作戦会議!
ひとまずは、イザールとフィズ嬢にお礼を言うためにイザールの居城に舞い降りた。
居城のすみの洞穴にドラを置いてから、この前出てきたところで、待つことになった。
この勝手口みたいな入り口の番人は既に知り合いだから、隠れる必要もない。
五分もしない内に、イザールだけでは無く身重のフィズ嬢も迎えに出て来てくれた。
なんと言うか、フィズ嬢は以前にも増して幸せいっぱいな雰囲気の様で、2人が上手くいっている事は話さずとも伝わって来る。
……羨ましいな。
僕は、早々にミーシャを紹介して城の中に入れてもらう。
いつもの隠れ部屋に通されたのだが、フィズ嬢からまずは汚れを落とす事を勧められ、お風呂を済まさせてから話をすることになった。
たぶん、直接ではないが魚臭いと伝えているのだろう。
ミーシャが僕とお風呂を一緒したいと言っているのだが、内心では困ったよ。
幼女趣味はないし、小さな方のフィズとは明らかに違うし、でも僕は姉だから裸の付き合いぐらいはしないといけないだろうね。
オッさん目線にならないように気をつけよう。
とはいうものの、見られるのはお互い様だもんね。
「お姉さま、どうしたらそんなに大きくなるのですか?」
『それでは対象物が分からん!』と言いたかったが、僕の身体の事なら胸以外に無いだろう。
避けたい話題だったが、臆面も無く聞いてくるミーシャに、つい無意識に答えてしまった。
「あのね。私の設定なんだよ。だから、私にも分からないわ」
「お姉さまは、設定という事をしきりに思い浮かべてらっしゃるのだけど……、設定って一体何ですか?」
……どう説明しようかな。
まずい事を言ってしまった。
うーん、どう言ったらいいものか?
「あのね、私が産まれる前から神様から私はそうなる様に決められていたのよ。それを設定と言っているの」
「ふーん。そうなんだ。何か、違う気がするんだけどね」
ミーシャは納得いかない様子だが、これ以上は質問を続ける気が無い様だ。
しかし、間違ったことを言った訳では無いけど、これ以上は詳しい説明は無理だから、結果として助かったと言えるだろう。
2人してお風呂を堪能してから、用意してある着替えに目を通すのだが、ドレスは僕の性に合わない。
内心、がっかりしたのだがお世話になる身で文句は言えないから、我慢しよう。
ミーシャは、初めて着るドレスに満足気に鼻歌を歌っている。
お風呂でさっぱりも出来たし、気分上々と言ったところだろう。
ささっと、タオルで身体を拭いてから、それを身体に巻いて、新しいタオルを使ってミーシャの身体を拭いてから下着を着せる。
その後はフィズ嬢がミーシャの服を着せてくれるから、あとは自分の支度を急いだ。
下着を着て少しだけ余裕が出来たから、ちらっとミーシャの姿を横目で捉えると、絶句した!
……って、すっげー可愛いじゃん!
茶色のフリル付きのドレスを身に纏うミーシャが目の前にいる。美少女系とは思っていたが、ここまでとは思わなかったよ。
『お風呂でガン見すべきだったかな?』
下品なオッさんみたいな感情が自然に沸き起こる。
勿体無いことをした……。
僕の気配を察したのか、ミーシャが素早く両手で胸を隠した。
「あらミーシャちゃん、どうしたの?」
フィズ嬢が不思議な顔をして、ミーシャに聞いた。
「いえ、何か変な人に見られている感じがしましたから……。
男性の感じがしたのですが、気のせいかな?」
「まあ、おかしいわ。
ここにはイザール様しか男性はいないから、大丈夫ですからね。安心してください」
ふっ、バレなかったか!
良かった。
いやいやいや、何か違うだろう。
この考えは、かなりおかしい。
今の世界では女として生きているから、そんなことを考えるのは不謹慎だし、犯罪に近い。
同性として、確実に失格だよね。
さて、僕のドレスは紫色というか、藤色に近いものだった。特に派手さはなく、僕の趣味を考えてくれている。ありがたい限りだ。あまりに派手なものを着ると、この美貌と重なり目立つことこの上ない。だから、僕の趣味は自然とシンプルなものが好みになっている。
しかし、ミーシャは可愛いなあ。
これって、このゲームの製作者の趣味なのだろうが、美少女だらけじゃないか?
その中で一際目立つという僕は、やはり不遇としか思えない。普通の設定でも十分に可愛いく見えるだろうから、せめてそんな人に転生したかったよ。
「シャルロット姫、どうしたの?」
イザールから話し掛けられた。
ソファに向かい合わせで座る僕達の中で、僕だけが心ここに在らずという状態になっていた。
「あっ、失礼しました。
イザール様、フィズ様。
ドラゴンをお借りし、旅支度までして頂き、ありがとうございました。こうやって、無事に帰って来れたのもお2人のお陰です。
この賢者であるミーシャに会えたことは、私にとって、とても大切な出会いでした。
そして、私のこれから歩むべき道を見つけたのです。
私は、私の手でアストラーナ帝国を立て直します!」
イザールから笑みが消えて真顔に変わる。
「シャルロット姫、それは大変危険なことだと思うのだが、どう攻める?
兵はどうするのか?」
身を乗り出して、僕の眼前で小声で話をする。
少しフィズ嬢が気に食わない顔をするが、話の内容を理解して柔和な表情に戻った。
……嫉妬かな?
フィズ嬢も可愛いな。
あ、いかん。
返答しないといけない。
「私には兵は要りません。
イザール様、あと少しだけ、ドラゴンをお貸しください。あとは、私が1人ですることです。
それに、ミーシャに住処を与えて頂けませんか?
私が生きているなら、引き取りに来ます。
もし、そうじゃな……」
目の前にフィズ嬢の真剣な顔がある。
僕の口はフィズの指で軽くだが、塞がれた。
「シャルロット姫、その先は聞きたくありません」
フィズ嬢は少し怒った様な、悲しそうな顔を僕に向けて来る。
「ごめんなさい」
フィズ嬢の指を両手で包み込んで、そっと離してから謝った。そうだね、誰もこんな話は聞きたく無いだろうし、空気が読めなくて悪かったな。
「まあ、大丈夫だから、任せとけ!」
間髪入れず、イザールが僕に気を遣って言ってくれる。
僕の涙腺は2人の優しさに緩んでしまい、「ありがとう」と口にしたかったけど、イザールとフィズ嬢には、頭を下げる事だけしか出来なかった。




