Hな話!
その部屋は、奥に行く程薄暗くなり扉も更に2つ潜ると、オートロックよろしく、鍵が掛かる仕組みになっていた。
グルグルと曲がりくねった細い道を進むと、段々と下がっているような感じがしているが、確証は無い。
『Hな話』というのは、こんなところでしなければならないのだろうか?
昔、男子学生は教室で堂々と話していたと思うし、話だけならこんなところまで来る必要は無いだろう。
ただし、Hな事をされるのなら、こんな場所を改めて考えると格好の餌食だと思う。
その時は、悔しいけど我慢するしか抵抗する手立てはないだろう。
この身体は結構、華奢だしね。
色っぽいと思うし、僕が男なら一目見たら最後、瞳を逸らせない程に美少女だと思う。
……やっぱ、ヤバい⁈
3つ目の扉を開けて進むと、暗がりの中に目指す相手が待っていた。
「やあ、シャルロット! 僕のことはイザールと呼んでくれ。同じ王族同士だから気軽にしよう。
俺は堅苦しいのが苦手なんだよ」
って、ハイテンションなイザールはホントに気安く僕を呼び捨てにしているが、ちょっと嫌かな。
それに少しウザいのですけど……。
「あの、あの。本当に、本当にHな話をするのでしょうか?」
演技力を駆使して諦め気味の暗い表情を作り、イザールに確認する。
イザールは至って真剣に頷いた。
おいおい、こんな厳重な場所で、ワイ談かい?
もしや、お姫様とか可愛い娘を相手にワイ談をするのが、お前の性癖なのか?
いやらしい言葉で攻めるのか?
男の時もそんなプレイはしたことないぞ。動画では見たことはあるのだが、それをされるとは想定外だ!
言葉で辱められるのって、かなり鬼畜だし、それで乙女モードに突入してしまう可能性も排除出来ない。
そ、それって、かなりヤバイし困るんですけど!
まだ、ストレートに身体目当てですって方が健全だと思うし、それなら覚悟がし易いかも?
いやいやいや、まてまてまて、まだ諦めるな!
まだ話も始まっていないし、厳重な場所ということは失敗しても人に聞かれないというメリットがある。
国家を動かす国王が、つまらないワイ談で僕に軽蔑されてもこの部屋でのことを僕から話すことはあり得ない。
素敵女子としてもワイ談のワの字も話せないじゃないか!だから、こんな厳重な部屋で2人きりで話す理由になり得るだろう。
「さあ、リラックスしてくれよ。
飲み物は、葡萄酒しかないが、それでいいね」となんと気さくで優しいお姿なんでしょう。
コレなら、この国のどんな貴族の娘でも落とせるだろうに。
不意に薄暗い部屋に灯りが点いた。
ランプの灯りに室内が照らされると、立派な机が目の前に飛び込んできた。珍しげに見渡すと、本、本、本といった感じで、足の踏み場も無い。
奥にベッドが見えているのは、僕の見間違いじゃないですよねー!
固唾を呑んで、イザールに近づくと、グラスを渡され、したくないのに強引に乾杯させられた。
一口飲むと、さすがにアルコールだけあって、気分が大きくなってしまう。
『もう、どうにでもしていいわ』って気分になるのは女になってから湧き起こる気持ちなのである。
その気持ちには子孫を残すための神秘が詰まっているのだろうし、僕も抵抗出来ない本能からのもの。
シーンと静まり返り、気まずい雰囲気が漂う。
僕は身体を強張らせて、何も言えない。
しかしイザールは「さあ、始めよう」と如何にも楽しそう。
「ええ、どうぞ」
素っ気なく生返事を返す。
「言っておくが、ここでの話し声は誰にも聞こえないから、安心して貰いたい」
何の安心なんだよ。
サムズアップなんて今どき流行らないし。
「つまり、悲鳴をあげても無駄ということなのでしょうか?」
「そゆこと! じゃあ、時間が惜しいから本題ね。
…………シャルロット姫の真の目的は何かな?
我が皇国に来られた理由とは、単に兄上の後始末と外交だけでは無いと思っているが?」
真面目な話を切り出しながら、机の上に地図を広げて僕に見せる。
「あ、あの。Hなお話では?」
おずおずと聞いてみる。
「そう、秘密の話だ。上ではダバン共和国の犬が何処にいるかわからない。だから、ここで話をすることにした。シャルロット姫が本当にHな話を聞きたいのなら、この話が終わってから、じっくりしよう」
Hって、『秘密』の『ひ』の事だったのか?
……紛らわしいし、なんか残念な感じもするよ。
僕もお年頃ということを認識してしまったんですけど……。それに、この火照った身体をどうしてくれるんですか?
