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氷雪の狙撃手  作者: ゆうかりはるる
26/40

3-12

 その頃、星流花祭まっさかりの学園の片隅に、非公認サークルの部室が並ぶ古いプレハブの建物の中のとある部屋では、いささか大変な問題が起こっていた。

 狭い室内は紙類を中心に大変な散らかりようであり、現在、部屋の中央に置かれた会議机にぎゅうぎゅうに座った四、五人の部員たちが顔と顔をくっつけるようにして、突然発生した問題への対応に窮してうんうん唸っていた。その光景は、とても女子生徒しかいない学園のサークルのものとは思えない。

 ここは、通称アイドル研と呼ばれる非公認サークルの部室である。古今東西ありとあらゆる女性ヒロインやアイドルを研究し収集し百合的ではない意味で愛でることを目的とした集団であり、そして、今回、ミス・星流花コンテンストの運営の大役を生徒会から依頼されてもいる。ちなみに非公認サークルというのは、学園理事会から非公認なのであって、生徒会の承認がないとそもそも活動が認められない。

 ドアのない部室の入口の脇には、妙に汚い字で、しかし堂々と、「第四十七回星流花祭学園主催理事長公認ミス・星流花コンテンスト運営本部」と書かれた紙が貼ってある。

 ここまで予選投票の実施や途中経過の集計と発表、本番の審査内容の決定やリハーサルなど、生徒会の監督を受けつつ何とかうまくやってきている。そして、本番開始まであと一時間ほどに迫っていた。

 ここへ来て起こった事態とは何か。

 それは、予選一位で通過した、ミス・星流花の最有力候補である三回生のミサナ・ハイクリフが、射撃大会で決勝に進出したこと、である。

 とはいえ、彼女が決勝に進むだろうことは、普段の演習からその実力は学園内でも有名であったため、予想はついていたのだ。

 誤算は、射撃大会の進行が全体的にかなり遅れていることにあった。

 本来であればちょうどお昼にさしかかっている今時分には決勝戦が終わっているくらいのタイムテーブルであったはずなのだ。

 が、いざ射撃大会が始まってみると、ルールの設定の問題もあって、全体的に試合時間が長くなった。もっと難易度を下げてバンバン撃ち合って短時間で決着がつくようなルールにすべきだった。実際には、読み合いによる心理戦の要素も重要だったりして、結果的ににらみ合いの状態のまま七分ルールの発動を待つような具合になってしまったのだ。

 これが格闘技などであれば、そういった膠着状態を打破するようなペナルティが予め設定されていたりするため、ある程度審判がコントロールできるのだが、今回が初めてであるということもあって、その辺りの対策が充分ではなかった。試合時間に制限がないというのも致命的だった。

 そんなこんなで、試合時間が長くなる傾向にあったのと、それ以上に、予想以上に、ものすごい数の観客が詰めかけたため、試合と試合の間の選手の移動などでもかなりの時間を取られるなどのロスも大きかった。

 報告では射撃大会の決勝戦は約四十五分後に開始されるとのことだ。決勝まですでに三試合を闘いぬいてきたその疲労を考慮されたためでもあり、また、長時間観戦し続けている生徒や来客にお昼休憩をとってもらうという意味でも重要なインターバルである。やはり軍属の学園ということで、運営サイドの予想以上に盛り上がってしまっている。

 つまり、予選一位のミサナが、ミス・星流花コンテストの開会には間に合わないことが事実上確定しているということだ。聞けばミサナは今回の星流花祭の三大イベントの残りひとつの通称音楽コンテストにも出場するらしいが、そちらは出番が最後の方なので問題はないようだ。ともあれ、さすがはミスコンの予選一位。星流花祭のメインヒロインと言ってもいい活躍ぶりである。

 それだけに、本選出場者五名が並んでステージに登場するミスコンの冒頭の大事なシーンに優勝候補が登場しないというのは演出の上で大変なマイナスである。

 おそらく射撃大会の決勝戦が予測もつかないような長期戦にでもならない限り、一次審査には間に合うはずだが、半日近く集中して戦ってきた生徒をそのまま連戦でステージに上げるのも何だか気の毒でもある。とはいえ、出てもらわないことには、話にならないのだが。

 かくなる上は、冒頭の本選出場者の登場シーンを変える他ないのだが、突然降って湧いた事態にすぐさま対処できるほどの人生経験はさすがにまだ十代の少女たちにはない。

 とそこへ。

「安心したまえ。わたしが何とかしよう」

 芯の通った力強い言葉に操られるように、憔悴しきった少女たちが見上げた先には、人呼んで学園の堕天使、生徒会副会長サリア・イグラルムの姿があった。

 その表情は、いつもの通りの無敵で不敵なほほ笑みをたたえていた。

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