組織の王
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とりあえず、現在の状況を自分自身に説明する。半分誘拐みたいな形で案内されたその場所は、まさしく、組織!といった雰囲気を醸し出すような外観だった。……この建築物が、彼女の言う場所なのだとしたら、組織以外のなんでもないだろう。……正直、僕が一番嫌だった展開。なんでこんなに『どこかの気弱少年』みたいな展開になるのだろうか……。補足すると、『どこかの気弱少年』というのは、有名とも無名とも取れないどっちつかずの小説家、『阿合 敏史』が書いたとても暗いファンタジー小説である。……出版社が、今思い出すと、恥亜蛇社(おそらく、『チアダ社』と読むのであろう)という奇怪な名前の出版社で、見たことも、聞いたことのないような名前で衝撃を受けて、それで購入した本なのだと思うと、自分でやったことながら呆れてしまいそうになる。
改めて思う『チアダ社』(仮)という名前のニュアンスが、『社』の部分を除けてしまうと、『チアダ』となり、例の『チャーダーシステム』なるアプリソフトの頭の部分に似てなくもない……。ということは、この『チャーダーシステム』とかいうはた迷惑(はた迷惑の使い方があっているのか微妙)なアプリソフトの作成者もこの秘密組織(仮)の中にいるということになる。
────なるほど。さきほどたどり着いたスラム街が、秘密組織(仮)の作ったものであるのだとすれば、すべてのことが頷ける。………だがしかし、僕がなぜ駆り出されたのかそれはまったくもって理解不能だった。…………まあ、親の保険金でなんとかやりくりしていた僕にとって、何かで雇用されることは金銭目的で言えば、嬉しいことなのだけれど。……そんなことはこの際どうでもよかった。
「ついたわよ。いつまでつっ立っているつもり?…………ここが、私たちの本境地、『チャーダー社』よ。」
不意に話しかけられたことと、会社名が半分アプリ名の最初に入っていた言葉であったことに驚いた。聞こえてきた言葉と同時になんとなく腕時計を見ると、この悪魔に話しかけられて誘拐(と呼べるかどうか不明)されてから、15分ほどしか経過していなかった。ただ、経過時間よりもさらに気になるのが、この組織(確定)の正確な表記だ。───なぜなら、先程考えたことが、自分自身で気になっていたからだった。無意識のままに首を回して看板を僕は探していた。……見回せばそこに、普通の企業であるかのように看板が佇んていた。……建物自体の雰囲気が隠しきれないから、看板を普通の企業のようにすることに意味はないんじゃないのかな?
………とりあえず、目的どうりにその看板に表記されている企業名を見る。────やっぱりそうだったか。
書いてあったのは自虐小説に表記してあった『恥亜蛇社』という企業名だった。今改めて見てみると当て字で『チャーダー社』と読めなくもない。────気になるからこの女に聞いてみることにしよう。
「あのさあ、この会社名って当て字で『チャーダー社』ってよむんだよな?」
間が開き、怪訝な顔で睨まれ、馬鹿を見るかのように見つめられ、数秒後に答えは返ってきた。
「まあ、そうね。───当て字なんていう古臭い形式の、しかも、馬鹿でもわかるような漢字で書かれているんだから、うちの上司にもほとほと呆れてくるわ。………しかも、バカみたいな企業名にしちゃって、呆れるのと、呆れるのとでバイアキレね。」
………上司に散々な物言いだなぁ、この人。───しかも、カタカナの新語まで生み出してるし。『バイアキレ=二倍呆れること』と、くだらなくも、自分の記憶目録に書き込んで、彼女に応戦しようとした。………その時だった。
