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荒野のニャンコロモチ-6

夕食を兼ねたミーティングの後場所を執務室に移してジルとトルエ、シルヴェライトとコルナリの四人で食後の茶を飲みながらの砕けた会議となった。

「それにしても、グールを操るという話は聞いた事がありません。」

 そう言ってコルナリは訝しげな目でジルに視線を流す。それを受けて苦笑を浮かべながらもジルは視線を宙に彷徨わせた後に切り出す。

「確かにグールは知能も低いし、意識の殆どが捕食に向いてるわね。でも、可能性というか、発想はこのアルズスタン国内でも昔にあったと聞いたことがある。」

 そう言って目線をトルエに振ると、トルエは小さく溜め息をつく。

「さっきから面倒な説明は全部私に振って。…まあ、アホな事言われるよりましですが。」

 そう言ったトルエにジルは素早く肘鉄を入れると、テーブルに出されていた焼き菓子を頬張りトルエの睨みを無視する。今度は大きく溜め息をついたトルエが諦めたように頭を軽く振って説明を始めた。


「現在の魔導師長アズナルド様が導師長に就任する前の導師長、ゲルガナル様の研究の中にグールに関するものがあったと聞いています。」

 導師長は魔術旅団団長の魔導師達を統べる存在で、全旅団を統べた単位である魔術師団の長となる存在である。魔導師と呼ばれるのはこの導師長と各旅団の団長及び団長経験者のみであり、旅団の構成員である魔法師とは一線を画している。

「グールを操るといっても、奴らは記憶力や思考力は殆どありませんから、単純な作戦も従わせる事は難しかった、というよりも不可能だったと聞いています。ただ、奴らの本能というか、生前のと言っていいのか。人間であった最後の時の願いに引きずられ易いという習性を利用する方法を実験していたみたいですね。」

 そこまで言うと苦々しい表情を浮かべた。

「グールに傷つけられ感染した騎士や法師達が発症しグール化した後に故郷などの思い入れのある方角に向かう事が多いと言うのは意外と知られていませんが、確かなようです。そして、ゲルガナル様がその実験を行ったとの噂です。」

 シルヴェライトとコルナリが顔を見合わせる。

「実験とは…グールを捉えて観察しただけでは…、まさか…」

 そう言って目を見張るシルヴェライトに頷いてトルエが続けた。

「ええ。あくまで噂の領域ですが。捕虜や死刑囚を使って暗示を与えた後にグールに感染させたと…。」

 そこまで語った所でトルエはジルを伺う。

「まふぁ、はふむふぉむふぉ。」

トルエの冷たい視線にジルが口の中の菓子を慌てて飲み込んで返事をする。

「んぐっっ ま、まあ多分本当にやったと思うよ、あのじいさん。」

 そう言ってカップの中身を飲み干す。慣れてきたのかだんだんと言葉遣いが乱暴になって来た。

「私が師匠から、えっとアズナルドから聞いたんだけど、じいさんの元側近だかが失脚した時に人体実験の情報を売るからじいさんを失脚させる手伝いをしろってゆう話がきたんだって。その時にそのグールの話も匂わせてたらしいから。」

 そこまでで話を切るとじっとトルエの前に置かれている焼き菓子を見つめてる。トルエが無言でジルの前に皿を押しやるとそれを一口で口に放り込み天使のような微笑で咀嚼する。頬はぱんぱんに膨れているが。口の中一杯であろう菓子を飲み込むとトルエのカップを手に取りそれを飲み干してにっこりと、もう一度天使のように微笑む。

「ま、その元側近は情報取引の約束の前日には城の外堀に浮かんじゃって、証拠も何も手に入らなかったってアズナルドが切れてた。ものすんごい切れてた。」

 そう言うと何か怖い事を思い出したのか、眉を寄せてぶるっと体を震わせた。

「しかし、今回のグールどもは隣国サリドルクスタン西域の衣装だったと言うが。」

 そう言いながらシルヴェライトはジルの前に自分の菓子皿を押し出す。

「うーん、そうなんだよね、まあ、偽装の可能性もあるけれど、わざわざこんな辺境でそんな演出して砦と町を襲ったってどうせサリドルクスタンとは既に小競り合いはしょっちゅうだから改めて開戦ってのも変だよね。」

「まあ、他国が二国の間に大きな戦をさせたいならばいきなり王都にグールを送り込んだ方が効果的ですね。というより、別にそんな回りくどいことする必要はないですね。」

 と答えながら皆のカップに茶を足して行くコルナリ。

「どちらかっていうと、これもまだ実験の内なのかしらん。ね?」

 そう言ってカップに口を付けたまま改めて目の前の二人に観察の目を向けるジル。

 先程までの夕食兼ミーティングでは横並びだった為、またその前の挨拶は慌ただしかった為にじっくりと観察する事は出来なかった。今は二人とも少し下を見やりながら思案に暮れているようだ。今が観察の数少ないチャンスだろう。

 改めてシルヴェライトを見やるとトルエよりもわずかに高い背と一回りは優に大きな鍛えられた身体に浅黒く焼けた肌、柔らかそうな金の髪がランプの灯りに照らされてわずかに光って見える。切れ長の目元から睫毛越しに見える瞳は朝焼けの後の青空の色に似ている。荒々しく彫られたような顔は迫力があるが、良くみると整っている。かもしれない。うん、ちょっと怖い顔だけど。と、心の中で勝手な感想を述べる。

 うつむいて思案している顔をカップ越しに見ていると暗いランプの灯りにも明るく輝く明るい水色の瞳が不意にこちらに視線が向いた。

 ぶっっっと思わずお茶を吹くジル。

「ちょっと、あーもう、何やってるんですか! 申し訳ありません、こんな団長で本当に申し訳ありません。」

 慌ててトルエがハンカチを取り出しジルの吹いた茶を被ったシルヴェライトに差し出す。

「いや、気にしないでいい。」

 短く答えてハンカチを受け取ると、シルヴェライトは自分の顔面にかかった茶を落ち着いて拭う。

「…ごめんなさい。」

 トルエが勢い良く謝るものだからジルは謝るタイミングを逃しかけたが、俯いて謝る。あまりの恥ずかしさに顔が上げられない。


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