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賢者が妹?

「まあ、あなたはお名前が無いのですか?

 それは、さぞかしお困りでしょうね。

 どうして、ご自分で名前を付けられなかったのでしよう?」


 目の前の小さな賢者は、寂しそうな声で僕に説明してくれる。


「……名前ってものは、親とか親戚とかって、親しい誰かに付けて貰うものだから自分で付けるものではありません。

 私は気が付いたらここに居て親はいないし……、悲しいけど私に名前を付けてくれる人には巡り合っていません。

 でもいつかきっと、誰かが私の名前を付けてくれると思っています」



 うわっ、健気な子だよ。

 いかん、思わず涙が出そうになった!

 しかし、小学生が涙を堪えてる姿なんて見たくない。

 なんか昔の施設に預けられる子を見ているみたいで気になってしまう。


 ……僕になんか出来ないかな?



 …………ダメ元で言ってみるか?



「じゃあ、その役割を私にさせて頂けませんか?

 仮にも私はアストラーナ帝国の王女だったのですから、私がお名前を付けて差しあげることは慣例的にもおかしくは無いでしょう。

 昔から王族に名前を賜る貴族も多いのですよ。

 だから是非お名前を付けさせては頂けませんか?」


 いきなりの申し出に泣きそうな顔が唖然となり、更にはポカーンと口を開けるが、すぐさまおかっぱの美少女の顔は引き締まった。


「あのですね。バカにしないでください。

 同情でそんなことを言われても嬉しくはありませんし、あなたは私の味方と判断した訳ではありませんし、むしろ敵かもしれないし……。

 それに誰でもいいという訳でもありません」


 鋭い視線を僕に送ってくる。


 ……確かに同情かも知れないが、僕の前世を見ることができるなら、僕の気持ちがわかる筈だ。


「じゃあ、私の前世を見てご覧なさい。

 私は、この世界みたいに王女でもなく、親を亡くした孤児として孤独に育ったのです。

 1人の寂しさや悲しみは分かるつもりですし……。

 そして、私は今ではもう王女ではありません」


 賢者という少女の両肩に載せた手に力を込めて、しっかりと抱き止める。

 早鐘のように鳴っている少女の心臓の音が聞こえてくる。少女には僕の鼓動の早さも伝わっていることだろう。


 胸に込み上げて来るこの感情は、ルナやアルテミスを僕の侍女にした時の気持ちのようにやるせない思いで溢れている。


「シャルロット王女……。

 私には、今のあなたの気持ちが透けて見えるだけです。

 前世の事までは分かりません。

 だけど、私の事を考えて言ってくれていることは伝わって来ました。


 ……ありがとう」


 ポツリと言ったそのひと言に、なんだか一層不憫な気持ちが込み上げて来る。


『この子は1人でずっと我慢して来たのだろうか?』

 そう思わざるを得ない。


「もう慣れました。

 でも、寂しさは癒せないものですね。

 あなたのせいで、心が折れそうです。

 一体、どうしてくれるのですか?」


 僕の心の声が聞こえている。

 ここで詰まるなんて出来ないよね。

 一瞬で思考は終わり、これでは読まれないだろう。


『私なら、少なくともお友達にはなれるでしょうし、そうなれば、寂しくは無くなる。

 私と一緒においでなさい。

 私は、やらなければならない事がありますが、あなたが来てくれるのならば、歓迎します』


 少しの間、沈黙が支配する。


「シャルロット王女、私は何をすればいいの?」


 不安げな顔は子供の顔にしか見えない。

 僕が保護してあげなければ、この先も苦労することだろうし、僕的に心配だ。


 屈んで、目線を合わせてから諭すように話した。

 これは初めて会った時に思った事だ。

 この子は何故か必要も無いのに怯えている。


 たぶん、1人でずっと怯えて生きてきたのだろうが、そんな必要は無いということを考えてあげないといけない。誰かがちゃんと庇ってあげないといけない。


「あなたは私には何もしないでいいの。

 この世は賢者としてしかあなたのことを見ない人だけではないわ。

 まあ、確かに私もあなたに聞きたいことはあるけど、今じゃなくていい。今は側にいるだけでいいの。

 じゃあ、早速お名前を付けさせてください。

 気に入らなかったら、言ってね。


 ……うーん、私の妹分だから、シャルロットから少しだけ取って、シャルロじゃあイヤかな?」


「えっ、シャルロですか?

 なんかしっくりしないな!」


「うーん、妹だから、みに、ミニシャルロット……、

 は語呂が悪いな。

 ミニシャル?

 あ、ミーシャは?」



「ミーシャですか?

 まあ、さっきよりましだし、いいかも。

 じゃあ、これを私の名前に使っていいの?」


 なんか微妙な顔を見ると、かなり心配なのだが?

 しかし、僕の妹にするなら僕の名前を少しは使いたい。そう、ミーシャは僕の妹だ。


「ええ、それに今から私のことを姉と思いなさい」


 極上と言える程の微笑みを久々に1人に向かって放つとよくわかるが、僕の微笑みの威力は凄まじい。

 賢者とあろう者が、真っ赤になって俯いてしまったよ……、ちょっとやり過ぎかな?


 ミーシャは、恥ずかしさに堪えて顔を上げると、おずおずと僕に聞いた。


「そ、それって、私のお姉さんになってくださることでしょうか?」


 ここで、更にニッコリと小首を傾げてしまった……。

 僕のおバカ!

 ミーシャは俯くのでなく、下を向いてしまったじゃないか!?


 いや、そんなことよりも、早く返事をしないといけない。


「ええ、そうよ。私の妹におなりなさい。

 それなら、家族から名前を付けて貰うことにもなるし、私も可愛い妹が欲しかったから、それでいいでしょう? ねっ、ミーシャ!」


「はい、シャルロット様」


「それ違うし、下を向いて言わないの! さあ、もう一度やり直しよ」


 ゆっくり顔を上げるミーシャは恥ずかしそうだが、嬉しそうな感じも見て取れる。


『さあ、言ってごらん』と心の中でミーシャの背中を押した。


「し、シャルロットお姉さま」


「はーい、ミーシャ。よく出来ました」


 ミーシャの頭をグリグリと撫でて、頬をそっと両手で挟んで額に軽くキスをする。

 そのまま抱き締めると、ミーシャの身体は硬くなった。軽く身を離してミーシャを見ると、目を丸くして驚いている。


 やっぱ、全然スキンシップが足りていないね。


 ……本当に孤独だったんだ。



「ミーシャ、これからはシャル姉と呼んでね。

 それと、遠慮はなしね! わかった?」


「はい、シャル姉さま」


「うん、よろしい。それじゃあ、そろそろ服を着ましょうね」



 その後、やっと下着姿からちゃんとした格好に戻れたのだが、冷静になって考えると、ミーシャを僕の複雑な立場に巻き込んでしまったんじゃないかという不安が沸き起こる。


 しかし、目の前の子供の笑顔を見れば結果オーライだと割り切れる。

 あとは、しっかり僕が面倒を見てあげるだけだから、そんなに難しい事ではないだろう。

 何と言ってもこの世界は僕を中心に回っているのだからね!

更新が遅れました。


m(_ _)mm(_ _)mm(_ _)m


3人で足りるかな?



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