表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷雪の狙撃手  作者: ゆうかりはるる
19/40

3-5

 射撃競技会の行われるステージはすでに夥しい数の人々に埋め尽くされ、さながら格闘技の会場のような熱気を帯びている。しかも広大な敷地に集まってくる人の波は未だおさまらず、軍の訓練によって鍛えられた技術が見世物として供されることのある種禁断の香りがそこまで人を惹きつけるのだと言えるかもしれない。

 このまま競技が始まらずにいると暴動でも怒るのではないかというほど、勝手に熱気が高まっていくその中心に位置するステージの上には、ひとりの人物がいた。

 一見して軍人であるとわかる精悍さをたたえた、おそらく三十代半ばの男性が、自分に集まる暴発寸前の視線をまるで気にする風もなく佇んでいる。服装は制式の軍服とは異なる、学園規定の教官服である。

 男がステージに上ってからすでに十分は経過しているが、何を始めるでもなく、ただ立っているのでステージに近いところでは小さい声ながら幾らか野次も飛び始めている。さすがにリングにまで侵入してくるような勇猛な客はいないだろうが、安全圏から言いたい放題がなり立てる可能性はかなり高いだろう。

 と、男はおもむろに、片腕を動かし、ゆっくりとした動作で手に握ったマイクを口元へと運んだ。ずっと手に持っていたものだが、男の拳のあまりの大きさに、誰もマイクを持っていることに気が付かなかったのだ。

「射撃専任教官、モーレス・ギル准尉だ。これより、第四十七回星流花祭射撃競技会を始める」

 ギル教官はそれだけ告げると、さっさとステージを降りる。迫力のある佇まいに、近くのものは我知らず後ずさり、自然とギル教官の進む先にはさーっと道が開けていく。離れた客たちからは待ちくたびれたがゆえか、意外と大きな拍手が上がる。

 ギル教官は会場の傍らの、本来はこちらが主たる施設である、屋内演習場入口へと向かった。ここにはミサナを含む、射撃競技会の出場選手三十二名が控えているのだ。

 ギル教官が去ったステージの上に、続けて上がったのは、かなり若い、おそらく二十代前半の前半くらいの、軍人に不向きなほどグラマラスだが、顔だけ見ると不釣り合いに清楚な美女だ。彼女は名乗らないので、名前を明かしておくと、エミール・マローナ二等教官補佐である。教官補佐とは学園のみに存在する階級で、正規の軍では対応するものがない。先ほどのギル教官が准尉という正規兵の階級を持つのとは比べ物にならないくらいの下っ端である。

「では、競技の開始に先立ちまして、簡単なルールの説明をさせていただきます」

 軍人らしからぬ、こなれた司会者風の滑り出しであるが、実際エミール教官補佐は、軍事教官とは言っても専ら座学が専門である上、担当教科の半分は一般教養としての英数国である。要するに、単なる学校の先生なのである。

「今回行われます、クロス・シューティングという競技は、来年度より、本校のカリキュラムに導入することが決定しております、対人銃撃戦のシミュレーション訓練を、スポーツ的な競技に改良したものです。

 選手は特殊なセンサーを埋め込んだ専用のスーツを着用します。センサーはいわゆる人体における主要な二十箇所の急所に埋め込まれています。

 選手は各人一挺の模擬銃を使用し、競技中に相手の武器を奪って使用することはできません。なお、専用スーツに直接手やその他のからだの部位で触れた場合、ペナルティとして、五秒間攻撃が禁じられます。

 選手の使用する模擬銃は、実際の銃を限りなく出力を小さくしたもので、直接当たっても人体には何の影響もありません。懐中電灯の光が当たったようなものだとお考えください。

 この模擬銃から発射される光弾は、スーツに埋め込まれたセンサーにのみ影響を与えることができます。具体的には、光弾がセンサーに命中すると、センサーは灰色から青色に点灯します。これが、ロックと呼ばれる状態です。

 ロックになったポイントに、もう一度命中すると、センサーは赤色に点灯します。これがヒットと呼ばれる状態です。全身二十箇所のうち、三箇所ヒットで戦闘不能となります。ペアのどちらか一名が戦闘不能になった時点で、そのチームの負けが確定します。また、試合時間が七分を超えますと、三十秒間にひとつずつ、灰色のセンサーが赤色に変わっていきます。この場合ロックになるセンサーポイントはランダムに選ばれます。これ以外にも、皆さんからは少し見えづらいかもしれませんが、このステージの上には、直径二十メートルの円が描かれており、競技はこの中で行われます。そして、この円の外にもセンサーが埋め込まれていて、踏むとこちらは足元から順にセンサーがロック状態に変わっていきます。空中で円の外にでても影響はありません。なお、この場外ルールおよび先ほどの七分ルールで変化するのは灰色のセンサーのみです。仮に全身二十箇所のポイントすべてが赤色のロック状態になった状態で場外になったり時間が経過してもヒット扱いにはなりません。あくまでヒットできるのは選手の持っている模擬銃による光弾のみです。

 競技に参加するのは、全六学年から応募と抽選によって選ばれた三十二名となります。

 すでにこの三十二名は抽選によって、十六チームのペアをつくっています。この十六チームによるトーナメントで、今日、学園最強のペアが決定します。

 それでは、そろそろ準備ができたようですので、これより、第一回戦第一試合の、選手入場です!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