変な夢!?
何時ものように、剣技の訓練が終えると、ギルバート邸に戻るのだが、この日は珍しく王宮に留まるように皇帝からの命令が下された。
自室に戻ってシャワーを浴びて汗を流しスッキリするとゴテゴテとした慣れない衣装に着替えなければならない。
僕にとっての未だに抵抗があることの1つ。
しかし、皇帝に会うからには、それ相当の姿にならなければいけないため、仕方ないと諦めるしかない。
自室で侍女となったリンと談笑していると侍従が呼びにやって来た。
そのまま皇帝の居室に通される。
皇帝である父王はそこには居なかった。
かわりに居たのは、アリエス兄上。
背筋とうなじを伝う汗が滝のように流れ、僕の危機を物語っているように止まらない。
お父様はどこ?
…………気配が無い。
……………………何処なのだろう?
不意に腕を掴まれて、本棚に叩きつけられる。
兄から目を離した一瞬のことだった。
『ドン』と鈍い音がして、次第に目の前が真っ暗になる。
──── 恨むなよ ────
軽い脳しんとうなのだろうが、このままではヤバイと頭の中ではわかっているけれど次第に意識が薄れて来た。
兄上のことだから、僕の命も使い捨てなのだろう。
…………この世界も短かった。
まだ、この世界ではやりたい事もあったのだが……。
なんだか、とても口惜しい。
『………………お……わ…っ…………』
◇◇◇
「やあ、久しぶりだね」
目の前の光は何時しか見たことがある。
また、死んだから別の世界に行くための契約を結ぶのだろううか?
「僕は、また死んだのか?」
柔らかな光以外は見えない。
周りには前の時のような華やかさはない。
次は地獄に行くのだろうか?
ルナやアルテミス、2人のお母様、フィズ、可愛いいちびっこ達、それにグレイ……、ごめん。
僕は、この世界では頑張っていたよね。
自己満足かもしれないけど、少なくとも後悔することは無いだろう。
「アハっ、君の姿を見てごらん。まだお姫様でしょう。
それに、いまの気持ちは聞こえたよ。まだ頑張るかい?」
「うん、贅沢は言わない。
あと少しだけでいいからお願いします」
「ずいぶんと変わったね。じゃあ1つだけ教えてあげる。まだ、君は死んでいない」
「し・ん・で・な・い?」
「そう、だから目を覚ましたら、赤い薬瓶を飲んでごらん」
「どうなるんだ?」
「さあ? わからないから生きるって、楽しいんだよ。さてと、時間だ。機会があれば、また」
◇◇◇
ここは?
どうやら変な夢を見ていたようだ。
カビ臭くて、ジメジメした真っ暗な部屋らしい所に僕は寝かされていた。
頭が痛いのは意識を失う前に嗅いだ薬のせいだろう。
しかし夢の中のあの光は、何だったのか?
赤い瓶と言っていたが……。
身体を動かそうとするが、痺れて動けない。
声を出そうと試すが、唇も痺れているらしい。
意識が朦朧とする中で、この部屋を見渡すと、もう1つの陰を見つけた。
豪胆にも座ったまま寝ているらしい。
薄っすらと見える姿は、父親、つまり皇帝に見える。
感覚が鈍くなっている頭を無理矢理働かせると、1つの答えに行き着いた。
兄上の謀反という事実。
僕は早速、父王を起こそうとするのだが、身体が動かないために近づくことすら出来ない。
両手はしっかりと後手に結ばれているから、本当に囚われの身となっている。
動かない身体の中で、頭と指先に足首から先はどうにか動くみたいとわかる。
父に近づくには時間はかかるが、それしか手段は無い。じっくり時間を掛けてジワリジワリと近づくが、僕の顔の上を虫やトカゲみたいなものが乗り越えていった。
「ブーン」という羽音は聴き慣れている悪魔な黒いヤツだろう。僕の生理的に受け付けないヤツの突発的な出現がこの危機にチャンスを与えてくれた。
「きゃーーー!」と掠れた声しか出なかったのだが、父王が目を覚ますには十分だった。
寝ぼけた感じで周りを見渡すと、僕を見つけたらしく近づいて来てくれる。
しかし、父王も両手を後手に縛られているみたいに見えるから、大して前進するという程でも無いようだ。
「シャルロットか?」
「うっ、ん、んんっ」
返事をしたくても言葉が出ない。
「そうか、そんなに私に会えて嬉しいのか」
と1人悦になる父王を冷めた視線で咎める。
「いや、冗談はさておき。どうにかしてここから出なければならないが……。
しかし、シャルロットと2人きりというのもいいものだ」
こいつは何を言ってやがる!
