バグの始まり?
「ならば、条件がある。
隣国の王子との婚約か、我が領内の有力貴族との婚約、または私の妻のどれを選ぶ?
俺様がこの国の法律だ。遠慮はいらない」
ニヤリと笑う父王の意地悪に多少ムッと来るが、ここで辻褄が合わないことに気がついた。
第1章の内容を引きずっているということを。
父王が変態な設定とは知っているのだが、まさかまさかの展開になって来ている。
僕の顔は色を無くし、呆然としている。
禁断な設定まであるってのか?
鬼畜仕様過ぎるっ!
こんなところまで遊んで無いぞっ!
ここまでたどり着いてもそんな選択はしないと言い切れるし、ついでに僕は変態じゃないっ!!
僕が固まったままの状態にあるのを背後から見ていたルナが父王に進言した。
「ご無礼を致します。
シャルロット様はあまりの驚きようにございます。
ここは何卒、ご容赦ください」
意外にも凛とした声音で目の前の覇権者に怯むこと無く平然と言ってのける。
「なんでしたら、姫の代わりになるかはわかりませんが、私で宜しければ、なんなりと」
アルテミスも僕の前に立ち塞がり、両手を広げた。
為政者として、最高の地位にいる皇帝に向かい、こんなことを言えるとは……。
僕を体を張って守ろうとしてくれている。
アルテミスの肩が僅かに震えているのが良くわかる。
「フッ……。面白い娘達だな。
並みの男より肝が据わっている。
男に生まれたなら、その名が知れ渡っただろうに、惜しいな。
しかし、なかなかの美少女。
シャルロットも私に似て趣味が良い」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、父王は僕に顔を向けた。
「お父様。私はどの様になっても……。
しかし、2人には危害を加えないでください。
まだ、小さくて世間知らずですから、私がこの者達の無礼を謝ります」
そう言って2人を僕の後ろに下がらせて、床に頭を擦り付けた。
「わかった。この娘達の勇気と其方の謝辞に免じて許そう」
怒りを伴わない返事でホッと一安心するが、当の2人は不満気味な様子とすぐわかる。
しかも、僕はまだ父王の要求に対して返事をしていない。
くうっ、詰んだのか?
権力者でありイケメンとはいえ、実の親との婚姻とは……信じられない変態設定だし、このイベントは難易度が低い攻略が済んだ後から出て来る筈の隠れイベントらしいが……。
このクソゲー誰が作ったんだよっ?
おおばかがっ!!
そう言えば、自室でのイベントも後からのものだったはずなのに、今の段階で発生している。
これは、僕の行動がイレギュラー過ぎることでイベントにバクが発生している可能性があるのだろうか?
って、考える前にいま目の前にある危機を乗り越えなければ意味が無い。
どうしよう?
真剣に考えること約10秒程で妙案が浮かんできた。
ああ、なんとか切り抜けられそうだ。
僕はポケットから無雑作に短刀を取り出して、父王が叫ぶ前に腰まで伸ばした綺麗な髪を首の後ろでバッサリ切った。
「し、シャルロット。なんてことを……」
オロオロする皇帝を見据えて告げた。
「ごめんなさい。お父様、私はまだ自由に生きていきたいのです。だから、せめてこの髪が再び以前のように長く伸びるまでは待ってください」
そう言い切り、僕は一礼して部屋を後にした。
侍従長から聞いた話だが、皇帝はかなり落ち込んでいたらしい。
お母様からも皇帝は頬を叩かれたらしい。
本当は情け無いお父様だったのだろうか?
お母様本人が僕のところに来て、そう言ってるから間違い無い。それに、お母様も2人のことを気に入ってくれた様で、僕の侍女に正式に決定となった。
ルナとアルテミスの侍女の認定も皇帝自らが紋章が入ったペンダントを用意してくれたそうだ。
それは、僕に嫌われたく無い一心からの行動だったらしいが、これで2人と一緒にいられる。
僕は自室に戻るとステファニー以下の全てのメイドを下がらせて、ルナとアルテミスの3人だけにしてもらい、アルテミスが入れてくれた紅茶を戴きながら、2人に感謝の言葉を伝えた。
それに対して、反対に2人から僕に感謝の言葉を聞かされた。
「シャルロット様。私達はいまとても楽しい。
生きていて良かったと思うのです。
これも貴方様が暗い毎日から私達を救い出して頂いたからなのです。
これからも、私達をお側に置いください」と。
もちろん異論は無い。
むしろ、何か話すと涙が出てしまうぐらい嬉しかった。いままで生きて来て、こんな気持ちは初めてだった。やはり、転生には意味があるのだろう。
◇◇◇
アストラーナ王立学院という名前でいかにも定番というか、手抜きというか、まあ乙女ゲームはキャラの可愛さと共感出来るシチュエーション等がメインだから仕方がない事なのだろう。
それに、これを言ったところで僕以外の人が理解できるわけではない。
僕はルナとアルテミスの分も学校の制服を新調させて、入学許可を取れるようにギルバートを通じて学園に働きかけたが、どうやら副学院長が首を縦に振らないらしい。
ギルバートからの断りの返事を握りしめて、今では男爵家に常駐している王家の馬車に乗り込んだ。
行き先はもちろんの事だが、アストラーナ王立学院の副学院長に会うためだ。
確かに、ゲームの中でも堅っ苦しい言葉しか言ってなかったが、そうなるとゲームの中ではかなりの障害物となってしまう。
簡単に転生とは言うけれど、この世界での新たな僕の人生の始まりなのであるから重要な意味を持つ。
死んだのだから、元の世界に戻ることも無いだろうから、僕の人生設計を考えなければならない。
果たして、このまま独身を貫いて生きるのか?
それとも攻略とは別に、誰かと結婚するのだろうか?
……いまは考えないでもいいよね。
なんか、惨めだ。
真面目に契約書を読んでいるなら、今頃は攻略する側だっただろう。そうじゃ無くても、人並みの幸せがあっただろうな。
神様…………、こんなのは酷い。
そんな中で、友人というか、仲間というか、そんな堅苦しくない者を連れて行くだけだし、王女たる私は皇帝と兄である王子かつ王位継承権第1位に次いで偉いのだから、僕が言う言葉はこの国の法律と同じ意味を持つ。
僕を怒らせるなら、覚悟を決めとけよ!
読んで頂いて、ありがとうございます。
皆様、これって面白いですか?
お気軽に感想とか頂けたら、嬉しいです。