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和平協議?

「何を申すのか?」


 目の前のジジイが厳しい顔をしながらも最後の望みは聞くだけ聞いてやろうという態度で僕に向かって言っている姿が瞼に浮かぶ。


 イラっと来るが、このチャンスを逃す手は無い。


 僕は頭を床についたまま話し始めた。


「まず、本領地内での件をお詫び申し上げます。

 我が国の王位継承権第1位の兄であるアリエスが国内にて謀反を企て、アズール皇国にも侵略を図るなどといった暴挙を進行させておりました。

 私も皇帝もアリエスに幽閉され、命を落とす寸前まで危機が迫っていましたが、なんとか助けられました。


 その助けてくれた騎士が、私をこの国に連れて来てくれたのです。

 アリエスの悪巧みを知り、それを阻止するために父王から信託されて、私が来たのですが、遅かったようです。


 無益なことが起きたことは、謝罪します。

 そして、遺された方々には、可能な限り十分な手当てをさせていただきます。


 これから、私のお願いでございます。

 私をこの国に連れて来てくれた騎士達には罪はありません。この者達のお陰で私は助けられました。

 ですので、この騎士達だけは私の命と引き換えにお助けください。


 境界付近で無惨な戦闘を行った者共を捕らえたのもこの騎士達の功績です。

 愚行を行いし者達は、縄で繋いでこの国に連れて来ています。この者達がどうなろうとも私もアストラーナ帝国も何も申しません」


 とりあえず、いう事だけは言えた。

 いつしか、微かに聞こえていた喧騒も消えて静けさに包まれている。


「何でもするというのか?」


 ジジイの声だけが響く。


「はい、なんなりと。

 しかし、その前にアズール皇国の王にお話しがあります」


 スッと顔を上げると、皆から再び感嘆と賛辞が所々から小さく漏れ聞こえて来る。


「それはどういうことか? 単に懇願では無かったのか?」


 予想だにしていなかったのだろうか、多少の狼狽えが窺える。


「私は逃ません。ですから、私の処分はさておき、アアストラーナ帝国皇帝からの命を遂げさせていただきます。


 アストラーナ帝国は、アズール皇国と友好的な交流を深めたいと皇帝が申しておりました。

 つまり、平和協定を結びたいと……」


 言いたいことを言ってスッキリした。

 こんな場面に不釣り合いな笑みを浮かべて、周りの貴族に優雅でありながら、友好的な意味を込めて会釈する。


「シャルロット・フルール・アストラーナとやら、そなたは感違いをしているのではだろうか?

 我々は、君の生殺与奪権を握っているということを」


 ジジイに強気で言い放つが、真向勝負といこう。

 勝ち目のない戦いをしない主義は、僕の昔から変わらない唯一のポリシーなんだよ!


「確かに、あなた方には私の生殺与奪権をお持ちですが、アストラーナ帝国にはアズール皇国の生殺与奪権を握っていると言っても過言ではありません。

 それでもいいと仰る訳でしょうか?」


 ジジイを見据えて、更に優雅に微笑んだ。


 へへんだっ!


「あははははっ! じぃ、最後に負けたな!

 シャルロット姫、そこいらで勘弁して貰おう。

 私がこの国の国王であるイザールだ。

 我が国の生殺与奪権とはよく言ったものだが、それは塩のことを意味しているのだろう。

 では、ここはシャルロット姫の所有は私のものとし、平和協定を結ばなければアズールの負けだな。

 シャルロット姫、それでいいか?」


 わ・た・し・の・も・の・⁇

 個人所有ということは、婚約ということか?


 いやいやいや、あり得ない!

 それじゃあ死んだ方がましだよ。


 二タつくイザールを一瞥するが、優男では有るがどこか憎めない雰囲気が漂っている。

 後ろで纏めた長めの黒髪に柔和な坊ちゃんみたいな女顔、色も白くてさぞかし化粧映えすることだろう。


 金髪の流れる優男のグレイとは性格面でも反対側に位置しているみたいで、こいつはなかなか始末が悪い感じと思う。

 グレイとは立場的に外交の場数が全然違うのだろう。


「私に出来ることは何でもしますが、2つ出来ないことがあるのです。もし、それをしろと言われるならば、いっそひと思いに殺ってください」


 神妙な顔に切り替えて、細長い目でちろりと睨む。

 しかし、イザールは終始笑顔で顔から笑みを崩すことは無い。


「ほう、言ってごらん」


 余裕しゃくしゃくな態度は気に入らないが、頭の回転は速いみたいだから、慎重に話をしなければ上げ足を取られかねない。




「……エッチなことと、結婚です!」



 って、みんなに聞こえたかな?


 王女にあるまじき発言だったと後悔しきり……。


 僕の発言を聞いたイザールは腹を抱えて笑っているし、僕の顔は明らかに赤い筈だし、もう涙が出そう。


「あはっ!

 わ、わ、わ、笑って、わ、悪かった」


 って、まだ笑ってるじゃん!



 イザールの目には涙が溜まっているが、笑い過ぎで出てきたものであるから、かなりムカつく。



「それで、シャルロット姫の言うエッチなこととはどこまでなのかを知りたいが?」


 意地悪な顔に更に上機嫌な笑みを浮かべて勝ち誇っている。


 こいつ、意地悪だ!


 陰険そうだし、ねちっこそう!



 そんなことを僕の口から言えだと?




 …………まだ待ってやがる。



 しかも、満足気な顔をして。



 ──嫌なヤツ!──








「そ、そんなことは……、いえなぃょ」




 更に顔を赤くしながら、しどろもどろになってしまい完全に形勢が逆転してしまった。



「シャルロット姫、そんな声じゃあ聞こえない。しかし、レディに意地悪するのは僕の趣味じゃない。

 ただ今から、騎士殿と併せて国賓として扱わせて頂こう」


 そう言って、僕の前に片膝をついて、右手の甲にキスしやがった‼︎


 …………こいつ手も早い。



「皆のもの、今夜は歓迎の宴を催す」



 イザールが貴族達に向き直り、大きな声で宣言すると一際大きな歓声が沸き起こる。


 これはイザールの人徳だろうが、結束力がある。

 もし、この国と戦う事があるのなら、かなり強いことだろう。



 この僕でさえ、一瞬で赤くなってしまうのだから。



 その後、侍女に案内されて貴賓室に招かれた。

 ゆっくりしてくれと言いながら、両手で僕の握手の手を握る所は、スケベ確定とみた。


 しかも、イザールに恋愛フラグが立った可能性が高いため、僕の気持ちに余裕が無くなり、次第に気分が重くなる。


 イザールの性格を考えるなら、ダメと言われると余計に欲しがるタイプみたいで、さっきの言葉は火に油だったのかもしれない。


 ここにいるよりも早々に帝国に戻るのが安全かもしれない。だが、イザールに恋愛フラグが立ったならグレイのフラグは消えたのだろうか?

 もし、消えて無いのなら……。



 ダメだ!


 そこから先は考えるな………………。


 悩める気持ちを強引に切り替えて、手にした紅茶の香りと味を楽しむことに集中すろことにした。

喋りすぎ? かな?

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