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やっぱり!

「……………………」





 長い沈黙を打ち消したのは、イザールの言葉。



「まっ、あれだな。

 シャルロットのことだから、お茶目に脚色したのだろう。たぶん、まだそういったことに興味は無いと遠回しに言っているということと思う。なっ、フィズもそう思うだろう?」


「ええ、そうね。それか…もしかしたら、男性が怖いのかもしれません。あと、これも万一ですけど、もしかしたら、本当は女の子の方がいいのかな?

 まあ、そんなことは無いと思うけど。


 ……面白く無いですけど、まだ時期が早いのは同感です。だって、シャルロットちゃんはまだ十五歳なんですからね」


 二人が私の目の前でお互いに正面を向いて、ブンブンと何度も頷く姿を見ながら、少し悲しくなってしまう。


 しかし、私の言ったことは嘘では無い。

 だって、言葉ではなく、シャルロット姉様の心の奥を覗いた時に垣間見た悲しい本心なのだから。結局、私以外にはやはり理解出来ないのだろう。


 この能力のお陰で、私は真の理解者として、シャルロット姉様から妹の座を得たのだが、それは今みたいな事の繰り返しの中で、お姉様はやっと掴んだものだったに違いない。


 もし、私が酷く驚き慌てたりしたのなら、シャルロット姉様は今だに理解者を得ず孤独なままだったのだろう。そう思うとなんだか、本当に悲しくなって来た。


 私の賢者だった時の孤独とシャルロット姉様の孤独は似ている。誰にも話せない秘密を持ち、それを理解して貰えない苦痛に加え、自分を取り囲む境遇から逃げ出すことが出来ないという軟禁状態をずっと続けて生きていかねばならないオアシスが見つからない旅のような人生。


 しかし、少なくとも私の孤独は終わった。

 軟禁状態からも解かれ自由を得られたし、なんと言っても家族も出来た。全てシャルロット姉様が私に与えてくれたのだ。


 この時に感じた嬉しさは筆舌では表せられない。

 それほどのもの。

 生まれ変わったと言っても過言では無い。


 イザールの話では、相当な事がシャルロット姉様の身に起きていると思う。

 今、私が姉様のために動かずして、いつ動くのか?

 早くシャルロット姉様に会わねば後悔するような気がするし、取り返しがきかない事が起きそうで背筋が寒い。



「あの、そうですよね。

 あんなに素敵なお姉様が、そんな訳ないですよね。

 じゃあ、私はすぐに用意して来ますから、今からでも出発出来ます。イザール様には、アストラーナ帝国の皇帝陛下に対しての親書をご用意してください」


「ああ、それはもう準備している。フィズ」


「はい。ここに」


 華美な封書をフィズが懐から取り出して、私の両手に握らせた。さすがにこの二人は抜かりない。

『どんな内容なのだろうか』とふと思ったが、単なるお祝いの言葉を回りくどく書いてあるだけだろう。

 それを受け取るアストラーナ帝国もたぶん執事だろうし、形式のみということか。


 しかし、それに乗じてシャルロット姉様を取り巻く状況を確認するとは、この国の政治が安定している訳だ。シャルロット姉様がこの地に住居を構えようと考えたのもそこに起因しているのだろうか?


「ミーシャ、どうした?

 手紙を持ったままかたまっているようだが」


 私はイザールの言葉でやっと我に返る。

 そして、部屋を抜けて自室でいそいそと着替えを始めた。

 荷物が多いと動きにくい、最低限にしよう。

 シャルロット姉様がいるのなら、替えの着替えは必要無いだろう。いないのなら、再び準備してから別の手段でいくだけだ。


 チャチャっと比較的軽めの正装をするとイザールとフィズが待つ部屋に向かう。


「お待たせしました」


「やあ、やはり美人だね。しかも一目で賢そうとすぐにわかる。君の旦那は幸せだろ……ってててて、フィズさん。や、やめてください」


 イザールの頬っぺたを摘んで怖い顔をしているフィズを見ると少し羨ましくなる。この頃はそばに誰かがいて欲しいと心底願う。

 それは誰でもいいという訳では無い。

 私を理解してくれる人。


 ああ、アストラーナ帝国からお姉様をさらってこようかな。ここで二人で慎ましやかに生活してみるのもいいのではないだろうか。


「ミーシャ、馬車の用意が出来たみたいです。

 すみませんが、よろしくお願いします」


 深く頭を下げてフィズがお願いする。

 その横に軽く頭だけを下げたイザール。

 イザールが頭だけでも下げるなんて、特異なこと。

 アズールの役目ではなく、この二人のお願いとして期待に応えたい。まして、それよりもまずは自分のために。


「馬車は必要ありません。どうぞお引取りを」


 そう言って、私は遠くに見える森に向かい高らかに口笛を鳴らした。



 その後、空の上に黒い点が現れ、段々こちらに近づいて来るのがわかった。

 その姿は、紛れもないドラゴン。

 逆光で黒く見えたが、赤いドラゴン、そうドラちゃんを私は呼んだ。ドラちゃんはシャルロット姉様のペットと言っても過言では無い。

 大好物のお魚を食べさせて、餌付けに成功している。


 この世の伝説にうたわれるドラゴンが、シャルロット姉様にはペットとして飼われていることもお姉様の魅力がとても素晴らしいことを表している。


 ドラちゃんが来て、シャルロット姉様に会いに行くことを伝えるだけで、二つ返事で了解が得られた。

 馬車なら数日は掛かる所、ドラゴンの力なら今日中にアストラーナ帝国に行ける。


 たぶん、一刻を争う事態もあり得る状況の中で、のんびりだなんて、私の精神が破壊されてしまう。

 ドラちゃんの首に抱き付くと少しひんやりとした感じがして、心地よい。


 イザールとフィズに手を振って、出発するとみるみるうちに進んでいく。

 さあ、お姉様をお救いしなければ、私はまた一人になってしまう。勇気を振り絞り、頑張る以外に手は無い。和装の姿の内ポケットに必要な薬が入っているのを確認して、一安心する。あとは、城についてからが本番だ。それまで、少し休んでおこう。

 ドラちゃんの首にヒシと抱き付いて、身体を固定し、そのまま目を瞑る。

 それから、夢の中に入るには五分も必要としなかった。

へへへへ〜!


眠い〜!

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