異世界の敵(エネミー)
お久しぶりです。
天菊です。
今回から、ルビ完全に無くします。
申し訳ありません。
ゲートルームなる部屋に案内されて、とりあえず話半分に説明を聞いていると、『じゃあ、行くわよ』といった内容であろう言葉をかけられ、今現在、この場所────かなり荒涼とした大地────にいる。
……まったく。なんでこんなことやってるんだか。思わず口に出しそうになったがなんとか押しとどめた言葉を脳内で繰り返した。ここ三日間ろくなことがなさ過ぎて本当に泣きそうだった。これまでのことを簡略化しつつ自分自身に説明するとするならば、《誘拐⇒勧誘⇒入社⇒案内⇒仰天・説明⇒活動⇒今現在》という風になるだろう。この中で最も重要であるのが、最後から二番目の《活動》なのだと僕は思っている。────どことなく想定していたものの、現実に起こってしまうとなぁ……。
「はあぁ………。何でこんなことになるかな……」
ため息交じりについ呟いてしまった言葉に、ヒイラギが反応する。まさかな。あの話………旧友に耳にたこができるほど繰り返し聞かされたあの話をするわけが……。
「ため息をつかないでちょうだい。ため息の数だけ幸運が逃げるというし、下手をすれば、私からも逃げてしまうかもしれないでしょう?………だからやめてちょうだい」
──本当に行ったよ、この人。まさか、予測通りの行動に出てしまうとは。ある意味予想外、奇想天外といえば奇想天外。……たとえるならそんな感じ。とりあえずヒイラギに僕は切り返してみる。
「それ信じてるの、結構少数派らしいな。今となっては、だけど。昔はよくある冗談的な感じで使われてたらしいけど、今使うのは、現代文学か古典文学を専攻してる人か、聞いた言葉をそのまま使ってしまうような阿呆かのどちらかかと思うけどな」
切り返し、または仕返しのつもりで発した言葉に対しての反応は、先ほどよりも予想外で、簡素というか、容易に連想できそうな答えだった。
「……あら、言ってなかったかしら?私の得意分野は、古典文学だったのよ?」
………まさかの専攻している人だった。これは、アゴウさんの言ったとおり、対応には気をつけないとな。今後の対策を練っていると、ヒイラギが、付け足すかのようにつぶやいた。先ほどの言葉から、数秒後だった。
「────まあ、昔の話、だけどね………」
───過去形だったのはそのせいか。そのときのヒイラギの横顔は、いつも見せているものとは遠くかけ離れていた。暗く、重く、冷たい。………そんな雰囲気を漂わせていた。
僕とヒイラギとで、数十分ほど歩き続けた。目的地は、僕には知らされていない。ただ、『仕事関連だから、いかなきゃだめだよ♪』と、アゴウさんにメールで説明を受け、ヒイラギに言われるがまま、歩いてきた。
………正直、怖い。心底とまではいかないまでも、怖い。行く場所がどこなのか、どんな場所なのか(秘密組織である、『ゲート』関連なのはわかっている)、はわかってないままだし、推測してもしたりないだろうことだからこそ、恐怖心がかき立てられているのだった。
ただ、アゴウさん曰く、危険な仕事ではない。……らしいので、問題なく進むということを信じたい。
さらに進み、さきほど見えていた木が見えなくなった頃。不意にヒイラギが止まったので、自分も歩行を停止し、理由をヒイラギに尋ねた。
「なあ、どうしたんだ?急に止まったりなんかして」
即答即答。それはもう、即答の域を超えるぐらい一瞬で答えられた。
「敵よ。……全く、この子のはじめての仕事なのに、こんな波乱万丈な感じじゃ、だめね」
………波乱万丈って、使い方それであってるのか?ていうか、『この子』って言われちゃったよ、僕……。はあ、こんな上司で大丈夫なのだろうか。───ていうか、最初に聞こえてきた言葉に結構疑問を抱くんですけどれども。
「……聞こえた?下がりなさい。まだあなたは戦えない。これから、戦うための準備だというのに………。仕方がないわね、全部まとめて相手をしてあげるわ」
───敵?どこに?……まあ、危険なら下がっておこうか。ヒイラギが敵だと言っている生命体(?)は、僕の目には映らなかった。
「ふぅ。………よく味わって噛み締めなさい。ブリザードレイン!」
