3-11
試合を終えたミサナとナルルは、最初の控室とは別の部屋へと係の教官に連れられてきた。
別の部屋と言っても実際には隣の部屋で、広さも間取りも完全に同じに見える。
だが中の様子はかなり違っている。最初の控室は会議室によくある折りたたみ式の長机と折りたたみ椅子が整然と並んでいる他には余計なものが一切なかった。
それに対してこの部屋は、机と椅子の半分は元のまま置かれているが、残り半分の領域は、不要な机と椅子は折りたたんで隅にまとめられており、軽食と飲み物を供するコーナーとなっていた。
いわゆるバイキング式というのか、大皿に盛られたものを好きに取って食べていいようだ。飲み物はペットボトルのものが数種類、水、緑茶、オレンジジュース、炭酸飲料などが縁日風の氷水の中に沈んでいる。この殺風景な会議室の中にあるとものすごく違和感があるが、今日は学園のいたるところで見ることのできるものではある。
食事の方は、サンドイッチや食べやすい揚げ物などで、これもおそらくどこかの屋台から持ってきたものだろう。柑橘類を初めとしたフルーツも何種類か、カットもしていないまま山盛りになっているのが嬉しい。実際のところは、サービスとか気前がいいというよりは、どれだけ食べるかわからないから、食べたい人が食べたい分だけ自分で剥いたりして食べてね、というところだろう。
部屋の半分がそういう状態になっているため、残りの半分の領域で何か食べたり休んだりすることになるが、係の教官数名を除くと第四試合までの勝者の八名の生徒しかいないので、まだまだ広さには余裕がある。この後さらに八名が増えるがそれでもまだ余裕があるくらいだろう。
なお、一回戦の最後の試合である第八試合が終わったあとは、インターバルも何もないまま即二回戦が始まる。そのため、この部屋で待機する人数もまた徐々に減っていく。そう考えると何だかとっても過酷なサバイバルレースをやっているみたいだな、とミサナはアップル百パーセントジュースをちびちびと飲みながらまったりしている。まだ何かお腹に入れるほど消耗はしていないので、ジュースで糖分と水分の補給だけするつもりだ。
同じテーブルでは、あいだに人ひとり分の間隔をあけてナルルが座っており、彼女の前にはサンドイッチを始め、からあげやポテトフライなどのあまり軽くないものが満載の皿がある。
一回戦を何とか勝ち抜いたおかげか、それとも無料のバイキングが嬉しいからか、ナルルの様子は一回戦の始まる前と比べるとかなり落ち着いたようだ。人間、食べられれば何とかなるものでもある。二回戦はもう少しリラックスして臨めると期待しよう。
ミサナは特にナルルと言葉を交わすこともなく、ぼんやりと他の選手を眺める。ミサナはあまり友人が多くない……いや、顔が広くないので…実は今回出場している選手で言うと、最初から知っていたのは同じ三回生の数人だけだ。なので、果たして次の対戦相手すなわち第三試合の勝者がどのペアなのか、まったく見当がつかない。
それでもまあ、一回戦の対戦相手だったキラ先輩のように敵意を向けてくるような者もいないようだから、さっきの試合よりはもう少し、感情をコントロールしてうまくやりたいな、と考える。
もっとも、キラ先輩に限って言えば、ミサナのその考えは見当違いのものだ。先輩から見れば、ミサナが何を言われても動じないところが可愛くなくて気に入らない下級生だわということになるわけで。いずれおそらく、キラ先輩はミサナの良き先輩となるのではないだろうか。
次の試合の対戦相手のことも、当然ナルルは知っていた。が、さすがに声の届く範囲に相手もいるので、小声で名前と何回生かを聞いただけだ。そもそも前の試合の戦いぶりを見れたわけでもないので、事前に知っておくべきこともないだろう。
そして実際に、次の二回戦と準決勝は、この競技の特性をいくらか理解したミサナの作戦もあって、何とか勝つことができた。
選手はミサナとナルルのふたりきりの控室で、ナルルは不器用に切り分けたフルーツで顔を汚しながら、
「ミサナ先輩、決勝戦がんばりましょう。わたし、本当にがんばりますから」
と、そこで控室のドアが開いた。
係の教官に続いて表れた決勝の相手を見たミサナは、
「そうだね。わたしも、せっかくだから全力で戦うよ」
対戦相手への宣言ともとれるその言葉を放ったミサナの視線の先には、いつもどおりの笑顔を浮かべる、エミの姿があった。




