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あのね!

「シャルロット…。シャルロット」


 眠いが、髪を撫でられる心地よさに更にまどろみたい気持ちを抑えて、撫でてくれている人を確認するために目を覚ました。




「お、お母様?」


 懐かしい感触に、昔よくこうやってしてもらったことを思い出す。

 この手の感触は、忘れようとも忘れられる訳が無い。

 一人娘として、甲斐甲斐しく育てられ、戸惑う僕を優しく見守ってくれたお母様の優しさが込められている魔法の手だ。


 無償の愛情を常に僕一人に向けてくれるお母さん。


 その母がベッドから上半身を起こして、僕に手を伸ばしている。



 全く、昨日までの、重病人とは思えない。

 やつれた感はするものの、昨日に比べ、肌には赤みがさし、血流が良くなったことが窺える。

 それよりも、目の中に光が宿ったことに安心感を抱いた。


 無気力な病人には無い生命の光を取り戻したようだ。

 しかし、まだ体力が無いためか、無理して僕に微笑む母の顔を見ると、目頭が熱くなる。


 でも、良く生きていてくれたと思う。

 犯人は、絶対に探して厳罰にするから、もう少しだけ待っていてね。


 そろそろと近づいて、肩に頭を載せると、つい本音が漏れてしまう。


「死んじゃう……のかと思いました。

 でも、ひっく……。


 …………よ、よか…た」


「そう、ごめんね。心配を掛けてしまって……。

 私も助からないと思っていたから、何だか不思議な感じがしているのよ。


 あのね。

 私はずっと、夢を見ていたわ。とても幸せな夢だったわ。

私はずっと子供の面倒ばかり見ていたから、とても楽しかったし、幸せだった。

 私がいて、あなたがいて、あなたの可愛い子供がいる幸せなんて、本当に夢の中でしか味わえないわよ。


 ね〜え、シャルロットさん。

 誰かとゴールインする予定は無いの?」


 眼光鋭く、僕に期待の目を向けて母が質問をする。

 今までも何度となくやり取りした内容だが、今回は少しばかり面倒だ。



「あの、その、えっと……。

 今は、まだ、たぶん……ないです」



 そう言ってお母様から顔を逸らす。

 心なしか顔が赤くなっているみたいだ。

 そんな僕を見ながら、お母様はクスクスと笑っているのだが、何か僕の浮いた噂でも聞いたのだろうか?

 とても満足そうな笑顔は僕の健康に悪影響をもたらす?



 直後に『バサバサ』と派手に物を落す音がしたからそちらに顔を向けたら、悪魔が立っていた。



「グ、グレイ?」


 その姿を見て、僕は慌てた。

 き、きいてなかった……よね。

 と言いたいところだが、あのような失敗をしでかす人では無いと知っているから、やはり聞いていたのだろう。


 たぶん、王宮の裏道を抜けて来たのだろう。

 でも、いきなりとは心臓に悪いよ。



 う〜む。

 少し、直球過ぎたかな、もっとやんわりと言っても良かっただろうし、笑って誤魔化しても良かったかな。


 ……グレイには何か埋め合わせしてあげよう。

 本当にいつもの助かっているのだから、日頃のお礼を兼ねて、プレゼントでもどうだろうか?


 といつかもそんな事を考えていたような記憶があるのだが、あれもお返しはしてないだろうし……。

 何がいいだろうか………………?



「し、シャルロット様、おはようございます。

 シャルロット様?」


 慌てながら、落とした数冊の分厚い本を拾い集めながら横顔でグレイが挨拶しているが、僕が反応しないから気付けばしきりと僕の名前を呼んでいる。



 グレイが慌てた理由は、言うまでも無いだろう。

 お母様も僕が考え事に耽っている理由を察して、クスクスと笑い、僕達のやり取りを見守っている。

 しかし、それは悪趣味というものではないでしょうか?


 とても恥ずかしくて、ベッドの中に潜り込みたいよ。

 羽毛布団を握る寸前に、お母様は一足早く上布団を剥ぎ取った。


 ……おい、お母様。


 まだパジャマなんですけど?!

 少しはサービスしろというのですか?

 ま、自分の部屋ではネグリジェだからまだマシなのだろうが、年頃の男の子には今の姿でもかなり興奮ものと思うのですよ。


 とりあえず、シーツに身を包むのだが、布団に隠れるよりも数段、エロさが増したような気がする。

 昔、エロ本に載っていた姿そのもの……。


 ああ、女とはなかなか大変な生き物なんだな。


 1人で妄想に逃げ込むこと、約30秒で呼び戻された。


「シャルロットさん。グレイがわざわざ本を持って来てくださったのよ。早くお礼を言いなさい。

 たかが、寝間着ごときで恥ずかしがることないわよ。

 少しはサービスしてあげなさい!」


 ピシャリと言われたが、サービスなんてする必要があるとは思えない。

 パジャマに興奮して、夜這いでもされたなら僕としては堪らないしね!

 しかし、お礼は必要だし、良いきっかけかもね。


「ぐ、グレイ。本を持って来てくださって、ありがとうございます」


 枕を抱いたまま、ぺこりと頭を下げるが、我ながらぎこちない。


「あ、いやその本は単なる偽装というか、少しお話しをしたいから理由に持ち出しただけなので……」


 かなり言いにくそうにしながら、頭の後ろをかきながら照れているグレイも新鮮でハマってしまう。

 今更ながらの事だが、恋愛体質に変わってしまっているようだ。

 早いところ、この件を片付けてミーシャの待つ家に帰るのが身のためだ。


 でも、少しは嫌味が言いたい。

 これも女の性なのだろう。

 グレイも仕方ないと諦めて付き合って欲しい。


「まあ、わたくしに会うためでは、理由にならないのでしょうか?

 グレイから見れば、私はまだまだ未熟者ですしね。

 そんなに無理しなくても、何処ぞのご令嬢かご令室でもお相手なされば良いのだわ」


 プイッと横を向いて、頬を膨らます。

 何故か自然に出てくる仕草に自分でも驚いてしまう。

 やはり、……女性化が進んでいる。


 しかし、元はクールな優男が慌てふためく姿は、見ていてとても面白いし、微笑ましくもある。

 やはりグレイが一番だ!


 だから、まだまだ意地悪しないといけないね。

 そうしないと、先に進むなんて事もなさそうだもん。

 僕はそのまま不機嫌な気持ちを偽りながらもグレイと2人で隣室で打ち合わせに臨むのだった。

久々の更新でございます。

素直にごめんなさい。


今はなかなか時間が無いのです。

それでもなんとかカメさん更新はしていきますね!

これからもよろしくお願いします。

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