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晩餐会!

 宴では、アズールの民族の踊りや音楽が披露され、賑やかなムードで進められる。

 両国の門出にはこの和やかなムードは歓迎したい。

 これでやっと大役を終えた気分を実感して、急に緊張感が抜けてきた。


 気分も落ち着いて食欲も湧いてきたから、目の前に並んだ料理に舌鼓を打つ。


 うん、美味しい!

 生きてて良かった!


 それから、僕の食事の進む具合を見計らって定番の挨拶が始まった。

 アズール皇国の貴族達が僕の前に群がって来る。


 微笑んで各人の話に軽く頷きながら、聞いている仕草をしているが、当たり障りない詰まらない話が多いから、いつもの夜会のように話の内容には、スルーを決め込んで名前だけを覚えることにしていたら、ダンスの音楽が流れ始めた。


 主賓である僕に、国王であるイザールが相手をしてもらいたいと、皆の前というのに少し大仰な仕草をしている。


 僕より20cmは背が高い。

 膝をついてくれると丁度いい高さに顔がくる。


 しかし、この姿はこちらの方が恥ずかしい。仕方なく早く止めてもらうために申し出にのってしまう以外に手はない。


 やっぱ策士だろう。


 優雅かつ軽やかにステップを踏むと、イザールも上手くリードしてくれる。


 ……慣れて嫌がる。


 これで、こいつは女慣れしていることが確定した。

 まあ、20歳は超えているだろうから、ひと通りの浮世の経験ぐらいはあって当然だろう。


 僕らの踊りが始まると、初めは周りで見ていた貴族達がカップルになり僕達と同じく踊りの輪の中に入り込む。


 イザールは踊りながらも余裕があるのか、僕に小さな声で話しを振ってくる。


「あとで、2人でHな話しがしたいから、僕の部屋に来てくれ」


 柔かな笑顔で変なことを言うんじゃないっ!

 瞬時にピクピクとこめかみが動く。


「嫌です! 全然結構ですし、間に合ってます」


 機関銃のように立て続けに言ってやった。

 しかし、僕は柔かな笑顔を少しも崩さない。

 それはイザールも同じで、なんかムカつく。


「あはっ、君はたぶん断れ無いよ。じゃあ待ってるね」と言って、鮮やかなステップで相手を替える。




 イザールの相手が終わり、自分の席に帰ろうとするが、目の前に順番待ちしている輩が出来ていた。




『………………』


 おめーらとは踊らねーんだがっ!




 軽く会釈して、するりと横を通り抜けようとした所で、腕を握られた。


 ハッとして相手を見ると、全く予想していない相手。

 それは、グレイだった。


 僕の部下が、王女の腕を握るなんて暴挙は到底考えられないが、グレイからは幾度となく同じ事をされているから、抵抗は無い。


 しかも、グレイは貴族階級で言えば、無視できない相手ではある。


 だが、こんなに積極的だった事は今までなかったから、驚きを通り越して固まってしまった。

 攻略の2文字が頭をよぎる。



「シャルロット王女様、1度だけ私の相手になってください」


 スッと伸ばした右手を見つめて、ついに僕はグレイに左手を任せた。


 ……このタイミングでは僕には断る術は無い。


 音楽に合わせて、踊り始めるが……。




 なんかスイッチが入りそう。


 あの乙女スイッチ(自称)が……。



 身体が熱くなり、動悸が激しくなって来た。

 ううっ、ヤバイなぁ!



 ……なんとか気をそらさないといけない。




 えっと、今日の宴の料理は美味しかったな。

 特に、サラダなんて我が国に無い色々な野菜が使われていて贅沢だったし、ステーキも分厚い割に柔らかくて良かった。あのソースは絶妙で、あとでシェフを褒めてあげたい程、久々に美味しい物ばかりだった。

 果実酒には初めて飲む味があったけど、さっぱりした柑橘系のものだった。どんな風に作っているのだろうか?


