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止めてください!

 父王から勅命書を書いていただき、僕は長旅の準備を始めた。

 即刻、足の速い騎馬部隊が選ばれて先遣隊に伝令を伝えるために派遣された。間に合うのなら、アズール皇国の中での無用な戦闘を避けられればと考えてのことであるが、この作戦も父王に僕が進言したことを聞き入れてもらえたのである。


 ルナに手伝ってもらい、僕は、毎日の剣の訓練に使用している質素な兵服姿に身を包み、腰にはギルバートてから無断で貰ったレイピアを下げて、羽の飾りが付いた帽子を深く被って、待っている騎士団の前に姿を現した。


 待っていた騎士団は、騎士団の中でも駿馬揃いでいて、騎乗する騎乗も実戦経験がある者や戦闘能力が高い者が選ばれている。


 父王の勅命書を侍従長から受け取ると、僕のために用意された馬に騎乗した。

 さあ、出発だとばかりにレイピアを抜いて、号令を掛けようとしたところ、父王自らにあっさりと止められた。


「シャルロット、貴殿の剣を見せてみろ」


 言ったが速いか、僕のレイピアを鞘ごと抜き取った。

 その技の早さに唖然とする。


 ……そうなのだ、父王の手にかかれば、女性の服はものの10秒も掛からず、知らぬうちに脱がされているという不名誉な噂を聞いたことがある。


 んで、気づいた時には僕のレイピアを取るだけでなく、ズボンのボタンとチャック、はたまた上着のボタン全てが開けられていた。さらにまた手が伸びている。



 ぬあああああっ・・・!


 すぐに手刀で払いのけて、胸元を隠したが、とても恥ずかしい。


 えーんと泣きたい気持ちだよ。


 どこからか、口笛が聞こえてきたがグレイが、投げた小石が見事に額に当たり、赤い顔の僕に向かって頭を下げた。僕の背後には目を吊り上げたグレイの姿があったのは言うまでもないだろう。



 ふとアイディアが浮かんで来たから、父王の手を掴んで腰から抜いたナイフで突き刺そうと思いやってみたのだが、扉を切った時みたいに軽く手の甲に触れるのだが、父王の手には跡さえ付かなかった。



 ……えっ‼︎



 どうして切れないんだ?



 ──あの金属製の扉をも切り刻んだというのに?



 恐る恐る、自分の白い綺麗な左腕に突き刺してみるが、単に窪んだだけで少し跡が残るのみ。



 素早く服のボタンを留めて、チャックを上げると、近くに大木があったので近づいて、軽く横に薙いでみるとスッという抵抗感が全く無い感触でナイフの刃はとおり、大木は切り口から自重に負けて倒れ始め、その先にいた騎兵達は、大木に潰されまいと我ぞ我ぞと逃げ惑う騒ぎにまでなってしまった。



 ……あれっ?


 これは、人は切れないということなのだろうか?

 いや、動物もかもしれない。


 近くの騎兵の騎乗していた馬の尻尾を何本か握り、切ってみると、サクっと切れた。


 むむむ、じゃあ人は切れないということらしい。

 ついでにナイフを父王が持つレイピアに変えて、大木の横にあった普通程度の木、直径約1m程度のものに突いてみると、やはりサクっと鐔の部分までめり込んでしまう。



 ……確定だ!



 この力が役に立つかどうかは分からないが、使い方だけは知ることができた。

 やっぱり、神さまは人を殺すことを避けているのだろうか?という疑念が起こるが、深く考えないことにした……、というより騎士団が僕に注目して見ている。


 これを手品と言って騙せるならいいのだが、皆の眼前で大木を切ってしまったのは言い訳が立たない。



 背後をチラ見するが、やはり注目されている。

 かなり熱い視線が背中を貫いている。



 だ、ダメだ、正直に話したら、魔女扱いされた挙句、魔女裁判で死刑となってしまうかもしれない。



 はぁ。


 ………………どうしたものか?



 ここは、みんなが信じそうな嘘で塗り固めるんだ!


「あの、皆さん。

 私は、幽閉中に牢屋の中で不思議な夢を見ました。


 不思議な淡い光から、言われたんです。


 この世界を救うようにと……。


 そう言われたのです。


 そして、その淡い光から『ソードマスター』の称号を与えると言われ、目を覚ますとこんなことができるようになっていました。


 神からの使命ならば仕方ありません。


 だから、私自らがアズール皇国に行って、友好協定を締結してもらう決心をしたのです。


 アズール皇国が味方になれば、ダバン共和国の領地だけが我が国の懸念材料となるでしょう。


 そして、そのダバン共和国にも私は行くつもりです。

 私のこの神の技で、ダバン共和国の首都のシンボルである神殿を破壊してみます!


 ダバンの邪神の教えは、それで潰えることでしょう。

 あの教えの指導者達を一掃することが、アストラーナ帝国の平和を勝ち取る唯一の方法なのです!!」



 ああっ、しまった……。

 つい頭の中で考えていたことまで言ってしまったよ。

 何が楽しくて最前線に行かねばならないのか?

 一緒懸命には生きているが、ここまでしたいとは思わない。何かの間違いだ!



 さあ父王、出過ぎた真似ですよ。

 ほら、早く怒ってください。

 ねえ、お父様、私…待っているんだからねっ!!



 って、父王よ僕に怒らないのか?



 じゃあ、誰でもいい。



 おーい、誰か止めてもいいんだぞ!

 僕は王女なのだから……。


『王女には危ないです、僕が代わりに』

 って男は……誰もいねーの?


 いや、誰か止めてください。僕が悪かったです。

 お願いですから、本当に誰か止めてくれっ!



 心の中で叫んだ絶叫は虚しくも、父王のひと言で砕け散った。


「皆の者、シャルロットの言うとおりだ。

 だから、シャルロットの指揮に従うように。


 シャルロット、アズール皇国から帰る前に、兵を集めておくから、ダバンの時には楽しみに待っていろ。


 それと、アレを出せ」


 皇帝の背後に隠れるていた侍従長が前に出て来ると、父王に長い包みを渡して、再び父王の背後に戻って行った。


「シャルロット、これを」


 そう言って、さっきの長い包みを横にして僕に向けて差し出す。


 僕は恭しく頭を下げながら片膝をついてそれを受け取った。



 あれ?……軽い。


 これって、なんだろう?


「皇帝様、開けても宜しくて?」


 父王は満足そうに頷くので、焦る気持ちを抑えながら優雅な仕草で包みを開けると、その中にはレイピアをひと回り小さめにした剣であった。


 鞘は、螺鈿のようで、端々には金細工で花の模様やアストラーナ帝国の紋章が記されている。

 剣にも鐔となる部分には鞘と同じような細工がされていて、握る部分は実戦用に滑り止めの革が細工され、凹凸を入れられていて、これは交換できるみたいだ。


 最後に剣を引き抜くと、真白い薄い刃であった。

 とても軽くて、しかも鋭い。


 これはかなり高価な品だろう、たぶん伝説に刀の素材として有名な深海龍の骨で作られたものだろう。


 有難いけど、今からでも遅くはないから、止めないのか?


 そんな僕の思いも虚しく、父王が出発の号令をかけてしまった。


 そんな、ひでぇ…………。

昨日は更新出来ずにすみませんでした。

楽しみ(?)にしていた方には、申し訳ありません。


<ご報告>

昨日は、なんと感想を頂いたんですよ!

とても、とても嬉しかったのです!!



皆様、これからも応援をお願いいたします。

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