おいおい。中二病じゃないんだから、そんな恥ずかしいセリフを吐かないでくれよ……。などと思っていた次の瞬間。キーンと、耳をつんざく破裂音を響かせながら、氷の雨が降ってきた。ファンタジーな小説ではよくある、魔法………といったところだろうか。
最初に見えていたのはその氷の雨だけで、それが地面に突き刺さっていくものと思っていた。もう少しで地面に突き刺さるかというところで、見えてはいけないものが見えた………いや、見えてしまった。おそらく、妖怪だとか、モンスターだとか、悪魔だとかの、そういった怪異の類。それぞれに斧や鎌、はたまた棍棒なんかを振り回して、必死に氷の雨を防ごうとしている。そういった努力も虚しく、体に氷が次々と突き刺さっていくが、ソイツラは、抵抗とも、努力ともとれる行動をやめようとはしなかった。真っ青な血液や、緑色のくすんだような色の血が飛び交い、いかにも戦闘をしていますといった感じだった。……僕にとっては、まさに地獄絵図だった。
「おいおい。どうなってんだよ、これ……?」
自問自答というか、自己思考するために自分自身に問いかけた。この状況から推測できることはいくつかある。第一に、ここがもう地球以外の場所である、という可能性。第二に、ここはVR空間の産物で、何らかのバグを治すための任務である、ということ。第三に、自分の見ている夢であるという可能性。………今までのことを考えると、一番可能性が低くそうなものほど正しかったので、第一の可能性が正しいという判断でおそらくは、間違っていないはずだ。できれば、第三の可能性であってほしいが、そうであったとしても、何らかのことをアゴウさん達にやられている可能性がある。つまり、僕の考えたうちのどの可能性であろうと、自分の利益にはならない。そう悟ったところで、そのことを考えるのをやめた。
数分間降り続けた氷の雨はそこらじゅうに突き刺さり、モンスター(仮)を一掃していた。
不可解なことがありすぎて、とても言葉に出来そうになかった。
「あらあら、怖気づいてしまったのかしら?……まだまだ道は長いし、仕事も着いてからたくさんあるんだからこんなところでへたばらないでちょうだい。運ぶの面倒なんだから」
お前で僕を運べるのか……。疑問に続く疑問。もう考えるのをやめてしまいたくなりそうだった。一応、一番気になっていたことをヒイラギに尋ねる。
「あのさあ、さっきのお前が敵とか言ってたやつ、一体なんなんだ?」
ストレートでありながらもカーブ。最初は見えなかったのに後から見えたということをできるだけ隠したかった。
「ああ、あれね。私たちは『エネミー』って呼んでいるわ。そのまんま敵、ね。今回は、よく小説なんかにあるゴブリンみたいな感じだったけれど、いつもは機械型だったり人がだったりいろいろね。どれがこうだからこう……みたいなのは何一つ言えないんだけど、ただひとつ言えることは、彼ら───いや、奴ら、ね。………奴らは明確な意識を持って私たちを襲っている、というより攻撃ね。攻撃しようと攻撃してくる、それだけは確かだわ」
ある意味では当然だった。いや、常識的に考えればそんなものが存在している時点でもうすでに、納得の範疇を超えているのだけれど、もう考えるのを諦めかけている僕にとっては些細な事実、『現実』だった
脳裏に浮かんだ質問をそのまんまヒイラギにぶつける。
「……じゃあここは、超絶ファンタジーな世界なのか?」
「そのようね。お~い、この話を見ている人聞こえますか~?」
……おい、そこはボケるところなのか?ヒイラギがふざけて……またはこの場を和ませるために言った言葉に対して、まともに突っ込むのさえ諦めて、先に進むように柊に言った。
「……くだらないこと言ってないで、早く行こうぜ。僕はもう二度とあんな連中と会いたくないからな」
……正直なところ、また会うような気がする。あんな連中と、僕は今後戦うことになる………そんな気がしていた。
「……そうね。そうしましょう。さあ、急ぐわよ。……………」
最後にヒイラギが小声で言ったであろう言葉は、僕には聞き取ることができなかった。
今回字数が少なくなってしまいました。
もっとかけるように頑張りたいです。