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氷雪の狙撃手  作者: ゆうかりはるる
27/40

4-1

 折しも、太陽がその熱さの本領を発揮しようという時間帯に差し掛かっている。

 すでに晩夏から初秋へと暦は移ろうとしていたが、陽気までいちいちカレンダーを気にしているわけではないらしく、まだ夏を忘れないとばかりにじりじりと人々の肌を灼いていく。

 そしてその日差しは、この屋外基本行動訓練場と普段呼ばれる、学園内の敷地のなかでもっともただ土しかない場所に建設されたミス星流花コンテストの特大ステージの上に並ぶ、四人の少女たちにも、等しく降り注いでいた。

 ステージは美術学校上がりの特殊工作教官の手によって、およそ軍隊とはかけ離れたきらびやかなものに仕上がっていた。

 本来、土木と美術、そして音楽といった芸術分野は、争いが戦争へと近代化されていくその初期から軍隊に内包されていた。最先端の科学と芸術が交わる場所、それが軍隊という組織なのである。

 特に近現代においては情報戦とそれに伴う特殊工作の重要性は増す一方であり、当然、並のIT企業では及ぶべくもないハイスペックなテクノロジーが巨額の税金の投下によって実現されている。

 けれどもいまこのとき、そういった現代の軍の有り様は、この場所ではまったく関係のないものだった。

 ステージに居並んだ十代のうら若き乙女たち。隠そうにも隠し切れないエネルギーが溢れだしている。

 そして、それを迎える会場もまた、ステージから降りてくる若さのオーラとエネルギーを跳ね返さんばかりの熱気に埋め尽くされていた。

 まるでアイドルのステージのような光景。

 本来ただの整地された土のグラウンドであるはずのそこは、土塊の一辺たりともいまは見ることはできない。

 明らかに、客の七割は一般客。それほどの注目度が、世間から寄せられている証拠である。

 実際のところ、今回のミスコンの開催を認めるにあたって学園上層部、すなわち軍は、ミスコンを最大のコマーシャルとして利用することを条件として盛り込んでいる。そのため、早くからマスコミに情報を流し、予備投票の結果すらテレビのニュースとして報道されるほどだ。軍の敷地に堂々とカメラを入れられる日、ということで、大手テレビ局はすべて来ている上、このミスコンに限っては、国営放送局による独占生中継がされている。

 舞台はちょうど、派手な音楽とともに今日の出場者たちが、ひとりずつ、ステージへと登場し、四人目までが上がったところである。

 これも学園側が譲らなかったことのひとつであるが、ステージに登場した出場者たちが身につけているのは、漆黒の軍制スーツ、式典などでのみ着用される軍の正装である。

 式典用であるため、もともと見栄えは充分なものであり、それも若い女性下士官用ということもあって、全体のシルエットは洗練されていて、出場選手の幾人かは、豊満な肢体の持ち主であることを隠すことができていない。そう言えば、そのうちの一人は、陽の光をあざやかに赤く照り返す髪の持ち主、なんとキラ先輩である。

 ところで、ミスコン本戦出場者は全部で五名。現在ステージ上には四名。あとひとり足りない。

 が、四人目がステージに上ってから、すでに五分は経過している。

 日差しと人いきれでむせ返るようなこの会場において、ただ待たされる五分は永遠にも等しい。会場内のざわつきはやがて、ひとつのコールへと、統制されていく。

 まったく予備知識のなかった客たちも、半ば洗脳でもされたかのように、一緒になって繰り返している。

 それは、

「み、さー、な。み、さー、な」

 そう、我らがミサナ・コールだった。

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