「いらっしゃい、新人君。―――そしておかえりヒイラギ。」
なにやら気さくな雰囲気の男が建物の中から現れた。………誰だ?あと、新人君って僕のことか?分からなかったので、直接質問してみることにした。
「あなたは?―――ていうか、新人君って、僕のことですか??」
「うん、そうだね新人君。犬とかの動物よりは頭がよくできてるみたいだ。………それとヒイラギ、君は散歩だとか言ってたけど、やっぱりこの子を連れてきてくれた。僕の思い通りに動いてくれて嬉しいなぁ、うん」
……この人もこのヒイラギと呼ばれた人も、同類なのだとおもうなぁ。………毒舌家という意味で。――――間伐入れずに返してきた言葉が、最初から毒舌であったのでそう思ってしまった。ていうか、僕の評価がかなり低い位置にある気がするのだけれども。………僕の馬鹿な思想を察してか、男は自己紹介を始めた。……自己紹介の中には、僕もまさかと疑っていた事実が紛れ込んでいた。
「……自己紹介がまだだったね。私の名前はアゴウ、またの名は『阿合敏史』だ。……まあ、偽名だから好きに呼んでくれて構わないよ。────ようこそ、新人君。ここは君の新しい家でもあり勤務先でもある『チャーダー社』だ。………そして彼女がヒイラギ、『柊月詠』君だ。まあ、彼女も偽名なんだけどね。よろしくしてやってくれよ、新人君」
―――アゴウさんとヒイラギ………。偽名といえども、不思議な名前だ。……あ、僕も自己紹介しないと。そう思い、取りあえず名前から言おうとした。
「え、え~と、僕の名前は―――――」
僕が話している最中にアゴウさんは何の罪悪感もないように台詞を切った。
「あ、名前はいいよ。うん、必要ない。元々不要だからね、名前なんていう、不便で煩わしくて、怒りの対象になりかねないモノはね。スキじゃあないからさ、君も後で一緒に偽名の方考えよう。………まあ、偽名といっても呼ぶためだけの名前だから、適当でいいよ、適当で。一応、カミサマの名前だったり偉人の名前だったりを襲名することもできるから、まあ、そんなに深く考えない方がいいとおもうんだ。まあ、心配しないでよ新人君」
――――ていうか、偉人だとかカミサマだとかの名前って勝手に使っていいんだろうか?……ていうか今の会話で、新人君って何回言われたんだろ?そんなことを考えながら、ヒイラギと呼ばれた女を見る。道案内をしてくれた女だ。改めてヒイラギのことを見てみると、どこにでもいるなんの変哲も違和感も何もない、ごくごく、普通の女の子といった感じだった。ジロジロと彼女を観察していると、アゴウさんが再び話しかけてきた。
「なんだい、あまりにもヒイラギが綺麗でほれっちゃったのかい?まあ確かに可愛い顔をしているけれどね。まあ私の好み……タイプではないかな」
─────何話してんだこの人。ホンキでそう思った。大体、あんたの好みなんて知りたくないっつぅの!………なんか、すっごいおしゃべりで話したがりな人だ。
アゴウさんのふざけた台詞にヒイラギが反応する。
「…………!!あ、な……何話してるんですか!?ほら、早く中に入りましょう!この子に仕事内容伝えないといけないでしょう!??」
ヒイラギの台詞は今まで見せていたものとはひどくかけ離れていた。……なんとなくヒイラギを見ていると、ヒイラギが今話した台詞が、アゴウの元についてからの第一声であるということに気がついた。そこに、思い出したようにアゴウが切り返す。
「ああ、そうだな。ヒイラギ、『ゲートルーム』に案内してやってくれ。私は、ドワーフの爺さんと、今後の開発計画について話してくるから。………それじゃあ、よろしく」
………そういえば、『ここが新しい君の勤務先』みたいなことをさっき言っていたっけか。勤務先といえば、なぜこの僕を採用したのだろうか?
