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もしやゲームの中なのか?

 一応、ギルバートからは客人扱いの立場で、屋敷に招待された。豪奢な造りとは言えない屋敷はギルバートの地位を物語っている。

 かなり紳士ではあるが、人が良すぎる点が出世から遠ざかっている原因と容易に理解出来る。

 案内された部屋は質素だが、歩き疲れた身体にはとてもありがたい。もう一歩も歩きたく無いし、早く寝たいが晩御飯は食べないと明日からの生活がかなり不安だ。


 少しして古びた木製のドアがノックされる。

 音の響き具合からいってもドアの分厚さは感じられない。つまり安物ということだろう。


「はい、どうぞ」


 なるべく明るく返事をするとリンがやって来た。


「王女様、どうぞお召し上がりください」と言い、かなり高価そうなグラスを運んで来た。


 グラスの中には紫色の液体が満たされている。


「ワインです。食前酒ですからアルコールは低めですので、ご安心ください」



 ……………………デジャブか?



 これって…………。


『おてんば王女は恋をする』って乙女ゲームのシチュエーションにそっくりじゃないか?


 ということは、僕はやはり王女なのか?


 じゃあ、じゃあ、僕が知る限りではこのワインには睡眠薬が混入されていて、そのまま飲んで眼が覚めると王宮に幽閉コースだ。

 それから、隣国の王子と強引に結婚される事になる。


 しかし、ワインを飲まないパターンでも、朝には縛られて、王女の実の妹に渡されると人知れず辺境の貴族の愛人として一生、部屋の中に監禁されることになる。


 おい、どうする?

 どちらも選びたく無いし、そんな人生は嫌だ。


「お姫様? 如何されましたか?」


 リンが不思議そうに見ているが、親から言われて監視も兼ねていることだろう。


 後で飲むと言ってもダメだろうし、いらないと言った途端に縛られて身動きが取れ無くなるはずだ。


 ……考えろ、真剣に考えるんだ。


 ゆっくり部屋の中を見渡すと豪華な調度には現代的に表現するなら、カップボードらしきものがある。その中には当然グラスもあるだろう。


 僕は椅子から立ち上がり、カップボードを開けて中のグラスを一つ取り出して、僕のグラスの紫色の液体を半分ついで、リンに渡した。


「リンさんと言いましたね。今日は助かりました。

 私と御一緒してくれませんか?」


 リンの表情が一瞬だけ困惑したことを僕は見逃さなかった。




 ──やっぱりだ。



 リンに半分が入ったグラスを渡してから、僕も一気に口の中に含む。リンも仕方無しにちょっとずつ飲み始めた。


 ここで、一か八かの賭けに出る。

 僕は足取りをフラフラさせながら気分が悪そうに手に持ったグラスを自然に落とすと、そのまま屈み込む。

 もちろん芝居なんだけどね!


『ガチャっ』という音が鳴り響き、グラスは派手に砕け散る。



 それを見ていたリンが慌てて「失礼します」と言うと足早にリンが部屋から出て行った。


 よし、計算どおりだ。

 僕は風呂場に駆け込み、口の中の液体を吐き出して、水でうがいをしてから、元いた場所に戻って屈み込んだ時に、ギルバートとがやって来た。


「王女様、大丈夫ですか?」


 ギルバートの後に続いてこの家のメイドが片ずけに来たのだが、リンの姿は見えなかった。


 ギルバートが如何にも心配だという声で僕に話し掛ける。


「ええ、少し目眩がするので休ませてください。

 食欲がありませんので、夕食は結構です」


「はい、分かりました。

 ですが、お腹が空かれた時には遠慮なくお申し付けください」


 そう言いギルバートは恭しく一礼して出て行った。


 僕はベッドに寝たフリをしながら、頭の中で考える。


 今のイベントはゲームでは無かったことだが、どうなるのだろうか?


 今の状況は、自分から受け身としか言えない。

 このままでは、いつ攻略されるのか分からない。

 僕のスタンスじゃないがちょい本気出すか。



 女の子の身体だけど、俺は男なんだから襲われたら洒落にならん。


 しかし、美人だよな。

 腰まで伸びた金髪にスレンダーな体型でも、胸はDカップで、しかも色々な所が敏感ときた。

 背も165cm前後かな?

 男からみたら、ちょうどいい高さだし、攻略してくれと言わんばかりの女の子だよ。


 さて、困った。

 次の一手が検討出来無い。

 その時にまたドアをノックする音が聞こえた。

 僕はいそいそとベッドの上に横たわりながら答える。


「どうぞ」


 入って来たのは、先ほどグラスを片付けた2人の若いメイドだった。

 1人は何やら、水差しとグラスを運んで来ている。

 もう1人は、畳まれた着替えを運んで来てくれたみたいだ。


 水は飲みたいが、2人が出て行ってからにしよう。

 丁度、金魚鉢があるからそこに少し垂らして様子を見てから飲めるか判断しよう。


 2人のメイドは無言のままだったが、僕のドレスの背中の紐を解き始める前に初めて言葉を掛けてくれた。


 ただ一言だけ「失礼致します」と。


 なんとか、2人から情報が欲しい。

 話題はないか?

 乏しい知識と回転力が鈍っている頭を使い、ある言葉を伝えた。


「あのっ、私は今、困っています。お話を聞いてくださいませんか?」


 2人は俯いたままでせっせと無視して手を動かしている。


 くそっ!

 無視しやがる。


 そこでポケットから2枚の銅貨を出してそれぞれの手に握らせと、途端に反応してくれた。


 現金なもので、スッと2人とも顔をあげて声をかけてきた。


「お困りなことがあると聞こえたのですが、なんなりとお言いつけくださいませ」


 もう1人も優雅に頷いているのだが……。



『おい。……………………聞こえてるじゃん』



 僕は心の中で悪口を言うが、顔は至って微笑みを浮かべてたままだった。

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