表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/66

脱出!

区切りの関係から少し長めです。



 心地よい揺れの中で、薄っすら目を開けると眼前に見える通路らしきところには、無数の兵士が所々に倒れていた。


 寝起きで意識がはっきりしていないという状態だから正確な判断は出来ないが、どうやらこの暗さは地下みたいに見える。

 しかも、よく見てると暗がりで周りの状況は不明なままだが、通り過ぎる際、灯りに照らされた壁や床には所々に鮮血が飛び散った跡があり、僕としてはとてもショッキングな光景だった。


 僕の足では歩いていないのだが、誰かが運んでくれている。

 誰なのかは知らないが、兵士の1人だろう。


 ごめん、重いよね。


 でも、40kg前半だから……。


 たぶん、結構かるい…………よね!


 少しでも重いと言ったら、その顔を覚えておいて闇討ちしてやるんだ!!


 前世では、ラノベばかり読んで、闇討ちが転生した時のお約束と信じている僕には絶好のチャンス!


 僕を降ろす時に、何と言うかが早くも気がかりになって来た。


 しかし、揺りかごのように気持ち良い揺れの中で、再びぼんやりし始めていた思考回路がいきなり高速で回り始めた。


 自分のいまの体勢に気づいてハッとなったからだ。


 こ、これは、俗にいうお姫様抱っこという恥ずい格好になっているらしい。


 思わず気になり、僕を抱き抱えている人物の顔をチラ見すると、なんと父王自らが僕を運んでくれている。


「父王様、私は目を覚ましました。今までお運び頂き、恐縮でございます」


 だが、父王は僕を降ろすことなどしなかった。


「我が娘を運ぶことぐらい、父である私がすることだ。遠慮するな!

 婚約さえしていない愛娘に、変な男などの指を一本でも触らせるものかっ!!」と父性愛に目覚めてしまったらしい。


 父王にフラグが立たないように祈りながら、後ろを見るとグレイ以下、見知った顔が続いている。

 やはり、僕が気を失った後にグレイ達が助けに来てくれたのだ。



「父王様、あの笛はどこにあったのですか?」


「あっ? シャルロットは見ていなかったのか? あれはナイフの柄の中に入っているものだ。

 近衛師団では常識なのだよ。だから、シャルロットの護衛を解任される時に渡された意味はとても大きい。


 グレイには私もシャルロットも助けられたし、この機会に公爵家を復活させてもいいだろう。

 そうなれば、グレイはシャルロットの婚約者として相応しい人物となる」


 真剣な顔で、しかも嬉しそうに話している父の横顔を見ていると、攻略って1文字で逃げ回っている自分が情けなく思えてきた。


 しかし、やっぱり『あかん!』、『だめや!』、『堪忍してよ』の文字が頭をよぎる。



 考え事をしていたら、階段を駆け上がった先に月明かりに照らされた屋外が見えてきたが、外との出入り口にある牢屋の扉がしまり掛けている。



 この扉で今の場所が特定出来た。

 ここは王宮の裏手にある裏切り者を処刑していた牢屋に違いない。


 今は平穏な時代だから使う事は無いと、閉鎖していた所なのだが、アリエスにナディアは僕をこんな所に閉じこめやがったんだ。ついでに父王までも……。


 百歩譲って、父王だけなら怒らなかったかも知れないが、僕の怒りは頂点に達している。

 あの2人こそ闇討ちしてやる!



 ……いや、もっと恥ずかしい姿を国民に見せるんだ!



 心の中では意気揚々なのだが、実はかなりヤバイ状況だった。


 目の前の重い扉が閉まりかけていた速度が急に速くなった。


 えっ、まさか援軍が来たのだろうか?


 扉が閉まる前になんとか突破しようと思って、必至に走り、3人の騎士が扉に辿り着いたが、鋭い槍で足を貫かれて倒れた。


 飛び散った鮮血が僕にも降り注ぐ。

 グレイが3人に辿り着く頃には、扉は閉じて閉まい、外から鍵を掛ける音が聞こえてきた。



 …………くうっ、まさか、ここまでか?



 ――――絶体絶命!――――



 頭の中に不吉な言葉が浮かんできた。


 いまや父王も僕を膝にのせたまま座り込んでいる。

 他の騎士達も疲れが出たのか、無言で父王と同じく座り込む。


 僕は父王の膝から立ち上がる。

 見回すと近くにグレイが居るのだが、俯いている。

 部下が負傷したことを悔やんでいるのだろうか?


