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父王の目覚め!

 父王の側に居ながら、医師の診断を見守る。

 父王の呪縛がまだ残っているのなら、僕にも決断が必要だし、既に出来てもいる。


 髪に挿した飾りの仕込み針は何時でも抜ける。


「シャルロット王女様、皇帝閣下は、気絶しているだけです。ご安心ください」


 そう言って、初老の小太りな医師は部屋から去って行き、代わりにグレイが呼んだ騎士団2名が扉から入って来た。


 父王を2人で抱え、父王の居室のベッドまで運んで、居室を辞した。

 今、この部屋には、僕とグレイに気絶している父王だけとなり、静かになった部屋にいたたまれずにいる。

 グレイを意識してしまい、それが止まらずやけに気に掛かる。



 沈黙が嫌なのはグレイも同じだったのだろう。

 2人の言葉が重なる。


「「あのっ!」」


「えっと、姫からどうぞ」


「あ、いえ、大したことじゃ無いからグレイからお先にどうぞ」


 お互いに譲り合いが始まり、最初に折れたのは僕の方だった。


「さっきは、ごめんなさい。私が悪かったわ。

 もう少し、痛いのを我慢していたら、あんな事にはならなかったのに……、恥を掻かせてしまった。

 皆にも叱っておきますから……。

 本当にごめんなさい」


「あ、いえ、そんな滅相もありません。

 痛くしたのは僕の落ち度ですし、声が出てしまっても仕方ありませんよ。だから謝らないでください」


 真摯な言葉にジンと来た。

 ついつい僕はじっとグレイの瞳を見つめてしまう。


 グレイも僕の顔を見つめている。


 自然とグレイの手が僕の右腕を優しく掴んで引き寄せる。そして、ゆっくりとグレイの優しい顔が近づいて来た。



 ……今の世界では女の子なんだから、おかしくない。



 そう、自分に言い聞かせてから、そっと目を閉じた。
























 …………………………まだか?






 折角、覚悟を決めているというのに、グレイの奥手!

 と思い、目を開けた途端に驚いた。


 グレイの顔を父王が掴んでいる。

 こめかみを親指と人指し指で力を込めているのが分かるが、前の世界でよく見かけたアレは痛いだろう。


「くぅっ」と呻いて、遂には片膝を着いた。


「フンッ、大事な1人娘をそう易々と渡すものか!」と言った顔は所謂ドヤ顔だった。


「お父様。お気付きになられましたか?」


 いきいきとグレイをいたぶる父王に向かい、言葉を投げかける。


「おお、シャルロット久しぶりじゃな。

 アズール皇国の件は上手く行ったのか?」


 ……こいつ、全く覚えてない。

 僕に対して、あんな事やこんな事をしたというのに!

 さあ、どうしてくれようか?


 しかし、まずは、グレイを離してあげないとだね。


「お父様、お止めなってください。

 グレイは、お父様が変になっている間中、私を守ってくれました。大切な私の命の恩人なのですから」


 父王はハッ?という、訳がわからない風な顔をしながらも渋々とグレイのこめかみから手を離してくれた。

 これでひと安心出来た。


 グレイは2、3度頭を振ってから挟まれていた部分を両手で軽く揉んでいる。やっぱり痛いよな、あれは。



「お父様、記憶がないのですか?」


「どういうことだ? 何かあったのか?」


「ええ、私を王女から除名して、更に縄で縛られました。その後は、牢屋に閉じ込められて、……とても悲惨でしたわ」


「いや、ワシはそんな事はしてないぞ。

 しかし、本当の事なら、ワシはシャルロットを縄で縛ったのか?


 ……なんと羨ましいことか……。


 ワシも父親に変わり無い、だから実の娘にそんなことをする筈が無い。だから妄想までにしておる」


「お・と・う・さ・ま。今後は妄想も謹んでください。

 それに、私は罪人扱いで縛られたから、お父様の言っているそれとは違うはず……って、私の口から何を言わせるのですか!」


 顔が赤くなってしまう。

 やはり、この父親は苦手だ。

 元男だったのだが、これ程までセクハラされると男に対して嫌悪が増すばかり。

 僕はこの世界では女で良かったとつくづく思う。




 ────ただし、攻略が抜きならね。



 まあ、それはそれだ。

 諦めて、これからの事を考えよう。


 まずは、父王に呪縛を掛けたのが誰なのかを特定しなければならない。


 ミーシャに降臨していた者が残した言葉は、誰かに操られているというだけのアドバイスだが、リーナ母様の体調を崩させるのなら、王宮の奥に入れる者が怪しい。つまり、犯人は女と見るべきだろう。


