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ていさつ!?

 ナターシャ様のことを考えると、胸が苦しい。

 お母様のベッドの端にうつ伏せになりながら、枕に顔を埋めてそのまま動かない僕を見るお母様は、さぞかし悲しげな顔をしていることだろう。


 明るいだけが取り柄だった昔から、僕は変わった。

 女の分際で政治にも首を突っ込み、まして戦闘にまで参加する程に行動的になり、今では父王のご意見番とまで評されているらしい。



 ……昔は、美しいだけのお人形さんだったのにね。



 僕に前世の記憶がフラッシュバックしたのは、年の頃は中学生1年生ぐらいだった。

 あの日を迎えて、なにかが違うと思ってしまったから、その日の夢の中で忘れていた全てを見てしまったのが今の僕の始まりとなった。






 えっ………………?




 これはどうしたことだろう??







 って、なんだ?

 こんなことはあり得ない。



 こんな変な記憶が頭の中に生まれていることが……。




 確か、僕は郊外から帝都に入った筈だったのだが、なんかの力で勝手に記憶を変えられている?

 コレって、グレイとの進展が関係しているのか?


 もしや、このゲームの世界が僕の意識を否定し始めているということかも知れない。



 しかし、結構怖いな。


 いつしか、僕の頭の中にグレイLOVEなんて気持ちが埋め込まれてしまうのでは……、そ、それは困る。


 でも、抗えないのなら、せめてお母様の健康を取り戻して、帝都の安全を確保するまでは僕という意識が残っていてくれないともっと困る。


 それにミーシャとの約束まで忘れるなんてことは無いよね。僕を待ってくれている可愛い妹のことを忘れるなんて、想像するだけで胸が苦しい。

 早くこの件を解決する必要があるな。


 たぶん、それが終わると僕の答えは見つかる気がするし、この世界での生き方を決めることになるだろう。


 なら、本当に早く動かなければ、このゲームのキャラクターどおりに動かされてしまう危険がある。



 この後、少し眠ってから晩御飯が運ばれた際、メイドを1人確保して、メイド服をゲットした。

 多少、恰幅が良すぎなメイドだったので、ウエストはかなり余ってしまったが、胸のサイズはぴったりだったのは微妙な気持ちになってしまう。


 女子としての栄華を極めることも可能な自分に不満を言うつもりは無いが、果たして僕の気持ちの方向だけで動くことはかなりリスキーであり、本当に幸せなのかと不安になってしまう。




 動き出すまでに暫く時間が必要だったけど、なんとかしんどい気持ちを乗り越えてナターシャ様の部屋にもぐりこんだ。


 無論、変装はしている。

 豊かな髪の毛は、黒々と染めて黒縁の大きな伊達メガネという姿となった。

 前世でいうと、所謂メガネっ娘だろう。

 これで変装とは大袈裟過ぎるかも知れないが、これ以上は変装道具を用意出来ないのだから仕方ない。


 ナターシャ様の部屋に交代で入るメイド連中にグレイに介して、新人として紹介してもらうと早速、下っ端のメイドの仕事を押し付けられた。


 薪をくべるコンロでお湯を沸かす当番となり、熱いがナターシャ様の応対はしなくてよいとのことで、気が楽になった。


 ナターシャ様の部屋に入ると、急いでコンロの前に立って、水瓶に汲んである水を鉄製のやかんに注いで、コンロに掛ける。

 これが重いのなんのって、一言では言い表せない。

 しかも熱い。


 ブラウスの下を伝う汗が気持ち悪くてたまらない。

 お湯の用意が出来た後は退室まで待つばかり。


 一応、僕の仕事はこれでひと段落してホッとした丁度、その時だった。


「ローリー、ナターシャ様にご挨拶しないといけません。すぐに出ておいで」


 ……やっぱり新人紹介はどこの世界でも必須だよな。


 どうしようか?

