あのね!
グレイとのやり取りはひと段落した。
と言っても、気持ち的にだけどね。
いまはグレイが話す内容に集中するしか良策は無い。
しかし、この話を聞いたからと言っても僕1人には防ぎようもない規模の内容を知っただけという結果に辿り着いただけだった。
まあ、それは仕方ないだろう。
女の身では出来ることは限られてしまうのはこの世界でも同じこと。
じゃあ、諦めるのか?
いままでは、見て見ぬ振りが当たり前だっただろう?
ここの所、酔狂で人助けをしていたからいい気になっただけのこと。
今更元どおりの生活に戻ってもいまの地位なら誰にも文句は言われないから、ここら辺で投げ出そうかな?
「シャルロット様? どうしたのですか?
ですから、ダバンから攻められたらいまの帝都の平穏は無くなるし、それこそ王家や名だたる貴族連中は皆、殺されてしまいますよ」
「えーっ、そんなことしちゃうんだ?
やっぱり、僕はそろそろ逃げようかな?
正義の味方っていう性格じゃないし、楽して過ごしたいし……」
んっ?
グレイの目がキツい。
あっ、こ、声に出ていたのか?
「シャルロット様?
混乱されているのは理解出来ますが……。
僕とは、情け無い。
百年の恋も……」
「あら、冷めちゃったかしら?
うふふ。私ね、頭の中で考える時は、自分のことを僕って呼んでいるし、本当は見た目とは全く違うのよ。
だから、あなたの申し出にも答えられない。
……………………でもね。
そんな私がこの頃は真剣に悩んでるわ。
その悩みっていうのは、あなたの事。
さっき言ったけど、私はお利口さんでは無いの。
だから、恋愛や結婚なんて面倒なことは考えたくなかったし、今、考えさせられてるし……。
……どうしてくれるのよ?
…………グレイのバカ!」
「だから、責任は取ると言っているでしょう。
それでは駄目なのですか?
僕は、このアストラーナ帝国が欲しい訳ではない。
ただ、あなたに側にいて欲しいだけなんです。
会った頃は、高望み過ぎると思っていましたが、今や僕も名だたる貴族として復活を果たしました。
少なくとも、あなたに釣り合わないことは無いと思っています」
「そんなことは分かってる。十分に理解してます!
だから、悩むんじゃない。
分かんないかな?
そうね、分かんないわよね。
全てを話さなければ私のことは理解出来ないでしょうし……。
は、話してあげてもいいわ。
ただし、ダバンの件を終わらせてからね。
でも、付け加えておくけど、あとで後悔することになると思う。
それでいいなら……」
そう言って、僕は力無く俯きながらもグレイに手を差し出した。
「あの、シャルロット様? これは?」
「約束の証として、握手しましょう。私は、約束は守るわ」
グレイは無言のまま頷き、僕の差し出した手を握り軽く振って離す。大きくて温かいグレイの手の感触は、僕の華奢さを一層引き立たせる。
やはり武人であるが故に、顔に似合わず鍛えられた身体には、前世で男だった僕から見て羨望さえ覚える。
女性陣が騒ぐ訳だ。前世の言葉を使うと細マッチョなんだろね。
「シャルロット様、これは未確認情報ですが、アリエス様が動いているという噂を聞いております。
あの方は、ダバンに太い繋がりがあったようで、このため今回のようなことが起こったのでしょう。
しかし、確実な証拠も無いので近衛師団としても動きようがない状況です」
黒縁メガネを外して、目を閉じグレイの話を頭の中で繰り返し考えると、自分が考えていたシナリオに近づいて来た。
現在、アリエスの所在は不明になっていることは知ってはいたが、ダバンがこの国を手に入れるための布石だったのかも知れない。
アリエス兄様は、あの時点でマインドコントロールをされていたのかもしれない。
そのアリエスが失敗したから、手を変えて攻めて来ているということだろう。
しかし、それなら何故、一気に攻め込まなかったのだろうか?父王と僕がいない時に……。
一点だけ不可解な事があったが、一つの仮説が心の中に浮かぶ。
こんな手段をするということは、ダバンには十分な戦力が無い事を露呈しているということだろうか?
多分、当たりと思う。
……なら、帝国内にいるダバンの犬を排除してから、此方から攻めるのみ!
攻撃は最大の防御だろう。
さて、ではまずはナターシャ様のことをどうにかしなければならない。
僕はグレイの助力を得て、それを行うことにした。
次の日、再びグレイに案内され一緒にナターシャ様の居室に参上する。
目的は一つのことをするだけのことで、お茶を飲んだら再びグレイと一緒に退室することになっている。
他のメイドと同じく、僕は僕の持ち場で仕事をするのだが、これが目的を果たすために役に立つ。
だが、今日に限り予想外なことに僕以外のメイドも手伝うと言い出した。
さらりと御断りしたかったのだが、生憎、断る理由が浮かばない。
仕方ないから、心の中ではしぶしぶだが、表情は穏やかさを保ちつつ了解した。
キッチンに入る直前にグレイをチラ見すると、頷いてくれたから僕が言いたいことは伝わっただろう。
コンロにたっぷりと水が入ったヤカンを載せて、一息ついたが、付いてきたメイドは先輩の特権なのか、何ら仕事をしてくれない。
何のためにここに来たのだが分からないが、お荷物さまさまといったところだ。
そこにグレイがやっと来た。
「遅いっ!」と怒鳴りたい気持ちを抑えながら、顔を引き締めて頭を下げる。
「お水をくれないか?」
涼しげな顔で僕に声を掛けてくれたのもつかの間、わらわらと居室の掃除やら衣服の手入れをしていたメイド達が集まって来た。
……邪魔なメイドを連れ出して欲しかったのだが、こいつは沢山連れて来やがったよ。
久々のジト目をグレイに向けると、グレイも予想外だったらしく、焦っているのが見てとれる。
まぁ、少しは可愛いのですけどね。
もう、怒る気もしないし。
さあ、どうしようか?
そんな考えを巡らせている間に、僕以外のメイド全てがキッチンから消えた。
グレイが居室に戻る時にメイド達もちゃっかり仕事に戻ったらしい。
なんかムカッと来たが、やっと動ける。
さて、あとは祈るのみだ!
なかなかなかなかなかぬか更新出来ずにすみません!
よければ、誤字脱字があれば指摘してくださいね。