『キュっ』と音がして葡萄酒の栓を開き、2杯目を自分のグラスに注ぎながらシレッとウィンクするイザールは、やはり切れ者らしい。
僕の考えを見抜いているのだろうが、イヤらしくも僕の口から聞きたいらしい。
「イザールさま。我がアストラーナ帝国には1つだけ弱点が有ります。そして、それはアズール皇国との交易を行うことで解決します。
我が国には、栄養価が高い野菜が取れません。
また、主食の穀物の収穫も不安定ですから、交易はとても重要です。ただ、それだけなのですが……」
俯きながら、小声で話す。
「ほう、俺はそれだけでは納得出来ないのだけどね。
今の話は、確かに嘘では無い。
アズールでは、2期作で十分な穀物を生産しているし、野菜も通年栽培している。
こっちとしても、塩の問題を含め交易は有難い。
しかし、もっと重要なことを隠してないか?」
ううっ、イザールってヤツは感が鋭いのだろうか?
それとも、何かを知っているのだろうか?
「じゃあお話を致しましょう。
実は、この世の中に2人しかいない賢者様にお会いしたいと考えております」
「ほう、賢者か? それは何故?」
「答えを探しているのです。
兄上がアズール皇国を狙った意味が分からない。普通はダバン共和国を攻めるのと思うのですが……。
それに、まだ不可解なことがあるのです。
兄上が謀反を起こした理由です。王位継承権第1位という立場にいたのですから、少し待てば皇帝になるのは決まっていたのです。
それをみすみす棒に振るなんて全く理解出来ません」
イザールは僕の話に興味を持ったみたいだった。
「それはそうだな。
確かに変だが、本人に確認出来ないのか?」
やっぱりそう来たか。
「アリエス兄様は、正気じゃないと思われます。一緒に謀反を企てた妹のナディアは、ダバン共和国の信仰で洗脳されていたようですが、兄上までとは思えません。兄上の慎重で、冷徹な性格を考えると人に操られるなどあり得ない。不可解なことが多過ぎるのです」
「そうか、分かった。
賢者は今、ジャングルの奥に住んでいるから、容易には近づけない。俺のドラゴンを貸してあげるから、訪ねるといい。親書も書いておこう。
さてと、俺も個人的に聞きたい事がある。いいか?」
「ええ、なんなりと」
「シャルロット姫はどうして、婚約しない?
世紀の美女が婚約もしないとは、世の男達は悲観していることだろう」
「んーっ、まだ実感が湧かないのですよ。
可愛い妹みたいな娘がいて、その子がお気に入りです。だから、暫くは子供は必要無いのです。
それに、私は今やアストラーナ帝国の王位継承権を持つ唯一の王族ですから、相手は慎重に選ばなけらばならないのです」
如何にも神妙に言いのけたが、性格は男だから受け入れられないって、ことだけなんだよね。
「そうか、アストラーナ帝国の王位に就く事が約束された今は、簡単にはいかないだろうが、グレイなんか丁度良くないか? 本人も結構、その気みたいだし」
「今は、考える時ではありません。
妹のフィズが可愛いから、子供も必要無いのです」
そこで、少しの変化があった。
イザールがピクリと狼狽えたのだ。
「イザール様はどうですか? まだ独身みたいですけど……」
「んっ、近々とは思っているよ」
「ええ、そうしてあげてくださいな。……フィズ・アーレンさんも待ち遠しいでしょうね。
そろそろお腹のお子さんにも気を付けないといけませんわ」
僕の爆弾発言にイザールが驚く。
「何故それを……」
「あら、簡単ですわ。フィズ・アーレンさんは私の世話をする際に、ずっとお腹を気にしてましたし、他の侍女のように踵が高い履物を履いていませんから、おめでたなのかな?と思っていたのです。
それに加え、この部屋の存在を知っている程、信頼されていますし、幾度となくこちらにお見えみたいでした。それに加え、私の妹の名前に反応したイザール様の狼狽え方で確信しました」
「なぁ、シャルロット姫。このことは……」
「ええ、言いません。イザール様がフィズ嬢の安全を確保してからの話ですね。でも、おめでとうございます」
最後にイザールにイニシアチブを得たことは僕には重要な転機になりそうな気がした。
それ以上に賢者には、個人的に聞きたい事がある。
しかし、乙女ゲームにドラゴンって設定はありか?
しかも、またしてもグレイの名が出て来た事は、今もグレイルートなのだと思ってしまう。
だが、グレイは奥手だから、イザールルートじゃなかったのは、救いだろうね!
また、遅くなりました。
ごめんなさい。
またファンタジー要素が強いなってしまいました。
何のジャンルの小説なんでしょうね?
作者も分からず、迷走中です(笑)