 父王とグレイを交えて、作戦を練る。


 昔からある作戦なのだが、僕が囮になることで両者が一致したから、反論のしようが無い。

 そして、父王には未だ呪縛が取れていない振る舞いをしてもらうことになった。


 最初は、僕に縄で縛ることから提案してきたが、父王の頬を往復ビンタして妄想から強引に正気に戻せば、後は大人しいものだった。


 ちなみに、父王と呼ぶ時は立場を考えて振る舞う時で、お父様と呼ぶ時は、唯の父親に対しての態度……つまり、娘として怒る時に使い分けしている。


 そして、グレイに付き添われて、自室へと戻ると「姫はここから出てはなりません。これは皇帝からのご命令です」と言うが早いか、僕の部屋から逃げる様に出て行った。


 きっと、あのからかわれ具合がトラウマになってしまうことだろう……。


 ……可哀相に。



 後で、僕が慰めて…………、あげる必要はないよね?

 グレイは臣下であり、いつかは僕が王位を継ぐことになる可能性もある。


 ということは、独身貴族を謳歌しても怒られないし、今の暮らしを続ける事も可能だ。

 容姿端麗な息子を養子として、後々は緩やかに余生を生きることも夢ではないだろう。



 しかし、グレイとの関係だけはハッキリさせておいた方がいいに決まっている。


 果たして恋人か、友人か、唯の部下の1人か?

 


 グレイの人生も狂ってくるだろうから、早目に結論を出したいが、まだ焦らなくてもいいのではないか?とも思うことがある。


 でも、今のままズルズルとしてしまうのは、良いことでは無いよな。


 本当にハッキリさせないとグレイから離れられない状態となっているようだ。

 これは、僕はグレイルートから出られなくなっている事を示しているのだろうし、恋人になる覚悟が無ければ、このルートから外れる必要がある。



 この1件が済めば、別のルートの開拓をして、陥落は避けたいのだが……。



 しかし、ルート設定とは本当に厄介なものだ。



 今の僕には、グレイを排除する理由が無い。

 しかも、現状はたぶん好きなのだろうし、公爵家とは縁が深まることもメリットは大きい。

 それだけに、僕の一存では済まない部分がある。

 外濠を埋められない内に逃げ出せるルートを考えなければならないな。


 こんな事なら、前の世界がいかに自由だったかがよく分かる。もっともっと楽しめば良かったという気持ちになるよ。


 ここでは、悔い無しで生きていきたい。

 だから、あと少し何とか頑張れよ、シャルロット!

 ここでの役割を終えれば、ミーシャが住む家に帰ろう。王女の地位を捨てて、平民となればいいことだ。


 本当の幸せは、平穏なのだろうが、それって意外に当たり前のことでは無いということみたいだ。


 王女の僕でさえ、こうなのだから、帝国の人々の平穏を守ることまでが、僕の役割だろう。

 ここではまだ弱音を吐く時ではない。

 まずは、見え無い敵を叩き潰すことが先決だ。

 アストラーナ帝国の平穏を守らなければ、僕は投げ出すわけにはいけない。


 他の事はその後に考えよう……。



 ああ、何か疲れた。



 うな垂れると同時に、両肩にいきなりポンっと誰かの手が載せられた。


「姫様、どうしたんですか?

 悩みなら、私達にも相談してくださいね」


 心配だと言わんばかりの表情を完全には隠しきれていないが、務めて明るく微笑むルナとアルテミスがそっと両脇に立っていた。


 そうか、僕はグレイに連れられて自室に戻るとずっとソファーに腰掛けて考えていたようだ。


「あ、いや、唯ね、ボーっとしてただけだよ」


 尻つぼみになる僕の声で、バレバレのようだ。

 2人から一瞬、ジト目で見られ、その後に2人に同時に頭を撫でられた。


「シャルロット姫は、まだお若いのですから、そんなに心配しないで欲しいです」


 この子達は優しいよな。少し潤っと来た。

 僕は立ち上がり、2人をそっと抱きしめる。

 そして、そこに安心感があることを感じていた。

更新が遅くなり、すみません。


シルバーウイーク後の仕事が……。


また、遅れてもご容赦ください。

ちゃんと完結はします……から!(笑)





〜ソら〜

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