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氷雪の狙撃手  作者: ゆうかりはるる
33/40

4-7

 ミスコンのステージの後ろ側は、出演者控室兼スタッフルーム兼道具置き場兼…要するにとにかく人とモノで溢れかえった空間となっている。

 その片隅に、ミスコン実行委員会が辛うじて確保したスタッフ用のミーティングデスクがある。

 書類の散乱した長方形のテーブルの周囲に置かれた五、六脚の椅子は現在ひとつだけが埋まっており、そこには半ばテーブルに突っ伏したような格好で頭をかきむしるひとりの生徒の姿があった。年頃の少女にしてはいささか、いやかなり薄汚い風貌になってしまっているこの少女こそは、アイドル研の会長にして今回のミスコンの実行委員長、学園に伝説のミスコンを復活させた立役者、アラモ・ドナートハその人である。

 トレードマークは瓶の底のように分厚いガラスでできた通称ぐりぐり眼鏡である。髪はボサボサでツヤがなく、服装も何だか古びた感じ。だが、よくよく見ればその肌ツヤは、さすがの十代後半の瑞々しさがあったりもするのだが、やはり見た目の異物感は学園内でも一際浮いており、総合評価は「残念でしょう」になってしまう。

 そんなアラモは、がばっと身を起こしたかと思うと、

「があーーーーーーーっ」

と意味不明に叫びながらボサボサの頭を掻きむしり、また止まったかと思えば、

「くそう、堕天使…話が、話が違うじゃないかっ!!」

 優勝候補ナンバーワンのミサナ・ハイクリフがミスコンに遅れそうだという情報が入り、ミスコンスタッフが全員で頭を抱えているところにふらっと、いつもの妖しい雰囲気をたたえて姿を現したのが、ご存知学園の堕天使、生徒会副会長のサリア・イグラルムだった。

 サリアは生徒会のミスコン担当として、これまでもミスコン準備段階からアラモたちアイドル研もとい、ミスコン実行委員たちと接する機会はかなり多かった。どういうつもりかはわからないが、サリアはかなりミスコンに対して何かこだわりを持っている雰囲気をアラモは感じていた。実際、準備段階でのさまざまな問題点はサリアに相談することで軒並み解決され、何とか今日の開催まで漕ぎ着けた。

 そのはずだったのだが。

 せっかく五年ぶりに復活したミスコンの、メインヒロインが、いない。

 本当は間に合うはずだった。ミサナが出場し、決勝まで残ってしまった射撃大会は、サリアに手を回してもらって何とか予定を変更させた。だから、ミサナはギリギリ間に合うはずだった。それどころか、ミサナが射撃大会の会場を出た、という連絡を受けて、見切り発車でミスコン出場者の入場行進を始めてしまった。射撃大会会場とミスコン会場は、普通に移動すればものの数分の距離だ。そこでアラモに欲が出た。

 いっそのこと、ミサナをステージに直行させようと思いついたのだ。射撃大会の準決勝を終えて、そのままミスコン会場に駆けつけたメインヒロイン。学園のヒロインを決めるイベントに最後に姿を現したのは強さと美しさを併せ持つ究極の戦女神。そんな妄想がアラモの脳髄を駆け抜け、気づけば、既に若干押し気味だったミスコンの選手入場にゴーサインを出してしまった。

 だがしかし、肝心のメインヒロインが、来ない。

 いくら会場が混雑しているとはいえ、一流の軍人のタマゴでもあるミサナの身のこなしならば、どんな人混みでもささっと抜けられるはずだ。さっきからサリアの姿も見当たらず、一度楽屋にやってきたミサナのクラスメイトだという頭の切れそうな下級生も、事情を聞いてミサナを迎えに行ってもらったのだが、ミイラ取りがミイラになってしまったのか、これまた戻ってくる気配もない。

 本来であれば、遅刻ということでミサナを失格にしてミスコンを進行すればすむ話である。ミスコンの途中参加は認められておらず、規定では入場→整列までに会場に到着しなければならない。だから、アラモが一声、コンテストの進行を指示すれば、その時点でミサナは失格となり、ミスコンの審査に入ることができるのだ。

 しかし、その決断だけはアラモはどうしても下すことができないでいる。

 理由を上げれば、サリアが恐いからとか本命不在で強行に進行しても、後からケチをつけられる可能性もないとは言い切れない。が、それはさておき、アラモの直感が、ここは「待ち」だと告げていた。このミスコンには必ずミサナ・ハイクリフを出場させなければならない。

 使命感にも似た感情が、アラモを控室でうんうんと唸らせ続けている。

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