軍議参入?
アリエス兄上とナディアを捕らえてから、父王は近衛師団の指揮権をグレイに任せた。
つまり、近衛師団の中隊長から近衛師団長に抜擢という誰もが羨む出世コースを歩むことになる。
この人選には僕も納得したのだが、新たな攻略コースが解放されたという意味が含まれる。
グレイとの恋愛パターンは、既に1度は終わっているのだが、ここで復活してしまったという訳である。
…………酷い。
神は僕に何を期待しているのだろうかと疑いたくなってじう。
僕はあの1件以来、王宮の中に幽閉されてしまったと言っても過言ではない。窮屈な宮廷生活の中で、楽しみは毎日の訓練で身体を動かすことぐらい。
夜会なんて興味無いから、最初の挨拶だけ顔を見せてあとは部屋に閉じ籠る。
王宮の引きこもり姫と言われてもおかしく無い程、外には出ない生活を好んだ。
ギルバートの家を出る時にちゃんとルナとアルテミスは連れて来ているから、僕としては部屋の中の方が安心で、しかも楽しい。
2人とは感動的な再会だった。
3人が抱き合って、嬉し涙を流す姿は他人からは異質に見えただろう。
主人と使用人が仲良しなのだから、到底理解出来るはずもない。
アリエスの実母であるナターシャ様はこの責任で、罰を受けることになろうとしていたが、僕とリーナの2人で父王を説得してなんとか部屋での謹慎で済んでいる。
当然のことながら、アリエス兄上は王族から除籍され、牢屋の中に囚われている。
まあ、生きているだけでも感謝してもらいたい。
グレイから聞いた話によると、グレイ達の配置は近衛師団では無く、他の部隊と合流して、隣国に大規模な奇襲を行い、その領土を奪うことを目的に集められたとのことで、ちょうど出発の前日に事件が起こったとのことだった。
それを聞いて、武具が揃っていた事に納得出来た。
しかし、隣国は確か、砂糖の原料や果物が豊富な場所と覚えているのだが、野蛮なやり方ではこちらの被害も多大になる。
それに、この国とはなんとか友好関係を築くことも可能と私的には思っていた。
というのも、今回の標的となった隣国、アズール皇国は我が国の南東に位置しているが、海に面していないため、海の産物を求めて我が国とは貿易が盛んに行われている。
確かに、豊富な食料は欠かせないのだが、自らが仕掛けるなどとは愚行と言わざるを得ない。
どうせなら、アズール皇国と友好条約を締結して、北西のダバン共和国の脅威に備えるべきところと思うのだが……。
近頃、国境付近ではキナ臭い噂を耳にする。
どうして、アリエスはダバンに進行しなかったのだろうか?
真北の方角には雲に隠れる程のスエズ山脈があるから、この方面からの進軍はほぼ考えられない。
南西にあるナジャ地区は小国の集まりであり、我が国を襲う事はあり得ない。
それと言うのも、狭い海程の幅があるナジャ川が流れていて、簡単には往来が出来ない。
真南には広大な海が広がるが、南東には砂漠地帯が広がっていて、この砂漠の真ん中には、大きな谷が我が国まで繋がっているため、アズール皇国には貴重な資源である塩は手に入らない。
そこを上手く利用すれば違うのだろうが、何故考えられないのだろうか?
──不思議でたまらん!──
ナディアについては、ダバンを挟んで反対側に位置する村に預ける事になった。
前世で言えば、修道女と同じ暮らしを強いられる。
ナディアの母はナディアが小さい頃に亡くなっているため、ナターシャのような罰は無かったが、ナディアの母の実家であるルフルト公爵家は、グレイのお家騒動の責任を取らされて一気に伯爵にまで格下げされ、その領地のほとんどを召し上げられた。
そのルフルト公爵家の領地をそっくりそのまま受け継いだのが、グレイにより復活を遂げたアルベルト公爵家である。元々が、ルフルト公爵の領地の半分以上がアルベルト公爵家の領土であったため、重臣以下の者が皆、納得している。
今回の大殊勲者と言っても過言ではない。
慌ただしい後処理が終わり、平穏さを取り戻して約1週間が経った。
僕は何時ものように朝の訓練の中で、興味深い話が聞こえて来た。
今日にも先遣隊が、アズールの集落に到着するはずだということを……。
それを聞いて、着替えもせずに父王に面会を求めた。
「お父様、アリエス兄上の指示でアズール皇国に先遣隊が派遣されているとの話を聞いてしまいました。
私としてはアズール皇国とは、なんとか友好関係を築いた方が良いと思われます。ここは、早馬を使って止めなければいけません」
軍議については、女性が口を出してはいけない慣わしがあるのだが、僕は構わずに話を続けた。
「アズール皇国が味方になるのなら、ダバン共和国だけを見張ればいいのですから、ここは手をこまねいているのはもってのほかです。
アズール皇国にダバン共和国の2つの国に挟まれれば、いくら本国が強大と言えども危険です」
「シャルロット、だまれっ!
いくら王女と言えども、軍議のことに口出しするでない」
そう憤慨しながら父王に一喝されたが、まだまだ引き下がれない。
「お父様! 女、女と言いますけれど、今回のことを収められるのは女の私にしか出来ないことです!」
僕は胸を張って、自信を持って父王を見た。
「ふん、ならばその案とやらを言ってみろ」
父王は顔を真っ赤にして怒っているが、全然怖くない。優しい父王を知っているからだろうね。
少し可愛いくも見えてしまう。
でも……やっぱり聞きたかったんだ。
さあ、僕の考えを話すとしよう。
「お父様、ありがとうございます。
今の現状は、既に我が軍の騎士団2個中隊が、アズール皇国に入ろうとしています。
まずはこれを止めなければなりません。
となれば、グレイでもそれを止める事は出来ません。
先遣隊はグレイが騎士団長ということを知りませんし、アリエス兄上の命令には逆らえません。
しかし、私が皇帝の勅命書を持参すれば、私に逆らう者はいないはずです。
この王位継承権を持つ私ならば可能です。
しかも、アズール皇国の中で既に戦闘を始めていても、王女である私が自ら戦闘を止めに来て、アズール皇国の王に謝罪するなら、なんとかなるでしょう。
いや、してみせます!
それに加え、和平協定まで締結してみせます!」
父王は目をつむり腕組みをして、暫く考えていたが、僕の意見に最後には賛同してくれた。