「あ、どうせ『なんで僕を…』みたいなこと考えているんだろうけど、それは君が僕の書いた本を買っていたからだよ。一応、そういうことにしといてよ」
………!!どういうことだ!?アゴウは今、僕の考えを把握しているかのような事を言った。……だが、僕にはそれ以上に、後者の方が気になっていた。普通の人ならば、気になるのは前者なのだろうが、僕は違う。…………僕の本を買った?今思えば、自己紹介の時に『阿合 敏史』と名乗っていたのだ。考えてみれば分かる話ではあった。結果的に、僕の読んでいた小説――――『どこかの気弱少年』の著者と同一人物であるということになる。でもあの小説は……たしか100年以上前に出版された本だったはず………。
そのような憶測を脳内で並べていると、その考えを裁断するかのようにヒイラギが見送りの言葉をアゴウさんにかけた。
「では、ドワーフのおじいさんによろしく伝えておいてください。……行ってらっしゃいませ」
ヒイラギの始めてみせる笑顔に少々僕の心が揺れ動いた。予測・推測にすぎないのだけれど―――ヒイラギはアゴウさんのことを……?生涯恋愛なんてものはしないと心に釘を打った―――打ってしまった僕にはよく分からなかった。……突然思い出したように、僕たちに向かってアゴウさんは話しかけてきた。
「あ……!そうだ、そうだったそうだった。忘れるtころだったよ。これを渡しとかないとね。ほら!」
そう言って彼が投げたモノを、地面に落としてしまわないようにしかと受け止めた。―――これは、最新型の携帯端末……?
脳内で、疑問符を浮かべているところに付け足しのようにアゴウさんが続けた。
「それは、我が組織『チャーダー社』――いや、もうこの呼び方じゃなくていいか。言い直そう。僕たちの組織『ゲート』の限定装備、正式装備―――とでも言えばいいのかな。まあ、ほかの会社とかとかの端末には入っていないソフト………たとえば『周辺居住区域探査機能』……簡単に言えばレーダーシステム――なのかな。まあ、そういったソフトが百個単位の数でついていたりするわけだ。うん、いかにも秘密組織っぽいけれどね。まあ、この会社のこともはいっているテキストデータに書いてあるし、使い方はそこらの端末と何ら代わり映えしないからさ。まあ、問題はないと思う。……あ、礼はいらないよ。君の端末をハッキングして、毒………もといウイルスを入れ込んでぶっ壊してしまったことのお詫びでもあるから素直に受け取ってもらいたいな。まあ、そういうことにしといてよ。―――――あ、そうだヒイラギ、言い忘れてたけど、しばらくはお前が新人君のお目付役だから。頼んだからね。………それじゃあ、僕は行くよ。ドワーフ君を待たせるわけにはいかないしね。……まあ、また後でね」
とても聞きやすい言葉の羅列だった。少なくとも僕には要領を得て話しているようにしか思えなかった。ヒイラギはどう思っただろうか?柔らかくも鋭い彼の心を彼女はどのように思っているのだろうか。それが今、僕にとって一番気になることだった。………かくして僕の就職があっけなく決まってしまった。書類へはんこを押すための印鑑を取りに行ったり、通帳を取りに行ったり。………そのほかにもいろいろあったのだけれどつまらないことだった………はずだ。―――きっと、あの組織の命令で何かやらされたりするのだろうけれど、きっとそれも大丈夫だ。向こうに従えばいい。などと心の中で考えながらその日は眠りについた。
―――――翌日、再びあの建物………異世界保全組織『ゲート』の本部である建築物に向かった。玄関ではヒイラギが待機しており、「ついてきなさい」という旨の毒舌を浴びせかけられ、彼女について行った。……途中でやけに大きいフクロウ(しゃべるらしい)に出くわしたり、犬の鳴き声をだす狐が居たりと、不思議なモノたちが居たが、数が多すぎてどんなモノが居たのかは分からなかった。そうこうしているうちについた一室の扉の上には『ゲートルーム』と書かれたプレートがあり、その階にはその部屋しかないようだった。その部屋の中にあったモノは僕の想像を遙かに超えた今までの僕の常識等々を覆すようなモノだった。そこで話されたことは『どこのSF漫画だ…!』とでも言いたくなるような説明だった。
アゴウのキャラが個人的に好きなんですよね。