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氷雪の狙撃手  作者: ゆうかりはるる
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5-2

 幾つかの建物を過ぎると、別系統の広い通りに出た。

 と同時に、一気に人通りが増えるというか、まさしく祭りの活況がそのまま展開されている。

 ほんの数百メートル離れた場所が不自然なほどの静寂に包まれるようであったのに対して、ここはまさしく正反対の場所となっていた。そもそも人とモノが集まるとなぜこれほどにも騒々しいのか。道行くひとりひとりが打楽器や笛を携えているわけでもないのに、なぜだかとにかく喧しい。本人は騒々しいが別に騒々しい場所が好きなわけではないノカは一瞬自分の目的も忘れて呆けてしまった。何せ、五年ぶりに開催された星流花祭については噂程度のものしか知らなかったのだ。まさか、これほどにも盛大で盛況なものになるとまでは想像していなかった。何となく、面白くなりそうな予感はしていたものの、そこまでの期待もしていなかった部分もないとは言えない。

 そんなノカは往来の端で半ばフリーズしていて、ノカが当初の目的、すなわち「ミサナを探していたら見かけた何となく怪しい六回生たちを追跡する」という目的を完全に忘れてしまっているのだが、それを言うならそもそも「ミサナを見つけること」こそが本来の目的なのではなかったか。とツッコミたくもなるのだが、繰り返しになるが本日はツッコミ役が不在なのだ。

 しかし、天は味方をしてくれた。

 というのも、

「あれ? なにしてんの?」

 と本日何度目か、ノカに背後から声がかかる。

「うふぃっ」と意味不明な音が口から漏れる。が、声の主が誰なのかはわかっている。ノカはパッと振り向くと、至近距離にいたエミめがけて突進した。

 しかし、ノカの手荒い抱擁は空振りに終わり、偶然通りすがった男の教官の背中に顔面から突進する羽目に。もっとも、堅い岩のような教官の体躯は、重戦車両のごとくに微動だにせず、さっとノカの身体を受け止めると、「気をつけろよっ」と軽いノリで言い置いてさっさと行ってしまった。顔意外は無事に守られた。乙女の大事な顔以外は。

 顔面のひりひりをかみしめていたノカは、我に返ると、いつもと変わらぬ調子で一部始終を見守っていたエミに向き直り、

「……エミーっ!!!!」

 と叫びながら再び突進していく。そして今度こそ捕らえたかに思われた瞬間、さすがは射撃大会決勝進出者、ひらりと身を翻したエミは悠々と、今度こそ地面にダイブするノカの姿を見送った。周囲では、「ねえ、あの子、何とかバトルで決勝まで残ってる子だよ。やっぱり身のこなしが超スゴイ…」「コレって場外乱闘的なやつ…?」「ナイス・ストリートファイト!」などというざわついた声があがり始めている。

 幸いにして周囲も元から騒がしいので、そこまで悪目立ちしてこそないが、あのバトル会場の異様な熱気のなかでも普段と変わらない無色透明さを保っていたエミは、それゆえにこのような雑踏の中でも気づかれるようだ。

 そうこうしているうちに、アンデッドモンスターさながらに起き上がったノカが、少しは学習したのか、はたまた本当にアンデッド化したのか、とにかく妙に遅いスピードでじりじりとエミに接近してくる。その姿に思わず地獄の亡者の姿を重ねてしまうのは、さすがにちょっと可哀想か。

「エ…ミ…」あ、やっぱりアンデッド化してるかも。

「なに?」しかし、神に祝福されているエミにはアンデッドモンスターの発するパッシブ・スキルによるバッドステータス攻撃は無効になるようであり、周囲の熱気とは裏腹の涼やかな姿でいつものとおりにノカに向けて微笑みを返す。

「ミサナが、行方不明なの!」

 ミサナ、という言葉を発した途端、まるでそのフレーズに浄化作用でもあるかのように急激に復活したノカの言葉に、やっぱりエミは微笑みを返す。

「ミサちゃんは、ミス星流花祭コンテストに向かったよ?」

「え、本当?」

「うん。ちょっと前に別れたとこ」

 エミのその言葉に、ほっとするとともに、何だかどっと疲れが出てくるノカ。「なーんだ、心配して損しちゃった」

「心配って?」

「いやー、ミサナがいつまでたっても来ないから、行方不明なんじゃないか、って話で、わたしとかもさがしてたんだよ。たぶんリーンもまださがしてるんじゃないかな」

「そうなんだ。じゃあリンちゃんさがさないと」

 エミの天使のほほえみに、ノカはうんざり顔で答える。

「え、別にいーんじゃない? ミサナがもしもうミスコン会場に向かってるなら、リーンもきっとすぐに合流できるでしょ」

 リーンというのは、つまりそういう女なのだ。

「そっか。じゃあお祭り、一緒にまわろ?」

 相も変わらぬマイペースに、ノカは彼女にしてはきわめて珍しいのだが、苦笑を浮かべ、しかし一瞬後にはもう、破れるような笑顔でエミの腕をとる。「よし、じゃあ行こう!」「わたし、たこさん焼きが食べたい」「おっいいね、このわたしの嗅覚さえあればあっという間にお店見つけたげる」「あ、お店はこっちだよ」「知ってんのか!」「うん、さっきお店の前を通ったらね、美味しそうだったから。でもわたし、射撃?コンテストの控室のロッカーにおさいふ入れたままで」「おっ、さてはこのノカ様にたかるつもりだなー?」「やきとうもろこしと、果物ジュースも」「いーよいーよ、おねーさんが全部買ってあげるぜ」「あとからあげと」「まだあるんかい! つうか、ミサのミスコン見にいかないと」「お腹が減ってるので不可」「あれー? 今日のエミさんは我儘だ」「だって午前中がんばったもん」「しょうがないな、じゃあひとつだけだぞ? それ食べたらミスコン会場に向かうってことね」「じゃあ残りは終わってからでいい」「おのれ、絶対たかるつもりだなー!」「うん、だってお祭りだし」

 その頃、ミサナの登場を待ちわびるミスコンステージ上では、謎の覆面集団が犯行声明をしていたのであるが、ミサナの親友A・親友Bのふたりは、もちろんそんなこととはつゆ知らず、お昼を過ぎてさらに増えつつある星流花祭の人混みの中へと消えていった。

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