文句の1つでも言いたい気分だ。
しかし、声が出せないから早々に諦めて、次の行動に移った。僕の太腿に備えているナイフを見せるために脚をあげてスカートを捲る。
『バサッ』という音と共に僕の下半身は見事に父には丸見えだろうが、ナイフがあることに気づきさえすれば、結果オーライだと思う……のだけれど、恥ずかし過ぎて顔から火が出そう。
確か、今日は絹地で可愛いレースが施されたやつだっただろうか?
いや、思い出さない方が身のためだろう。
しかも、父王の目は僕のパンツ辺りに釘付けになっていて、一向に気づかない。
いや、父王のことだから、気づかないフリをしていることも十分考えられる。
目を皿のようにして見ている姿なんて、親とは思えたくない。
ううっ、恥ずい。
目を逸らしていたが、ふと気づくとパンツ辺りに熱い息を感じる。
近づいてガン見している父王に、そんなことすんなとばかり、頭を膝蹴りすると、父王はハッと我に帰ってくれた。
やっと僕の意図していたことを把握して僕の太腿に巻いてあるサバイバルナイフに後手で抜き取ろうとするが…………。
こいつ、太腿ばかり触りやがる!
この変態っ!
我慢すること、約1分。
すすり泣くフリをするとやっと止めてくれた。
この鬼畜親父がっ!
スルッとナイフを抜くと器用に僕の手を縛る縄を切ってくれた。意外にも刃物の扱いは上手いみたいだ。
伊達に前線で指揮を執っているだけのことはある。
僕から先に自由にしてくれたのは、自分を縛る縄を切るのは難しいのだろう。
自由になった手を見ると縄の跡がくっきりと刻まれていて、その辺りの感覚がない。
綺麗な白い腕に蛇のような跡……、なんか無性に腹がたつ!
父王から催促されるが、僕はニヤリと笑いながら父王に近づいて、鼻の下に伸ばしていた口髭を掴んで切り落とした。パンツをガン見し、太腿をお触りしたお返しだ。
「お、お前、一体何をする!?」
父王の悲痛な叫びに、鼻先にナイフを当てて制すると静かになってくれた。
父王の縄を切ってやろうと思っていた気持ちが削がれたから後回しと決め込むと前から気になっていた赤い瓶を取り出して開けてみた。
……夢の中で飲めと言っていたよな。
毒かな?
いや、転生者に毒を持たせることは無いよな。
じゃあ、飲んでみるか。
ひと口で飲み干すと、身体に異変が生じた。
身体の至る所が熱を持つ感覚がすると次は全ての筋肉が締め付けられるような感覚にかわり、気絶しそうになるのを必死で耐え抜いた。
しかもこの間は息ができずにかなりキツイ。
『ゼーハー、ゼーハー、…………』と息をすると次第に落ち着いて来た。
一体、何だったのだろうか?
心臓の鼓動が普段の早さに落ち着くと、ナイフを手に取り、父王の縄を切ってやるが、その切れ味は縄を切るそれでは無い。
まるでプリンにスプーンを刺している程度の力で済んだ。しかし、試しに父王を動かそうとするが、重くて動かない。
一体、どんな能力が身についたのだろう?
そう思いながら、ナイフを重厚な金属性の扉に突き刺す仕草をしてみると、あっさり貫通してしまった。
所謂、無双という能力なのか?
これって乙女ゲームじゃなかったのか?
疑問が疑問を呼ぶのだが、この際、どんな能力でもありがたい。
僕は金属性の扉を切り裂くと父王を急かし、ひとまずここからの脱出を図ることにした。
ファンタジーにジャンルを変えた方が良いか悩んでます。やっぱり、コメディーから離れてきましたよね。
今回も読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m




