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逃げるのだ!

 1人になると何の音もなく静かになった。


 この牢屋の窓は高い所にある、更には鉄格子もされているから、逃げ出すことなど不可能だろう。


 爪先立ちしても1メートル程、手は届きそうに無い。


 諦めて乾草の上に寝転がると疲れのお陰で眠くなってきた。考えても無駄だから眠る方がマシだろうな。

 本当に何もすることが無いから、そのまま寝てしまうのも一つの考えだろう。


 まだ空は明るく、窓からは青空と白い雲が浮かんでいる情景が見えていて、なんか穏やかな気持ちになる。

 今置かれている状況も悲惨なものと決め付ける程ではないから、気軽といえば気軽かも知れない。


 肩も凝ってるし、足も痛い。

 やっぱりアズール皇国からの帰りの疲れが残っているみたいだから、少し寝ておこう。


 そう思って目を閉じるとすぐに意識が遠のいた。







 目が覚めたのは、羽音のせいだった。バサバサと音が聞こえる。この塔の上に鳥の巣でも有るのだろうか?

 鉄格子のある窓を見上げると、月明かりが見えるだけで、音の主の姿は無い。


「シャルロットはいるか?」


 不思議な声が聞こえた。


 いや、……聞こえたような気がした。


 そこに再び声が聞こえる。


「シャルロットはいるか?」と。


「私はここにいるわ。あなたは誰?」


 窓の外に向かって大きな声を出す。


「俺を呼んだのを忘れたのか? イザールからお前の所に行けと頼まれたのだが?」


 その声の主は窓の外を覆ったのだろう。

 部屋の中は真っ暗になってしまった。


「あなたは、誰なの?」


「窓を良く見てみろよ」



 黒光りしているが、よく見れば凹凸が有る。


 あれって、もしや…………鱗かな?


 いや、魚じゃないし、爬虫類なのか?


 ということは、ドラゴンなのだろうか?


「ドラゴンさんでしょうか?」


「ああ、さん付けで呼ぶ奴は初めて会うが、お前がシャルロットなのか?」


「はい、私です」


「どうして、こんな所にいる? これでは乗せられないじゃないか!」


「お待ちになってくださるのなら、大丈夫です。

 穴を開けますから、ほんの少しだけ待っててくださいね。あと、危ないですから離れていてください」


 僕は、ポケットから小さなジャックナイフを取り出して、壁を四角に切れ目を入れると、足で蹴った。


『ボコっ!』っという音と共に、厚い壁は見事に四角い穴が開いた。


 ふっ、人以外は刃物で僕に切れ無いものはない。


 約50センチ四方の穴から顔を出すと、黒光りするドラゴンが飛んでいる。

 アレに乗れば、アズール皇国に行くことが出来るのだが、その他にも色々としたい事があった。


「あの、ドラゴンさん。私を何処に連れて行ってくださるの?」


「決まっている。イザールの所だ。他には聞いてないし、アズール皇国までしか飛べない。

 さあ、早く飛び降りろ。ちゃんと掴まえてやるよ」


 巨大な身体は、二つの大きな翼で宙に浮いている。

 かなり不思議な光景に見えるが、この世界自体が不思議だらけだから、気にしても全く意味がない。


 僕も意を決して、穴から下を見るのだが結構風が吹いていて、命綱でも無ければ、かなり怖い。身体を乗り出すと、いきなりの突風に吹き飛ばされてしまった。



 あれれれれーーっ!


 や、やべーよ。


 あ、おかあちゃーん、ってお母ちゃんはいないんだ。

 じ、じゃあリーナ様にルナ、アルテミスでもフィズでもいいから、助けてくれー!



 真っ逆さまに頭から落下して、1秒の間に考えたことだが、人間は死ぬ間際には全ての能力が解放されるのだろうか?


 一瞬で、かなり助けを求めたよ。


 でも、現在も絶賛落下中だ!

