心配性
まるで世界が灰色になったようだった。
大好きだった彼が死んでから一週間がたつ。
まだ現実を受け入れられず彼の部屋の扉を開けたらまた「どうしたの?」って言いながら微笑んでくれるんじゃないか。そんな気がする。
彼の仕事部屋の扉をノックした。
もちろん返事は返ってこない。
扉を開け中に入る。主人を無くした部屋はとても寂しそうに静かだった。彼が病院で息を引き取る直前蚊の泣くような声で言ってくれた、
「引き出しの中に残しておくね」
最後の力を振り絞ったその言葉は今でも頭の中に残っている。彼が何を残したのか気になっていたけれど、まだ彼がいなくなったことを入れたくなくて部屋に入ることができなかった。でも今日決心して入ることにした。やっぱり彼が最後にわたしに何を残したかったのか気になっていたから。
部屋の隅にある彼がよく使っていた机。その1番上の引き出しに鍵を差し込み回す。カチッと音が鳴り鍵を抜いた。きれいに整頓されたその中にすみれ色の封筒が入っていた。そこにはきれいな字で「すみれへ」と書かれていた。
すみれへ
君がこれを読んでる頃には僕はもうこの世にはいないのかな。口で言うのは少し恥ずかしかったから手紙を書こうと思ったんだ。
今日は7月18日土曜日で僕が1日だけ退院出来た日。今日も君は僕のために料理をしてくれたね。君はこんな僕にはもったいないくらい可愛くて気の利く彼女だったよ。何にもしてあげられなくてごめんね。何ものこしてあげられなくてごめんね。謝りたいことはもっとあるんだけど、もっと大切なことを伝えたい。今まで本当にありがとう。大好きだよ。
でも、君には僕よりもっといい人を見つけてちゃんと幸せになってほしいんだ。君は泣き虫だからまた1人で泣いてるんじゃないかって心配なんだ。もう君が泣いていても涙を拭いてあげられないし、君が震えていても抱きしめてあげられない。だから、はやく信頼できる人を見つけてね。これ以上いうと、自分のことを心配しろって怒られちゃいそうだからやめておくね。最後にもう一回。今までありがとう、すみれ大好きだよ。
優也より
彼からの手紙の最後の方は涙で見えなかった。
「‥‥なんでいっつも‥‥人の心配ばっかりで‥‥もっと自分のことを心配しなさいよ‥‥」
わたしはいつの間にか声を上げて泣いていた。
外はもうすっかり夜になっていた。まだ彼を忘れるには時間がかかる。多分一生かかっても忘れられないと思う。
でもまた彼に心配をかけないように生きていこう。わたしは心の中でそう誓った。
電気をつけないで部屋はまっくらだったが、今日は満月だ。優しい月明かりがわたしをそっと包み込んでいた。




