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氷雪の狙撃手  作者: ゆうかりはるる
31/40

4-5

 いまや会場を覆うざわめきは、抑えきれないものとなり、特に、一般客の男性たちから運営に対する野太い野次が飛び始めている。

 そしてその野次や怨嗟や|(大袈裟ではなく)その他各種の不快な感情はすべて、結果として、ステージ上に居並びきおつけの姿勢を保っているミサナ以外のコンテスト出場者に向けられている、少なくとも、ステージ上にいる限りにおいてはそのように感じざるを得ない状況だ。

 もちろんいまのところ、日常的に厳しい訓練をこなしている彼女たちは会場渦巻くダークな雰囲気を気にも留めていないが、この遅刻がミサナ陣営の作戦ならば、それはやっぱり腹立たしい、と思わせる程度には彼女たちも焦れている。

 午前中にミサナと激しいバトルを繰り広げたキラ先輩はというと、実は立ったままほぼ眠っていた。これは彼女が訓練中もいかに効率的にサボる…じゃなくて、体力を温存するために編み出した特技である。細い切れ長の瞳は元々表情を映しづらいため、瞳が睡眠によって光を失っていてもそうそうバレることはない。そういう意味では、立ったまま動く必要のないこの状態は最高の休憩タイムなのだ。

 しかし、そのキラの安眠は、不意に横から聞こえた声によって妨げられた。

「いつまで待たされなきゃならないのかしら」

 それは、キラに次いで四番目にステージに上った同級生、四回生のミラリィ・トルンクルスだった。ミサナに次ぐ予選第二位。実際の年齢以上に大人びた風貌の、ちょっとキツめの印象を与える少女である。

 ミラリィの言葉は、キラに話しかけたものではなかった。心中の不満が思わず声に出たのである。キラの場合はまったく気にしていないのだが、ミラリィはポーカーフェイスの裏で不満を募らせていたのだ。下級生の、それも自分よりも目立ち、普段から有名であもあり、将来的にも軍の頂点まで駆け抜けていくであろう戦闘の才能の持ち主でもある。誰もがミサナの優勝を確信しているこのコンテストはまったくの茶番であり、二番手に甘んじている自分はただの噛ませ犬だ。

 それでも参加を辞退しなかったのは自尊心の問題もあるが、もっと別の理由からでもあった。

 実は、伝統的にミスコンの優勝者は次年度の生徒会長になるのが慣例である。とはいえ、五年間行われていなかったミスコンであり、その間、二度とコンテストは復活しないだろうということが前提で、生徒会長は選挙による投票ではなく、現生徒会執行部内での推薦者を学校側が承認するという形で、いわば内々で決定してきた。

 そして、ミラリィは現執行部の第二書記。四回生では筆頭の役職であり、つまり、もしもミスコンが行われなければ、あるいはミスコンによる慣例を採用しなければ、彼女こそが、次期生徒会長候補なのだ。

 しかし、ミラリィの希望はミスコンの開催が発表されると同時にあっさりと砕かれた。

 その日の執行部会で、生徒会副会長サリア・イグラルム、すなわち、学園の堕天使によって、ミスコン優勝者を次期生徒会長に推薦することを強行採決によって可決されたのだ。生徒会長が議長を務める執行部会において、事実上の議事決定権を持つのは副会長のサリアその人であり、現執行部会は副会長派が多数をしめている。ミラリィは表立っては会長にも副会長にも与して来なかった。立場的に中立を保った方が意外と次の生徒会長に推薦されやすいだろうと考えていたからだ。しかしミスコンの開催がそのようなミラリィの立ち回りをあっさりと無に帰してしまった。

 いまのミラリィにとって、ミサナはただのミスコンの優勝を争うライバル以上の、忌々しい敵となっていた。

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