イザールとフィズ嬢!
ドラちゃんに貰ったお魚を焼きながら、ハッとする。
あぁ、……肝心な塩がない。
このままでは、生臭いよな。
「ねえ、ドラちゃん。なんか調味料になるものは無いかな?」
諦めかけていたが、念のために聞いてみた。
「はい」っと、言ってポーチを僕に投げてよこした。
「言っとくがそれはイザールの物だから、あまり使うなよ。でも、あんたなら何も言わんか……」
頭をペチペチと叩いて、ありがとうの意思を表したが、くすぐったいみたいだ。
「ありがとう」
最後に言葉で伝えて、一応、生焼きの魚の頭から尾びれまで念入りに塩を塗りたくった。
しかもそのポーチの中には小さな葡萄酒の瓶もあったから、これを頂かないなんて考えられない。
少し、現実から脱出したいから貰っちゃおう。
イザール、ごめんね。
でも、このポーチに入れてある事が、そもそもの間違いだから、諦めてください。
いつか弁償出来ればするから、今日は……ごめん。
焼き魚を綺麗に食べてしまうと、出発する事になった。ドラゴンは、夜行性だから早目にアズール皇国の王宮に運びたいらしい。
そうとは知らずに、のんびりしていた事は、すまない気持ちになるのだが、凄く前向きな気持ちに切り替えられたから、とても貴重な休憩だったと思う。
悲しさや辛さまで、洗い流してくれたのだろう。
それから、ドラちゃんにまたがる事、だいたい1時間で王宮内の森の中に降り立った。
「やあ、シャルロット元気そうだね。
ドラもありがとう。まだして貰わないといけないが、暫くここで休んでいてくれ」
「ああ、イザールの言うとおりだったよ。
じゃあ、向こうの洞窟にいるから、出発は明日の晩にしてくれ」
「了解した。
では、シャルロットはついておいで」
ホッとしたのか、声が出ない。
先ずは、イザールにお礼を言わ無ければと思うのだが、色々なことが起こり頭の中が混乱して、伝えるべき言葉がすぐには出て来ない。
「あの、イザール様、ありがとうございます」
こう言うだけで精一杯だった。
イザールは、気にした風でも無く、笑っていたが、僕としてはなんとなく悔しいし、寂しかった。
王宮には人目を避けて入る。
これって……。
さすがはイザールだと褒めてあげたい。
僕が下手を打った事を責めずに気さくに友人として扱ってくれる。
本当にいくら感謝しても足りないだろう。
今の僕は、アストラーナ帝国の罪人と同じ。
あのまま牢屋で我慢していたら、平民として東の塔のから出して貰えただろうに。それをせずに僕は牢屋を抜け出した罪人という身分になっている。
その罪人となった僕をアズール皇国が公式に受け入れるのなら、アストラーナ帝国との火種になる事は容易に分かるはずだが、それを知った上で僕を拒絶せず、裏口とは言えども王宮の中まで入れてくれる。
なんと立派な人だろうか!
王の器という人格とは何かを改めて考えさせられる。
果たしてイザールは僕にとってお手本になる人物なのだろうか?それとも、僕を倒す相手なのだろうか?
味方と敵では、全く意味が違う人となり得るが、少なくとも今は味方だ。
もしも敵ならば、かなり手強い相手だっただろう。
少なくとも今のアストラーナ帝国の皇帝よりも思慮深い。
王宮に着くとイザールの部屋に行くものとばかり思っていたが、着いた先はあの秘密の部屋だった。
そこにはフィズ嬢が待っていて紅茶を入れてくれる。
「シャルロット様、いらっしゃい」
「フィズ様、お世話になります」
お互いに丁寧な挨拶を交わす。
相手は国王の婚約者、僕は元王女でしかも今は罪人という身分。
相手の立場の方が僕よりも遥かに上だと思うのだが、まだ王女扱いをしてくれる。
かなり……、嬉しい。
やっと味方が出来た気がする。
「フィズ、誤解するなよ」
なんか変な事を真顔で言って、イザールは僕に近づいた。いや、近づくなんて距離では無く、ほぼ間近に来た。何が始まるのやらと考える余裕はあるものの、意外な事をされてしまう。
あいったー!
何すんだよ。
『ビシっ』っと音が聞こえて来る程のデコピンをイザールがしてくれた。
……してくれた?
違う、しやがった。
涙目で睨むのだが、いっこうに御構い無しだ。
『はい、どうぞ』
いきなり、頭をイザールの胸に押し付けられた。
「おい、我慢は良くないぜ! 泣くだけ泣いてスッキリしろよ。平然としている君は凄いと思うが、まだ15歳という年齢で我慢は良くない。
子供は、泣く権利がある。
フィズもそう言ってくれたし、俺は不器用だから、こんな方法しか思いつかなかった」
しっかりと肩を握って優しく胸を貸してくれる。
悲しさを考えたく無かっのに……。
自然に悲しくなって来た。
「シャルロット様、私達はあなたの味方です。
だから、気にしないことですよ。
それにイザールが何とかしてくれると、私は信じてます。もし、アストラーナ帝国に帰れなければ、ここにずっといてください。
私達の友人として……」
我慢していた涙と声は、フィズ嬢の言葉で見事に気持ちの防波堤が崩れた。
『うっ、くくくっ……、ひっく、ひっく…………。
ひっく……」
フィズ嬢が僕の背中に優しく寄り添ってくれる。
とても背中が温かい。
その後、僕は一生、この時に感じた優しさを忘れることは無かった。
短めですみません。
少し、体調を崩してしまったので、次も少し遅れるかもしれません。
今後もよろしくお願いします。




