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氷雪の狙撃手  作者: ゆうかりはるる
22/40

3-8

 待機所は屋内演習場のロビーだった。百人以上の生徒が同時に入退場することも珍しくないのでロビーもかなり広い。また、全面ガラス張りなので外が見える。

 つまり、試合の様子も、距離はあるが見ることができる。試合そのものはともかくとして、会場の雰囲気はよくわかる。わずか三試合目にして、ものすごい熱気に包まれていることがガラス越しにも見て取れた。

 ミサナとナルルは、先に来ていた四回生ペアから離れたソファに腰を下ろした。…のだが、多少予想していたとはいえ、思ったよりも早く、向こうからひとり、まっすぐこちらへ向かって来る。

 ショートボブのような髪型だが、目の覚めるような赤髪が目を引く。瞳も燃えるような色をしている。軍人のタマゴでありながらわざわざそんな悪目立ちのする色に染めるとも思えないので、生まれつきなのだろう。だとすれば、気高い誇りを持っているのかもしれない。リーンだって金髪を黒に染めることは一生ないだろうし、戦場では隠せば済む話だ。

「ミサナ・ハイクリフ、勝つのはわたしたちなんだからね」

 わざわざ寄ってきたので何の話かと思えば、ただの挨拶だったようだ。

「わかりました。よろしくご指導ください」

「むむ!」

 ミサナとしてはそんなつもりはないのだが、無表情で丁寧に返されると、皮肉を言われたとしか思えないだろう。ミサナの隣でナルルがあわあわしている。

 外の歓声が一際大きくなる。ポイントに命中したのだろう。さすがにまだ決着はついていないはずだ。

 この間も赤髪先輩は、座っているミサナの前に立ち、上から睨みつけている。挨拶なら済んだのにまだ用があるのかな、と内心思いつつ、そう言えば、この先輩はハルナコワ先輩とキラ先輩のどっちなのだろうあとでナルルに聞いてみようと考えている。

 が、内面は天然でも外見上はただ無表情に先輩を見返しているだけなので、赤髪先輩にはそれが不遜な態度に映った様子で、もともと怒り心頭という雰囲気だったのが、いまでは憤怒オーラが見えるほどなのだが、それが見えているのはナルルだけで、ミサナの方はまったく気がついていない。自身が表情に乏しいだけに、一般的な人と違って表情から相手の感情を読み取ることができないのだ。

「ミサナ・ハイクリフ、きさまがそんな態度なら、こっちも容赦はしないよ。全力で叩き潰すんだから!」

 噛ませ犬フラグ満載のセリフを吐くと、ミサナが返事をするより先に、赤髪先輩はペアの相手の方へ戻っていった。

 それをぽかんと見送ったミサナに、ぶるぶる身体を震わせたナルルがささやくように声を絞りつつも、あわあわあわとわめいている。

「お、怒らせてしまいまひたねっキラせんぱいを…!」

 訊く前に赤髪先輩の名前がわかった。が、怒らせたというのがピンとこなかったミサナは、首を傾げる。どちらかというと、なんだか可愛らしい先輩だなと思ったほどだ。実際、こちらが座っていたので目線は上だったが、キラ赤髪先輩の身長は、ナルルほどではないにしろ、ミサナよりはかなり低い。

 ミサナは一瞬後にはすでにいま起こった一連のことは忘れてしまって、本人的にはのんびりと、ナルルに話しかける。

「試合、楽しみだね」

「ハイ……えっ?」

「頑張ろうね……ナルル」

「は、はい……ミサナ先輩の足手まといにならないように、が、がんばります」

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