まさかの展開?
こっそり扉の外を覗くと、屈強な男達が見張っている。僕が切り刻んだ扉は無残な姿に変わっているが、鉄板相手に音もせずスッとまるで豆腐やプリンに刺しているかのごとく、軽くて音もしない。
どうしてだろう?
そうは思うが、じっくりと考えてるのは助かってからでも遅くは無い。
ここは何処なんだろうか?
どのくらいの兵士が僕達を見張っているのだろうか?
ジメジメした床に横座りしながら、静かに考察していたが、集中する前にすけべなヤツから邪魔された。
「なあ、シャルロット。そのナイフを貸してくれ」
じろっと斜め上の顔を一瞥するが、無視を決め込んだ。
「さっきはごめんよ。しかし、男ならあんな姿を見せられれば、同じ反応だったと思う。
いや、絶対に同じだ!
絶世の美少女のあられもない姿……。
ああ、良かった!!
しかし、貴殿はどうして婚約しないのだ?
引く手あまたと聞いているが?」
「お父様、思い出させ無いでくださいませんか!
そんな、あ、あられもないだなんて恥ずかしい。
それに美少女だなんて、今更至極当然のことを言わないでください。この世界に私を超える美少女がいるのなら、私の立場を代わってもらいたいわ!
攻略を気にする私のこの小さいとは言い難い胸に突き刺さる痛みは他の誰にもわかりませんっ!
ですから、私としても簡単に婚約って、勿体無さ過ぎるから、できないのです。
更に私と婚約すれば、その相手こそ、他の殿方の嫉妬で命が危なくなるでしょうし、私の婚約の話を聞いて悲しみのあまり死んでしまう人もいることでしょう。
ということから、『わ・た・し』には結婚は無理なのです!!」
一気に恥も外聞も遠慮も無い僕の気持ちを述べてしまったのだけど、反論しないということは父も納得してしまったということなのだろう。
もう、勝手にしてくれ。
「シャルロット。すまなかった。
貴殿がそれ程の考察をしての結果とは思ってもみなかった。
しかし、王女として生まれたのなら、この国の発展に寄与して貰わねばならない。
……それはわかってくれ」
珍しく父王がしょんぼりしていた。
思えば、僕が転生する以前も父王とはまともに話をしたことはないみたいだから、もしも助かるのなら今日の出来事は大事なことになるだろう。
皇帝という立場を抜きに謝る姿は、父のそれと思えるし、最後の言葉は皇帝としての立場からの言葉と言える。僕にしても父王は孤独なのだと思い知らされる。
「……はい、お父様」
僕はナイフを父王に差し出した。
「いいのか?」
「だって、お父様なんだもん」
手を出して来ない父王の手にナイフを握らせてから、両手で肩をポンと叩いた。
『ガンバ』という気持ちと共に。
父王は無言で頷いたが、微かな光に映し出される頬を伝うものは見間違えたりはしない。
この時、初めて父が纏う孤独と、その背にのし掛かる責任の重さを垣間見る貴重な瞬間だった。
しばらくナイフを眺めていた父様は何を思ったのか、ナイフのグリップの下の金属部分を握り、力一杯捻った。
グリップ下部の金属部分は軽く回り出して、5、6回、回すと父王が握った状態で外れた。
「シャルロット、この本来の持ち主は?」
父王の真剣な眼差しには、既に皇帝としての威厳に満ちている。
「近衛師団のグレイと言います。私の護衛をしてくださっていた隊長さんです。ナイフは先日、解任された時に頂いたものですが……」
「ああ、グレイだったのか」
1人で納得している父王に僕は我慢出来ずに、気が付いたら質問をしていた。
「お父様、グレイを知っておいでだったのですか?」
身を乗り出して聞いて来る僕をニヤニヤしながら父様はポツリポツリと話してくれた。
「グレイという名は、私が付けた。
近衛師団に引っ張ったのも私だ。
彼は、成人する時に公にするつもりだったが、私の妹が嫁いだ今は無きアルベルト公爵家の忘れ形見。
ナディアの母であるルフルト公爵家の陰謀で謀反を起こした罪をきせられて先王に潰されたと聞いているが、定かではない。
だから、グレイはお前にとって従兄弟にあたる」
えっ?
なんだこれ?
やばくね?
『…………?!』
アルベルトっで思い出したけど、このルートは僕が王宮から学校に通うことで、護衛部隊と親密な関係となり、夜会にも出られない名も無き騎士と逢引をするパターンの終わりのシーンにちょうど重なる。
…………つまり、今から助けに来るのはグレイであり、その時点で僕は婚約させられる。
それって、無理!
やだ、絶対にダメっ!
いやーーっ!
でも、でもでも、今の状況は絶対絶命のピンチを切り抜けなければ、どうせ隣国の王子に貢物扱いで届けられるだけだろうし……。
とすると、この国に残る方がまだ手は有るのかも知れないし、ゲームのワンシーンに重なっても、このゲームエンドは違うかもしれない。
気持ち的にも、どちらかというとアリエスとナディアを倒さねば気が済まないし、ここは一旦、逃げる方に全力を尽くすしか無い。
通常プレイどおり、恋愛フラグが立てば、自然とわかるだろうから僕も注意していればなんとかなるかも知れない。
1度だけ乙女モード(自称)に突入して、ヒヤヒヤしたことがあるのだが、乙女モードに入るための条件を満たす必要があるだろうから、あの時の状況を分析してみることが重要かもしれないよね。
あん時は自分の制御さえ困難だったし、どうにでもなれと思ったことだけは覚えている。
現実として、身体は見事な女性なのだから別に運命に流されることに逆らうだけがこの世界での僕の幸せとは限らない。
口から出る言葉は思ったことと違う丁寧な口調というのもなんか変だよな。
僕が、旦那様を選べるのなら、僕をお構いできない程、いっぱい愛人を作ってくれる人を選ぶといいのだろう。
あたくしには手も触れない様にする事も出来るかも?
実際にその線もありかもしれない。
アリエスが排除されるなら王位継承権は事実上、僕が父王の次となる。
そうなれば、他国の王子の妻なんてあり得ない。
それなら、やっぱ子供を作らない夫婦という関係を力づくで築くことも1つの案に取り入れよう。
そんな思案に耽る僕の目の前で、父王が見たことがある笛を吹いた。
音を発っしないが、配下の者には聞こえるとグレイから聞いている。弓弦の原理で笛の音が鳴ると腰にぶら下げた長剣の柄に付けた根付の様な部品が振動し、笛の鳴った位置を確認出来ることになっているらしい。
「お父様? どうされましたか?」
「シャルロット、助けを呼んだ。
あと少しの辛抱だから、我慢してくれ。
可愛い我が娘にはこんなところは似合わない」
格好付けて、サムズアップしている父王が黒く汚れた顔でニカっと笑ってくれる。
もう安心だと思う中で、疲れのために身体が動かなくなってしまう。
無意識に甘えが出たのか、意識せず父王に寄りかかり、胸の鼓動に聞き入ってしまう。
それから僕の意識が無くなるまで数分も掛からなかった。
やっぱりファンタジーか?
少しずつ、中身が題名に近づいて来ました。
それに昨日だけでブクマが5人も増えました。
サンキューでーす!m(_ _)m




