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氷雪の狙撃手  作者: ゆうかりはるる
32/40

4-6

 とにかく敵の顔を拝んでやるぞ、とノカは建物の表側へ回る。

 学園の敷地、イコール軍の敷地は、どこもかしこもだだっ広いので、その建物の前も、果たして道路なのか広場なのか判然としない開けた場所であり、星流花祭のメイン会場群からはやや離れたところではあれど、人通りもそれなりにあるようだ。それらの人々が何のためにこの辺りをうろついているのか、ノカには片っ端から怪しく見える、つまり、ミサナに仇なす敵グループの一員に見えてしまうのだが、そもそもそういうノカこそが、それらの人から見たら、こんなとこで何やってるのだろう、ということになる。祭りの日の人々の行動原理を単純化するのはそれだけ難しいということだ。

 それなりに人の動きがあり、時々は車両の往来もあるようなので、ひとまずノカは、この建物の斜向かいにある、似たような建物を目指して歩き出す。斜向かいと言っても百メートルは離れており、その建物前に適当に佇んでいれば、この敵のアジト(いつの間にかノカの中ではミサナを生贄に学園を占拠しようとするテロ組織みたいなイメージがすっかりできあがっている)を見張るのも容易だろう。相手の目的がミサナであるならば、ミサナがどこにいるのかノカにもわからないものの、より人が集まっている方面へ移動することは間違いないだろうし、そうであれば、はっきり言ってこのあまりにも開けた眺望は、尾行を尾行という表現で語れないほどに、相手の後をついて行くのは容易だろう。いくら諜報演習もまた最下位だったノカであっても。

 そして、今日のノカは一味違うようで、まっすぐ目的の建物へ向かうのではなく、この、敵のアジトの裏手にいたことを悟られないよう、まず目指す方向から九十度ずれた方角へまっすぐ向かい、そこからカーブを描いて巻くようにして移動する。おかげで途中から敵のアジトを視野に収めつつ移動することができる。

 相手が一流の諜報員で、建物の正面以外の入口から出たかあるいは特殊な歩法で周囲に意識されないように移動したのでもない限り、いまのところ、建物に動きは見られないようだ。

 ノカはこれまた何の施設かわからない建物の入口の段を数段登って日陰に入ると、本人的にさりげない感じでそこに立つ。

 ここまでのすべての行動が、憶測をもとになされたわけだが、果たしてノカの見張りに意味はあるのか。

 昼を過ぎて、暑さは本格化していた。日陰でも暑いというか熱い。日陰なのに暑いのが余計に腹立たしいような感じだ。ぬるい麦茶を飲まされたような気分とでも言おうか。

 それでも一息ついたことで、ノカは少し冷静になった。

 冷静になったということはつまり、自身の行動に疑問を持ったということでもある。

 いつの間にかスパイ映画のような気分で動いてしまっているが、そもそも敵のとり得る具体的な行動って何だろう。学園の何かの施設内にいる以上、相手も学園の関係者であるのは間違いないだろう。

 とすれば、今日わざわざ目立った行動をする理由は限りなく薄い。人が集まっているがゆえのどさくさを狙っているのかもしれないが、確かに犯行を外部の人間によるものと思わせるのには都合がいいが、いくら目立たないように動こうとしても、今日このキャンパスの中でも一番と言っていいくらいに目立ちまくっているミサナに関わろうとする限り、隠密行動には無理がある。

 そんなことを柄にもなく延々考えているノカであるが、相変わらず敵アジトに動きはなく、ひょっとして自分はとんでもなく無駄でマヌケなことをしてるんじゃないかしらと思い始めた頃、ノカの見つめる先で、建物の入口から、数人の人影が、姿を現した。

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