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氷雪の狙撃手  作者: ゆうかりはるる
18/40

3-4

 屋内演習場の隣の何にも使用されていない区画、いわば「空き地」が、星流花祭の今日は一変していた。

 普段は伸び放題で放置されている雑草が短く刈り揃えられて芝生のように見える。方形の区画の外周には仮設テントがぐるりと囲んでいる。

 それらのテントの約半分は審判席や記録係、来賓席や救護班、休憩所、警備詰所などの運営テントであり、残り半分はファストフードや飲み物(もちろん学園祭なので非アルコールのみである)などを販売する縁日的模擬店であるが、そこで調理や販売を行っているのは何と教官たちである。

 そもそも全五学年を合わせても生徒の数は五百人ほどである。一方教官の方はというと、実質的な軍の一部隊でもあるため、生徒と同数とは言わないまでもその半分近い人数がいる。さらには事務系の一般職員も教官の半数くらいはいる。

 星流花祭を盛大な生徒のためのお祭りとするためには、彼ら大人たちの全面的な協力が必要なのである。

 もっとも、教官たちにとっても、五年ぶりのお祭りは願ってもないイベントである。教官とは言っても大部分はまだ二十代の若者たちであり、軍という閉鎖的な組織に属する者にとって、こうしたハレの日は欠かせないものだ。戦争のない時代とはいえ、戦場にも歌は必要なのはいつの時代にも同じことであり、彼らにとっての戦場は、一生この学園のキャンパスの中か、そうでなくてもどこかの支部の基地の中で終わるのだ。そして、彼ら教官の喜びは、若い後輩たちの生き生きとした姿なのである。

 そんな教官ズの模擬店は、それほど凝った食べ物はなく、そのほとんどは片手に持って食べられるような食べやすいものだ。

 それもそのはずで、何しろここは、中央に高さ一メートルほどの、まさしく「リング」と呼びたくなるような周囲にロープを張り巡らしたステージがつくられている、射撃競技会の競技会場なのである。

 学園の広大な敷地はかなり広い区画に切り分けられており、この射撃競技会の会場となったこの場所もまた、相当な広さがあるのだが、そこがいまは人でごった返していた。学園の生徒や教官・関係者のみならず、「都市」からもかなりの客が来ているのが服装で見てとれる。もちろんその中には生徒の親や兄弟などもいるはずである。

 中央のステージは一辺十メートルほどの正方形で、それぞれのコーナーに支柱が立てられ、支柱と支柱のあいだにロープが張られているが、このロープは単純に客が乱入するのを防ぐ柵のような役割であって、格闘技で使用するような伸縮性の強い素材のものではない。

 ともあれ、どう考えても「射撃競技会」の会場には思えない、むしろ格闘技会場としか言いようのないステージである。一般的な射撃競技会のイメージというと、数十メートル先の的を銃で撃ち抜く的な個人競技であり、どちらかというと結構地味な競技である。

 しかし、今回の射撃競技会はまったく異なる競技であった。

 競技の内容については、学園の生徒には、参加者の募集開始日でもある本番のちょうど一ヶ月前に詳細が発表されている。

 それによると、今回行われる競技は、近距離対人射撃模擬戦闘「クロス・シューティング」である。しかも、ランダムに組まれたペアによるタッグマッチであるという。

 実はこの競技、近々学園の演習でも取り入れる予定の実践訓練とまったく同じ内容のものであり、自由参加によって銃の腕前の実力者を募った上でのお披露目的な意味合いもある。ペアによる参加としなかったのも、参加のためのハードルを下げて出場希望者をなるべく多くしたいからである。あるいは、ペアを抽選で決めることによってミサナ・ハイクリフの圧倒的優位を少しでも減らそうという意図もあるとかないとか。

 さて、その悩める天才銃使いミサナはというと、出場者が控える屋内演習場で折しも行われたペアを決める抽選の結果決まったペアの相手と対面したところだった。

 そのお相手は、ナルル・ナミルという名前の一回生、ミサナの二つ下の学年である。当然、一学年百名もいる他学年の、しかも下級生の顔も名前も知っているはずもなく、ただでさえ口数少なく表情の変化にも乏しいミサナにとっては、この初顔合わせはなかなかに緊張感を伴うものであるのだが…。

「あの、ミサナ先輩っ…好きです、…、あ、じゃなかった、いや、じゃなくないけど、そうじゃなくて、あの、憧れています。大ファンです。あの、足引っ張らないように頑張ります」

 栗色の髪を左右で二つに縛った下級生の少女は、しどろもどろに、しかしものすごい早口で学園内でも有名な銃姫にそう言った。

 それを見たミサナは、急に緊張が解けて、かすかに、しかし本人的にはにっこりと微笑みを浮かべて、

「こちらこそ、どうぞよろしく」

 と言葉を返した。

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