赤い顔?
僕の気持ちの中では色々と怒りが込み上げてきている。
いくらゲームの設定であろうが、この世界の中で生活する者にとって、設定とは自然環境と等しく現実であり、その意味のない設定が僕を惑わし、罪も無き人々に色々な枷を背負わせている。
貴族だけが優遇されるのという設定では、ゲームを作る側や遊ぶ側には都合の良い環境であり、その環境の中で色々な刺激や妄想といった満足感を与えるのだろう。
しかし、それが現実ならば貴族でなければ意味がないことを物語っている。
つまり、貴族でなければ……絶望を意味する。
そうであるならば、僕の使命はそのルールを崩す事だという結論に行き着いた。
副学院長の意図することは、概ね理解出来うる範疇であるのだが、王女である僕が言っている事を失念しているのではないだろうか?
ルナとアルテミスを守れない程度の力で、この世界を変えるなど到底不可能だろう。
だから、ここは1歩も譲れない。
思考の末、一応は結論が出たので、俯いていた顔を上げる。
いつしか、外は暗くなっていた。
「王女様、如何されました?」
アルテミスに声を掛けられたのは、ギルバートの報告を受けて既に1時間半が経っていた。
僕が報告内容を聞いて、僕は独りで俯いて考え事に耽ってしまったみたいだが、あまりに真剣であったのか、アルテミスもルナも声を掛けるのを躊躇っていた感じだ。
ギルバートが僕に報告した内容は、ルナもアルテミスも聞いている。
今は平然としている2人だが、ギルバートからの報告を受ける際、紅茶の用意をアルテミスがしてくれていたのだが、紅茶を入れながらその内容がきこえたのだろう、部屋から退出する時の顔はあまりに元気が無かったのは間違えようのない事実であった。
テーブルに置いてあった紅茶は冷めていて、もう湯気も立っていないのだけれど喉を潤すには丁度よい温さであった。喉が渇いていたのでそれを一口で飲み干すとルナにグレイを呼ぶようにお願いした。
それから3分もしないうちに僕の部屋のドアをノックする音が鳴り響いた。
ルナとアルテミスを隣の部屋に待機させ、グレイと2人だけになり、2つの指示を出した。
1つ目は、明日の朝一にお母様に手紙を届けて、僕が出掛けるまでに返事を貰ってくること。
2つ目は、お母様からの返事が届いた後に僕が王立学院の副学院長に会いに行く時に同行すること。
お母様の都合もあるので、時間はハッキリとは言えないが、グレイの返事は1言だった。
「御意」とだけ。
近衛師団の中隊長だけあってこのあたりの対応は見事と言わざるを得ない。
500人を統率する中隊のトップでありながら、まだ10代後半ということはかなり有望なのではないだろうか?
すらりとした長身に整った小顔というだけで美少年が確定している。
それに加えて、大きめのアイスブルーの瞳は優しい眼差しでいて、金髪がサラっと動く時の清潔感は見ていて何とも心地良い。
5人の小隊長に指令を出す時には威厳に満ちて大人っぽく感じるが、2人でいる時には柔和な笑顔に正直言ってハッとする時もある。気持ち的には男的な考え方なのは前の世界の記憶をまるまる持っているから仕方はないが、身体や感情はやはり女性であるため、偶にはこんな事もある。
グレイとの話が済んで、2人を呼んでお茶の用意をさせるが、2人ともニヤニヤしている。
……この娘らは、僕がグレイに気があると思っているんだろうか?
ふと見た窓に映る自分の顔が少し赤らんでいることも否定出来ない事実ではあるが、恋愛するということは攻略されたという事に他ならない。
片意地を張らなければ、王女という絶対的な立場で楽そうな生き方だろう。でも、適当に生きるのは危険だと認識しているため、恋愛に流されたいとは全然思わない。
だが…………この胸の高鳴りだけは隠しようがない。
次の日の午前、ブランチを食べている時にお母様からの手紙の返事が届いた。
グレイが直々に渡しに来てくれた時に、双子が僕をチラリと盗み見ていたことには気が付いている。
「ありがとう。これで部下を労って下さい」と1枚の金貨を渡し、グレイを下がらせようとしたのだが、グレイから声が掛けられた。
「シャルロット王女様。出発の準備は出来ております」との業務連絡で色っぽい言葉では全然ないのだが、話しかけられると思っていなかったため、心の中では動揺しきりで心拍数も急上昇となっている。
たぶん、顔も真っ赤なはずだ。熱っぽいのが良く分かる。
……ううっ。
『こんな姿を双子に悟られないようにしなければ』って応対するが、声が震える。
「えっと、……あの。ご、ごめんなさい。すぐに用意するわ」
そう言って僕は席を立ち、グレイを待たせたまま奥の部屋に入り、後ろ手にドアの鍵を閉めた。
……これは、やばい。
胸のドキドキが止まってくれねー!?
扉がノックされる音がするのだが、いまグレイがこの部屋に入ってくるのなら、抗う手段は持ち合わせていない。気持ち的にも既に負けているし、この華奢な身体で抵抗は無理だし、グレイは素敵だし……。
「王女様、私です。ルナです」という小声がして、僕はドアの鍵を開けた。
少し、安心して……。
そして少し残念で……。
フフンとばかりに上機嫌なルナが制服を用意してくれる。
白地に金色の刺繍で縁取られた丈が短めのジャケットにスカートのセット。
どこぞの軍の制服みたいに仰々しい。
タイトスカートではないところが学生ということを意味している。
水色のブラウスに金糸のリボンが首周りにかけてある。
いそいそと着替え始めると、ルナが手伝ってくれる。
最後のリボンをルナが結び終える時に微笑みながら言ってくれた1言が耳に残る。
「シャルロット様。もうお顔は赤くないですね」って言葉。
再びさっきの自分を思い出してしまい、またもや顔が赤くなるのが自分でも分かる。
ルナをむっとして軽く睨むと舌を出して笑っている。
「ルナっ! ひどいよっ!」
「いーえ、シャルロット様が可愛いだけですから」って極上の微笑みは心底楽しそう。
『こいつは、狙ってやがったな。くそー!』と思うのだが、何も仕返しは出来ない。
しかも顔を赤くしている自分を見られるのが恥ずかしいと嫌がるのに、僕の手を強引に引いてグレイが待つ居室に連れて行かれた。
「お、おまたせしました」
そう言うだけで一苦労なのだが、グレイはさらりとかわしてくれる。
「待ったなんて思っておりません。主を待つのも私の任務です」と言って僕に見せる笑顔はどんなプレゼントよりも心を動かすには十分な破壊力だった。
昨日は更新出来ず、すみません。
書いていた話が詰まらなく思えたのでボツにして、新たに書きました。
今後も毎日更新は出来ない時もありますが、ご了承ください。