「ねえ。グレイお久しぶりね」


 愛想を振り撒いて、気落ちした雰囲気を出さないようにグレイに話しかける。


「シャルロット様、貴方様と皇帝陛下を助けにくるどころか……我々も捕まり、申し訳ありません」


 グレイの綺麗な顔には所々、血が付いていて命がけで来てくれたことがわかる。そんな一生懸命な頑張りに対して、労う言葉が出てこない。


 励ましたいと思うけれど、何を話しても空振りになりそうで恐い。しかし、気持ちは言葉で伝えないと、伝わらない。


 僕はドレスのポケットからハンカチを取り出して、優しくグレイの顔の血糊を拭いてあげた。

 心の中では、『フラグは立ちませんように』と祈りながら……。


「ねえ、グレイ。私とお父様はここで2人だけで心細かったのよ。でも、あなたやあなたの配下の人達がいれば、どうにか出来ると信じているし、とても力強いわ。

 うしろを振り向くのは、やるだけのことをしてからでも良いと思うわよ。


 ……だから……。


 って、あれ?


 私は何で、こんな簡単な事を思いつかなかったのでしょう?


 ああ、グレイ喜んで、たぶん大丈夫だわ!


 グレイ達は、この扉が開いたら外の敵をお願いね。

 私は、この扉を開いてみます。

 父王様、ナイフを私に渡してください」


 グレイは意味がわからずに僕の言葉に呆然としている。


 僕は構わず父王からナイフを受け取り扉の前に立ち、華奢な両腕でナイフを構えると後を振り返り、ニッコリと微笑んだ。


「さあ、ソードマスターに選ばれし私が、このナイフで扉をあけましょう」


 そう格好をつけながらナイフでバッテン印の様に切り裂く。やはり、豆腐に差しているような感触しかしない。


 グレイは呆然な顔に加え口を開け、更に目を丸くしている。


 そんなグレイの姿を父王は笑って見ていたのだが、扉が完全に開くと、すかさず父王が倒れている3人の腰から長剣を抜き取りかけ声をかけた。


「我はアストラーナ帝国の皇帝であるぞ! 我に刃向かうものは容赦せん!

 グレイ、遅れるな。コヤツ等を1人も逃すな!」


 このかけ声と共に、グレイ達が扉の外に躍り出る。


 眼前にはアリエスと宮廷騎士団がざっと500人が囲んでいた。



 ここで僕の心の中に最初に浮かんだ思考は、『詰んだ!』の1言だったのだが、突然、ここに来て父王が笑い始めた。


「ハッハッハ! 我は一騎当千と呼ばれていることは知っているな。この程度で私に勝てると思うのか?」


 そう言った途端に父王は走り出した。

 グレイ達も後を追いかけて、包囲網を突破すべく容赦なく長剣の乱舞が競われるように血しぶきが上がる。


 その光景を目の当たりにした騎士団が怯み、後退を始めたのがわかると父王とグレイが二手に分かれて隊長クラスだけを狙って倒す。


 指揮官が殺されて指示する者がいなくなった騎士団は、あっと言う間に統制が崩れてバラバラな動きとなる。


 その間をチャンスと捉えて、父王はアリエス兄上とすれ違いさまに渾身の一撃をたたき込んだ。


 アリエスは咄嗟に防ぐが、父王の力には及ばず、長剣もろとも弾かれていた。

 すぐさまグレイがアリエス兄上を掴まえると、数分しないでグレイの配下が駆けつけて来てくれた。

 これで形成逆転してこちらが有利となった。


 なんとかなった。

 ひとまずはもう少しだけは生きられる。


 ふうっとため息を吐くとグレイから声が掛けられた。

 父王も近くで聞いている素振りのようだ。


「シャルロット王女様、先ほどのソードマスターとは一体、何でしょうか?

 それにあの重い扉を切る技はどうされたのでしょう?良ければ教えてください」


 うっ、やっぱりあのことか?

 どうしようかな?

 正直には話せないし……。


「グレイ、誰にも言わないでと約束出来る?」


 即答だった。


「はい、もちろんです!」


 やっぱ、仕方ないよねー!


「あのね、あれって実は、手品なのよ」


 一瞬で、場が凍る寒気を感じるが、そのまま続けた。


「あの木の扉にあそこを切ると開くと何か、王宮の書物に載っていたことを試したのです。だから、ラッキーだったわ」


「じゃあ、地下牢の金属の扉はどうされたのでしょうか?」


「ああ、あれは錆びてガタガタでしたわ。私にあんな扉を開ける手立てはございません」


 そう言い切って、口笛を吹いてはぐらかすとグレイも父王からもそれ以上は追求されなかった。

 しかし、2人の冷たいジト目が痛かった。

ブクマ60ありがとうございます。

今後も頑張ります!

勝手にランキングの応援もお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