囚われの身?
父王からの言葉は今も信じがたい。
ここ数日で、何故こんな事になってしまったのだろうか?
やっぱり、アズール皇国にいる内に、賢者に会っておくべきだった。今回は、逃げることも叶わないかも知れない。
もし逃げても、この国には帰っては来れないだろう。
謁見の間での父王は、以前とは別人だと感じた。
「シャルロット・フルール・アストラーナよ。
そなたは今、この時を持って、王族から除名する。
安心しろ、命だけは助けてやる。来週の貴族会議までは東の塔で生活しておけ。その後は、何処なりと行くがよい」
アズール皇国の話題には全く触れずに、出て来た言葉だ。
いきなりの話みたいなので、謁見の間にいる全ての臣下達もかなり驚愕していた。
「えっ?」と思わず声を漏らす人も少なくない。
もちろん、僕も驚きはしているが、不吉な予感がしていた分、知らぬ間に心の準備は多少なりとも出来ていたようだ。
ここで怯まずに、打てる手を取って打っておかねば、後々かなりキツイ事になる。
危険を回避するため、本能が僕に警告する。
「お父様、どうしてなのです?
一体、私に何の罪があるというのですか?
仮にも帝国の王位継承権第1位にあるこの身を簡単に排除するなんて、暴挙ですわ!
それに、貴族会議と言っても名ばかりで、どうせ皇帝の采配でどうにでも出来るはずです。つまりは、私が邪魔なのでしょう?」
冷静に皇帝に向かいつつ、言葉を紡ぎ出すが、本音は違うことを考えていた。
今の暮らしを捨てざるを得ないのは、悲しいことだが、自由という魅力的な言葉が頭に浮かんで来る。
だが、この世界はそんなに甘くはないだろう。
王女という地位を無くした時には悲惨過ぎることが待っているかもしれない。
しかし、自由とは何て魅力的な言葉だろう!
もしそれが手に入るのなら、あまり騒がずにこの場は大人しく引き下がることが肝要だろう。
「シャルロットよ。簡単な理由だ。
お前は王女として相応しくないということだ。
アストラーナ帝国の繁栄には邪魔だと言っておこう。
どうだ、それだけでは不満か?」
冷酷な顔で平然として言い放つ。
「いいえ、もうこれで十分でございます。
では、王女ではなく娘として父に最後のお願いがあります。私の部屋にいるお世話になった侍女達にお別れの挨拶をさせてください」
僕は椅子から立ち上がり、膝をついて頭を下げながら涙を流した。
涙は……無論、演技なのだが、必死さは本気!
「まあ、その程度は良かろう。たかが女の身で出来ることは限られる。それに、父親として最後の温情には丁度良い」
父王はそう言うと、貴族達が唖然としている中、さっさと謁見の間から姿を消した。
僕が立ち上がると、両脇に近衛師団の騎士が近づき腕を掴まえるべく手を伸ばした。
「待て、私がシャルロット様を部屋に案内して、東の塔に送る。他の者は下がれっ!」
その声の主は他でもない騎士団長のグレイであり、部下としては従うしか無い。
心の中でグレイにお礼を言って、僕は王女然とした態度を崩さず自分の部屋だった場所に向かう。
僕の部屋だった場所にいたルナとアルテミスは僕を見て呆然としている。
既に、宮中に噂が流れ出しているのだろう。
びっくりしたろうね!
そりゃあそうだろう、本人である僕も同感だよ。
「ルナ、アズール皇国からお借りした鳥をこの窓を開けて逃がしてください」
「アルテミス、私の装飾を全て外してください。出来れば髪飾りは最後に取り外して、庶民がしているシンプルな金属製のピンに替えて貰えたらいいのですが……」
2人とも声も無く頷いた。
作業が終わると、2人にお礼を言うが、2人とも目が真っ赤になっている、涙で僕の顔は見えていないだろう。
「ルナ、あなた達の最後のお駄賃は、化粧台の左側の引き出しの袋に入れてますから、今の内に取っておきなさい」
ルナに早くと促すが、僕に纏わり付いて動いてくれない。
仕方なく、僕が動いて、それを取り出してからルナに渡した。しかし、それを渡された時のルナの表情には、かなりの驚きが見て取れる。
それはそうだろう、金貨が500枚は入っているのだから、とても重かった筈だ……。
これは僕が学校の建設の次にやりたいと考えていた平民のための病院を作る軍資金だったのだが、もう必要ないだろうし、2人には何かお礼をしてあげたかったからこれで良かった。
もう未練は無い。
アズール皇国から着てきた下着やお気に入りのワンピースを捨てる事はとても残念だが、私物を置いて去りたくはない。私物は捨てて貰うようにアルテミスにお願いしたが、自分で出来ることはしておきたかった。
全てのシーツやタオル等の使用していた物の始末を終えてから、ルナとアルテミスに別れを告げて軽いハグをしてから部屋を出る。
部屋の中から悲痛な泣き声が聞こえ、心を打つが僕は振り返りはしなかった。
グレイに「行きましょう」と伝えて、主殿から東の寂れた建物に移動する。東の館の奥に進むと突き当たりにある階段の前に着いた。
グレイと一緒に塔の階段を一歩一歩上がって行く。
かなりの段数の階段を上がると、ようやく一つだけ扉が見えて来る。
そこで当然のように階段も終わりになっている。
ここは、貴族達の牢屋として使われている場所。
何年も前から使われていないから、階段を上がるのは怖かったが、グレイが先に上ってくれた。
本当に外見だけでなくイケメンだと思う。
僕に前の世界の記憶が無ければ、既にグレイに気持ちは傾いていた事だろう。
本当にありがとう。
階段を上がる間、終始無口だったグレイに対して、扉の中に入る前に一言だけ告げた。
「ありがとう、あなたのお陰で楽しかったわ」と。
その後にグレイが見守る中、僕は自ら扉を閉じた。
グレイの靴の音が遠ざかると寂しさが襲って来た。
……不思議だ。
1人は慣れていたというのに……。
ここにはベッドなんてものは無く、乾草がベッド代わりに置いてある。
囚われの身とは言えども、前の囚人の牢屋とは格段に良い。アズール皇国への強行軍の時よりもここの方が寝心地も良いかもしれないが、王女が住む場所では無い。
ブクマ目標まで、あと4つ。
がーんば!
ふぁーいと! ………(笑)




