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ミスコン会場の雰囲気は、かなりまったりとしたものに変わっていた。初めこそ、五人目のミサナが現れないまま進行が止まっていることに抗議の声が上がったり、またミサナを求めるコールが断続的に起こったりもしていたが、すぐにそれも止んで、ステージ上に並んだ四人の軍服の少女たちが微動だにせず立ち尽くしている様子もただの風景になりつつある。
夏の行楽地に見られるようなやたらと人口密度が高い上に、行動の単位が数人というミニマムな輪が際限なく連なって虫のさざめきのような音がバックグラウンドで鳴っている。
そんな夏の思い出になりそうな雰囲気は、あっさりと壊れた。
『ちゃらららりら〜』
チープなファンファーレが鳴った。
会場内の人々の視線がさっとステージに向いた。ファンファーレがステージから聞こえたわけではないのだが、何か動きがあるとすればステージ上であろうと皆が無意識に思ったのだろう。
ステージ上の様子は一変していた。
十五分か、あるいは二十分以上、入場行進を終えてステージ上に居並んだエントリーナンバー1から4番までの四人の少女たちが、式典用のやや装飾の凝った軍服に身を包み、不動の姿勢で行きたまま石像になった神話のなかの登場人物たちのごとくに屹立しているのは相変わらずだが、このとき、ステージ上にはざっと見ただけでミスコン出場者の四名以外に十人以上の人間がひしめいていた。
ちなみに、闖入者たちは全員、揃いの頭部をすっぽり覆う真っ白いマスクをしていた。そして彼らは皆、学園の制服を着ている。何者たちかは不明であるものの、とりあえず学園の生徒であることは明らかだったためか、警備係の教官には動きがない。
観客たちは展開についていけないまま、どよどよと、先程までとは種類の違うざわめきを引き起こしつつ状況を見守っている。
すると、マスクガールズのひとりが、壇上中央に置かれたマイクスタンドの前に立ち、高らかに言い放った。
「我々、神聖アイドルラボラトリーは、ここに、星流花祭ミスコンをジャックしたことを宣言する」
途端にどっと沸き起こる怒声や悲鳴の音の柱。
名乗っちゃったらマスクした意味ないじゃん、というツッコミを入れる人物は、残念ながらステージの上にはいなかった。