 目をぎゅーっと閉じて、頭を抱える。

 全然意味をなさないだろが、一応、しないと気になるんだから仕方ない。


 こんなの考えたけど0.5秒しか経っていない。

 あと2秒しないで、サヨナラだ。

 また転生ならば、契約書を隅々まで読む事を忘れてはいけないよな。


「早く掴まれ」と言う声が聞こえるが、今はそれどころではない。


「今、忙しいのっ!!」


 パニックになりながら答えると、「やれやれ」と言う声が聞こえて来た。


『ドサッ』


 頭から落ちた!

 聞こえて髪の毛が地面に触れるのがわかる。

 この時ばかりは、僕の全ての能力はフル稼働している。

 覚悟を決めて、心の中で叫ぶ。


 ああっ、みんなさよならーーー!


 ………………って、死んでない?


「お前はバカか?」


 落ちた場所は、ドラゴンの身体の上だった。

 滑るように飛んでいる。


「さあ、何処かに掴まらないと、また風圧で飛ばされるぞ」


 そう言われて、翼の根元に移動して、首に掴まる。

 真っ暗な中では、黒光りしていると思ったが、本当の色は赤だった。


 スベスベした鱗は鮮やかで、1枚1枚がとても綺麗な宝石みたいな印象を覚える。


「あ、ありがとう。お名前を教えてくださいませんか?」


「アッハッハ。お前はやっぱりおかしい。

 イザールが言っていたとおりだな。気に入ったよ。

 ドラゴンに名前を聞くのは、イザールとお前だけだ。


 イザールに会った後には何処に行きたい?

 そこまでは連れて行ってやる」


 ドラゴンが楽しそうに僕に向かって言った。


「アズール皇国のジャングルの奥地に住むという賢者のところに連れて行って……」


「……賢者か? 会ってくれるか分からんぞ」


「私は待ちます。ずっと、ずっと待ちます!」


「ほう、じゃあ、イザールに頼むといい。

 あれでも一応は王様だ。それでも可能性が高まるだけで、会ってくれるのかは分からんぞ」


「いいえ、会ってくれます。私にはなんとなく分かるのです」


 正直、乙女ゲームの中には無い設定になる。

 このドラゴンもなのだが、賢者がいるのなら、僕に会うために存在していることと思われるから、きっと大丈夫だろう。


 その後、アズール皇国領に入ると、月明かりに照らされて小川を見つけたから、一休みしたいとドラゴンのドラにお願いした。


 ドラとは名前が無いからイザールがつけてくれた名前だそうだ。


「いい名前だわ」と気持ちと裏腹なことを伝えると、ドラは上機嫌になったが、イザールもちゃんと考えてあげればいいのにと思ってしまう。

 でも、本人が気に入っているから、やっぱりいい名前だわ!


 地面に降りて、小川の水に浸かる。

 汗が吹き飛ぶ!


 とてもありがたい!

 女としては汚れた姿は見せられないし。

 念入りに水浴びしてから服を着ると、ドラが魚を食べているのがみえた。

 大量の魚を飲み込んでいる。


 …………た、たべてー!


「ドラちゃん。それを1匹だけ分けてください」


 ギョロッとした目がこちらを向くと、迫力がある。

 このまま食べられてしまうかもって感じがしてしまう程、なんか怖い。


「おらっ!」


『バシャバシャ』と音がすると4、5匹の魚が草の上に落ちていた。


「ありがとう」とドラに言いながら、近くの木々の中に進んで小枝を探した。


 ちょうど良い長さの枝を小脇にいっぱい抱えて、さっきの場所に帰り、ナイフを使って魚の腹を切り、腹わたとエラを捨てて、枝に刺した。


 さて、火が欲しいのだが……。


「ねえ、ドラちゃん。もしかして火を吹いたり出来ないかしら?」


「あーん? 何てこと言うんだよ。当たり前じゃないか!」


 よし、焼き魚ゲットだぜ!

 僕は心の中で思い切りガッツポーズをした。


 しかし、この世界は本当に変な所で都合がいい。

 それを確かめるためにも先に進まないといけない。

 だから、ここで立ち止まれないんだ!

連載2ヶ月目に入ります。


はじめのひと月は、……予想だにしないPVとブクマ。今も信じられません。


ありがとうございますm(_ _)m

これからも応援して頂けると幸いです!

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