 グレイの顔を見ながら、雑念で乗り切る作戦はほぼ成功と思えたが、そうは問屋がなんとやら……。


「シャルロット様、どうかされましたか?」


 グレイの声で、一気に現実に引き戻される。


「あっ、ごめんなさい。少しだけ、考えごとをしていたわ」


 なるべくグレイの瞳を見ないようにして、生返事で答えるが、気に入らなかったのだろうか?

 強引に僕の顔を覗き込んで来る。




 …………あっ、ダメっ!



 暴走しそうな気持ちになって来ているのが分かるのだが、自分でもどうしようも無いらしい。


 ここで、何とか助け船がやって来てくれた。


 音楽が切り替わってくれたのだ!

 音楽が切り替わる意味ってパートナーを替える合図だから、すぐさま近くの令嬢っぽい娘に向けてグレイを引き渡し、僕は急ぎ足で踊りの輪から外れた。


 ドキドキがまだ続いている。

 間違いなく危なかった。



 別の意味でもドキドキしたよ!

 自席に着いて一口葡萄酒を飲んでから、イザールに断って席を立つ。

 お酒も回って来たから、部屋に戻りたいと告げると二つ返事で了承を得た。


 少しだけ覚束ない足取りになっているのは、やはり肩の荷が下りたせいだろう。

 早くベッドの温もりに身体を委ねたい。

 この頃は張り詰めた緊張感が続いていたから、今日ぐらいは、ゆっくり休みたかったのだが、そうは問屋が卸してくれなかった。



 部屋に戻ると、侍女から伝言を受け取った。

 イザールからの伝言で、今から話がしたいとのことであった。


「今日は疲れたから、御断りしたいのですが?

 明日なら嬉しいな」と出来る限り優しく言ったつもりが、侍女は僕の言葉を聞いた途端にすすり泣き始めた。


 くぅーっ、うざい!


 これが断れ無いと言っていた根拠なら、かなり卑怯だぞっ!


 僕は女の子の涙には弱いんだから、本当に卑怯だよ。

 僕も今では女だけれど、昔からの性格は簡単には治らない。


 泣くなと侍女に言って、しょうがなく支度を始めた。


 堅苦しいドレスだけ着替えるが、汗を掻いていたからそのまま行くのは躊躇われた。


 シャワーに入ると言ったが、今は復活した侍女から時間が無いとの宣告を受けて、シャワーを浴びるのは諦めた。


 しかし、そのまま行くのは嫌だったから、タオルを濡らして汗っぽい所だけは拭き取り、簡素なドレスに着替えてイザールの待つ部屋に向かった。


 身体を拭く程度の時間は許してくれたが、それもダメなら僕の方が泣いてしまったことだろう。

 そうなれば、侍女は慌てたのだろうか?

 長い廊下を歩きながら、詰まらないことを考えてしまった。


 やっとドアが見えてきたが、その間、長い廊下では、誰一人会わなかった。


 イザールの部屋は東に面していて、真ん中にドアがあるだけで、護衛は侍女を見ると、深々と礼をするとドアを開けてくれた。



 驚くべきことにその中には、更にドアがある。

 それも3つで、どれが本物なのでしょうか?


 僕がポカーンとしていると侍女のフィズが笑って指を差して教えてくれた。

 それは、左側のドアで僕が入ると、「ガチャ」っという音がしてどうやらロックされてしまったみたい。


 ち、ちょっと待ってくれ!

 内心、かなり焦る。


 これでは、襲ってくれと言わんばかりじゃないか?

 しかも、シャワーも浴びて無いし……。


 最悪だぁ!

昨夜、更新予定でしたが、仕事で帰りが遅くてさすがにバテてしまい更新が遅くなりました。


すみません。


あと、みなさんのお陰で、一月足らずで、2万PV達成出来ました。


とっても感謝です!


ありあと!

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