。

少し無意識に揉まれたのは、気付かないで上げよう。

「私、勇者様なら、国広様なら触られても嫌じゃ無いですよ。」

か細く呟いて、必殺寝たふり。

「え?マグノリア?

俺に触れられてもって…。

あ、こら服着ないと。

参ったな、煽らないで欲しいんだけど。

俺の聖女様は、とんでもなく綺麗で魅力的だって分かってんのかね?

俺がどれだけロリコンにならないように我慢してるのか。

全く惚れた弱みだ仕方ない。」

やれやれと服を着替えさせる。

小さく呟く声は、半分聞こえなかった。

熱で本当に意識が飛んだせいだ。

身体に唇に、優しく何かが触れた事すら気付かないまま寝てしまった。

「まあ、このくらいの役得はいいよね?」

と言う勇者様の呟きも聞こえなかった。

勇者様に仕掛けたのに、慣れない事はするものじゃないな、と不覚をとったけれど。

二人にいい刺激になったのか。

不自然な距離は縮められた。

程なくして魔王が眼前に出現し、私達は魔王を倒した。

消えて行く魔王を眺めていたら、勇者様が私を抱きしめた。

「魔王に勝ったら、故郷に帰れるんだけど。女神様に一つお願いごとを出来るんだ。

マグノリア、俺の世界に来て俺と結婚してくれないか?」

迷うわけもなく頷く。

すると、私達の足元が光り、私達は、国広様の部屋のベッドで眠っていた。

国広様は召喚前の15歳に戻っていた。

私は今の15歳で転移したらしい。

女神様のご褒美で、私は近所に引っ越して来た留学生と言う事になり。

髪は薄いプラチナブロンドに変わっていた。

国広様は、大きな家に一人暮らしの金持ちの孤児なのたそうだ。

だから、一通りの事が出来るそうだ。

私も孤児だが頭が良くて留学して来たと言う設定になっていて、どうやらこちらの知識を女神様は付加してくれたらしい。

言葉も問題無かった。

「あー、マグノリア?

この国だと俺と結婚するのもう三年待って。

結婚年齢がまさか戻っちゃったからさ。

この国だと女は16、男は18にならないと結婚出来ないんだ。」

罰が悪そうな顔で頭をかく。

「何年だって待ちます。

それにずっと一緒です。」

構わずに私がそう言うと、国広様は嬉しそうに私に口づけた。

庭にマグノリアを植えて、二人で育てたりもした。

確かに私の知るマグノリアとは全然違うけれど、綺麗な花だった。

それから、と有る企業にスカウトされ。

二人は異界渡り(ストレンジャー)の仕事につく事になるのは、別の話。

勇者国広は基本無口ストイックで、人間不信が激しく。

異世界現世含めて、マグノリアだけが心のオアシス。

なので、なるようになったと言うかなんと言うか。

マグノリアは猫まっしぐらです。

ちょっと積極的ですが、国広にだけです。

これも利根市がらみですが、国広は家康達には先輩にあたります。


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