賢者のアドバイス!
「シャル姉さま。お姉様が私に聞きたがっていたことを言ってみてくださいな」
賢者の神殿の内部は純和風になっていて、只今2人して御飯の準備中。
久しぶりに米粒の御飯にお味噌汁まで食べられるだなんて、ここに来て本当に良かった。
『トントントントン』と続けざまに野菜を千切りする後ろ姿を見ると、ミーシャの自炊歴の長さを伺える。
手際の良さからは、僕が手伝える範囲が自ずとわかってしまう。
皿の用意にお箸にお手拭き。
お水も注いで、あとは待つだけ……。
だって、邪魔になるのは避けたいよ。
僕も女子力がもっと必要みたいだ……、って何で僕よりも上手なの?
このゲームの世界では僕は完璧で、並ぶ者はいない筈だが、例外なのか?
そう言えば、あの顔、あの髪型には見覚えがある。
んと、…………誰だったっけ?
あっ、………!
ヘルプ嬢だ!
プレイ中にわからないことが有れば、ヘルプを頼りにするのだが、その時に現れて説明してくれるお嬢さんにそっくりだ。
つまり、ゲームマスターに1番近い存在ということだろうが、それなら賢者ということも理由が分かる。
しかし、それならゲームに沿ったことしか出来ないだろう。
2人で御飯を突きながら話をする。
主に昔の話となるのだが、ミーシャには過去の記憶があまり無い。それで、僕の話が中心となっているが、シャルロットの小さい頃の記憶というのは僕の記憶の中に突然生まれた様なものなので、本当に経験したという実感が無い。
美味しいのだが何と無く味気無い御飯が終わると、流しに片付けるが、ミーシャから食卓に座る様に言われて、素直に従った。
「シャル姉さま。お話があります」
改まった態度に少しだけ緊張が走る。
「なあに? どうしたの?」
訳わかんないと言った感じで、小首を傾げて人差し指を額にあてる。
「ぶりっ子しても、ここには私しかいませんから……」
「いや、意識してこんなことはしてないのですけど」
「まあ、聞いてください。
私は、シャル姉さまよりも年上です。
ここで、何百年も過ごしているのですから、当然の事です」
そうなんだ。
って、そんな設定だったかな?
まあ、この世界の中に入るなら誰よりも長生きして、誰よりも何でも知っていないといけないだろうが……。
果たして、彼女は幸せなのだろうか?
それに、今の変わり様は一体どういうことだろうか?
……疑問が止まらない。
「ふふふ、戸惑ってますね。
それはそうでしょう。シャルロット姉さま。
いや、シャルロット王女よ!
ここまでは及第点かもしれませんが、今からが本当の試練かもしれません。
あなたが知りたかったことは、全て教えてあげましょう。
まず、アストラーナ帝国の皇帝は、誰かに操られています。あなたの兄上も同じです。
2人には、青い薬瓶の中身1滴で効きます。
しかし、それをするなら危険な母国に戻ることになってしまいます。
あとは、あなたが使う剣でもちゃんと人は斬れます。
あなたの心の中に、自分でブレーキを作ってるから、今は斬れないのです。
しかしどのみち、どうあがいてもこの世界での結論は一緒ですよ。
2つ程、例外は有りますが、まずそんなことは起きないでしょう……。
基本的にはデフォルトに収束する世界だから、無駄なことをしないで、安泰に生きてみればどうですか?
グレイはあなたが気を許してくれることを今でも待っていますよ?
他に、何か質問はありますか?」
……やっぱり、大きな力が働いているのか?
しかし、グレイの話が出たことは驚きだ。
まだ、本当に僕に気があるのだろうか?
その気が無いならないで割り切れるものだが、僕の頭の中の考えとは違って、気持ちと感受性では1番の好印象な若者だもん。
いつしかそんな関係になるのだろうか?
あと1つだけ疑問が残るのだが、それは言わないつもりなのか?
「ふふふ、残りはね。どうしようかな?
言っても差し支えは無いのだけどね!
まぁ、意地悪は止めておこう。
最後の黒い瓶の薬は、生きている限り必要無いものです。死んでから、出番があるのですけど生き返るというものでは無いから、期待はしないことですね」
……マジか?
薬でチートになれると思っていたのに、ここで夢が断たれた。
「あはっ、でも既にこの世界の中では、君はチーターでしょう、違うんですか?
では、この娘を使うのは限界みたいだから、またね」
……って一体、何だったのか?
答えていたのは、あの光だったのだろうか?
でも、デフォルトって……、酷い。
じゃあ、攻略されるのは最初から決まっていたことなのか?
2つの例外とは、何なのか?
あとは、それに賭けるしかないじゃん!
グレイのことまで言いやがって、思い出したし、なんか恋しいし、複雑だし、涙出そう。
「シャル姉さま。どうかされましたか?
顔が青ざめていますよ。お水でも要りますか?」
普段どおりに戻ったミーシャから心配して声が掛かるが、不思議な感じがしている。
やっぱり、さっき話していたのは神だったのだろうか?
「シャル姉さま?」
心配そうに僕の顔を覗き込むミーシャに気づいて、慌てて顔の前で手を振って否定した。
「ごめん、ごめん。ミーシャあのね、私は一旦、アストラーナ帝国に戻ることにします。
今はそれを考えていたからボーっとしている様に見えたのでしょうね。本当にごめんなさい」
「あっ、いや頭を上げてくださいよ」
何と無く罪悪感が拭えないから、つい無意識に頭を下げてしまったようだ。
この世界では頭を下げることはあまりないのだが、前世の記憶を辿りすぎた反動だろうか?
かなり王女らしからぬ行動をしている様だ。
気を付けなければ、いい笑い者になってしまう。
それもそのはず、夜会なんて小さな頃からしばらく出ていないし、ドレスを着る事も皇帝の前に出る時にだけだった気がするし、王女とは言えない行動が多すぎたみたいだ。
「ねっ、ミーシャはここから出られるの?」
今の疑問を投げかける。
「……それは残念ながら出来ません」
やっぱりだ。
だが、ここに置いておくことは可哀想だよ。
なんか手段はないだろうか?
「なんか手段は無いの?」
「有るには有るのですけど、かなり難しいです」
本当に悔しそうに言うミーシャの姿を見て、何とかしてあげたいという気持ちが動き出す。
前の世界では無い感覚なのだろうが、今はこれが大事と思う。自分だけのことしか考えない生き方に価値は無い。だから、この世界での人生は有意義に過ごすことに決めているのだ。




