第八話 昔話
怪務局事務室にて────
「すみません、ナズナさん」
デスクでゆっくりしているところに、社員が声をかけてきた。
「どうしたんだい?」
「蓬莱セイカについてなんですが…」
「そうか…」
「あの雫の件ではなくて」
眉をひそめる。
「じゃあ何?」
「琴乃という名字についてです」
「あ~…そういえば調べさせてたっけ」
「はい、この資料なんですけど」
「うん」
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平成十二年三月二日
久良市境原町 乙種3類怪異事件の概要について
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「M規程はM2判定の中度の怪異目撃、怪異の被害者は琴乃家双子姉妹の姉…」
「当時6歳の小学校入学前の双子二人が、通学路の下見に行ったところ、怪異に遭遇…だそうです」
「その、双子の妹?の方は今どうしてるんだい?」
「その後についての資料は探した限りだと見つかっていません」
「てかその怪異はどういう攻撃をしたの」
「妹さんの証言によると、口がパカーっと開いて一口で食べたらしいです」
「妹の方はどうやって助かったの?」
「あの、これが何の因果かわからないんですが…」
「うん」
「天使を見たらしくて」
眼を鋭くし、社員のほうを見る
「その天使ってやっぱり天使の怪異のことかな」
「どうなんでしょう、今話したことは資料になくて、前先輩から聞いたことなんで」
「その先輩は?」
社員の口が詰まる
「あぁ…死にました。」
「うーん…」
勢い良く椅子から立ち上がり、社員の右肩に手を乗せる。
「まぁよくやった!君のおかげでいい情報が手に入れられたよ」
「はい…また何かあったら言ってくださいね。じゃ」
とぼとぼと歩く社員の後ろ姿を見届けた後、受話器に手をかけた。
きさらぎ駅派生型怪異遭遇から1週間後────
ナズナはセイカを呼び出した。
「セイカちゃんにまた会ってほしい人がいるんだ。祓務局の人なんだけどね」
「祓務局ですか…」
「前に説明したと思うけど、主に現地調査を行う、観測と対処を専門とする局だよ」
「なるほど」
「でもあってほしい人っていうのはゴリゴリ戦闘するようなタイプじゃなくて、援護に近い感じかな」
「援護に近い…?」
「夢視と言って、夢の中で怪異と接触することができる。本人によるとそれであらかじめに怪異の情報を仕入れとくらしい」
「狙った怪異を夢の中で出せるんですか?」
「どうなんだろうね、私も夢視についてはよく知らないんだ。多分、その怪異に関連しているものを何かすると思うんだけど」
そう話していると、コンコンコンッとリズムよく扉がノックされた。
「入っていいよー」
ナズナがそう言うと、ドアが開いた。
黒の寝癖がついているセミロングに、髪飾り。琥珀色の瞳の、きっちりと制服を着こなしたした女性だ。
「この子は御影カスミちゃん。本来、風早アオトっていう子といつも任務をしているんだけど、予定を合わせてもらったんだ」
「…こんにちは」
セイカがそう言うと、カスミはニコッと笑い、挨拶を返した。