 ええい、迷うよりもあやしく思われる方がリスクは高い。髪の毛の色も違うことだし、シラを切るだけのこと。ちなみに、ローリーは僕のこと、即座に考えた名前である。


 スススっと、ナターシャ様の前に進むと咄嗟に声音を低くして簡単な挨拶をした。全ての仕草を俯きながらで顔は見せていない。だから、見られていない。


「あなた、いえ、ローリー。あなたのお年は?」


「私は16歳です」


「では、ローリー。顔を上げてお顔を見せて」


「は、はあ。わかりました」


 仕方ない。

 抗う理由は無いし、別人を決め込もう。

 ナターシャ様よりも背は僕の方が高いから、立ったままではナターシャ様を見下ろす形となり不敬罪となるため、跪きゆっくり顔を上げて、ナターシャ様の顔を見上げた。


「………………」


 ナターシャ様が絶句している。

 それはそうだろう。

 気持ちはよくわかる。

 だが、今はバレないようにしなければ……。


「ナターシャ様、いかがされましたか?」

 小声で、控え目に聞いた。


「あっ、ああ、何でもないわ。

 ところで、あなたはいつからここに勤めているの?」


「ええ、最近の事です」


「そう、なら……、私の専属になりなさい」


 えっ、そんな展開は予想していないよ。

 ここはなんとか、絶対に断りたいのだが、どうしたらいいかな?


「ナターシャ様、私はグレイ様の命でこちらに勤めているのです。ですから、グレイ様にお話しください」


「そう。じゃあ、誰かグレイを呼んでください」


 そう言った後、ナターシャ様はグレイがやって来るまでナターシャ様の前に僕を座らせて待たせるから、その間は生きた心地がしなかった。


 ソファに座りながらも、ゆったり出来ずに緊張は最高潮に達してきた瞬間にドアからグレイが登場した。

 そのワイルドな登場にキャーっと言ってしまうかと思った程にカッコ良すぎ。


 現に他のメイドは言っている。

 しかし、なんか……、やだな。でも、そんなこんなを言える立場じゃ無いから……、それも自分のせいだし気分的に複雑だ。


 グレイはそのまま、意に介さずナターシャ様の前に立って挨拶をしている。

 優雅な仕草に再び歓声が上がる。


 ……耳が痛いよ。



「お黙りなさい」


 静かな物言いだが、凛とした威厳がある。

 メイド達が素早く背筋を伸ばして、それぞれの仕事に戻るとナターシャ様がグレイに話し掛けた。


「グレイ、その娘を私の専属につけなさい」


 有無を言わせない口調は、以前のナターシャ様とは違うという証に思える。

 おっとりとした性格というのは、もう昔のことなのだろうか?

 やはり、ナターシャ様が僕達の件に関わっているのだろう。


「ナターシャ様、この娘は皇帝の命で、私が主となっております。

 それに加え、皇帝からは、直々に別命を受けておりますので、ナターシャ様の希望にはお応え出来ません」


 グレイは毅然とした態度でナターシャ様の命令を拒絶する。


 ナターシャ様にとっては想定外だったのだろう、鋭い目でグレイを睨んでいるが、何かをするのだろうか?


「グレイ、私の命令を受けなければどうなるか判って言っているのでしょうか?

 皇帝なら、私の一言でどうにでもなるわ。

 今なら、さっきの言葉は聞かなかったことにしてもいいわよ」


 フッと小さく笑い、グレイが言い放った。


「我の婚約者となるはずだったシャルロット様がいない時に、皇帝から元気を出すようにシャルロット様に似ているこの娘を私のメイドとして預かっています。

 ですから、ナターシャ様の命令に従う気はさらさらありません。


 いなくなったとはいえ、シャルロット様は私の憧れです。


 ……想いは届かなくなっても、せめてその姿だけは忘れたくありませんよ」


 ナターシャ様から顔を逸らして、今度は僕に向き直るグレイは、眩しくて真っ直ぐに見ることは出来なかった。多分、顔も赤くなっていることだろう。


 しかし、ショックなことにナターシャ様が変だということが確定してしまった。


 グレイの更なる求愛とナターシャ様の変わり様に戸惑いだけが僕の気持ちを揺さぶる。白黒を付けたくは無い。しかし、そんな甘いことは言えないだろう。

 気がすすまないけど、ナターシャ様の動きを監視する必要があるだろう。

お待たせしました。

なんとか更新です。


勝手にコメディーからファンタジーにジャンルを変更してます。

これからもゆっくり更新ですけど、頑張りますね!

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