十七話 規則スタック
会議室は、静かだった。
静か、という表現が正しいかというと、そうでないともいえる。
音がないわけではないのだ。空調の音はするし、紙がすれる音もする。
だが、それらがすべて「無いもの」として扱われているような、そんな空気だった。
だが声だけはなかった。
誰も喋らない。
いや、喋れない、というほうが正しいだろう。
長机を数人の人間が囲うように座っている。
祓務局、祭務局、そして怪務局。
この三局が同時に集まるということ自体が、そう多くはなかった。
つまりは───そういうことだ。
「……では、現状の報告をさせていただきます」
祓務局の局長だ。
声は落ち着いている。だが、安心という気持ちから来ている落ち着きではなかった。
むしろ逆だ。
崩れないように、何とか、無理やり整えた仮初の声だった。
「SNSでの異常な投稿、全国で確認されています。規則性は……現在調査中です」
「電話は?」
「発信者不明の着信が多数。内容は……不明です。報告されている限りでは、音声として成立していないケースがすべてを占めています。
「ラジオは?」
「混線。あるいは、意図的な改変の可能性も……ただし、発信元の異常は観測されていません」
一通りの報告が終わった。
しかし、誰一人として「なるほど」という単語を発しなかった
到底、納得できる内容ではなかったからだ。
「……久良市に集中していると聞いたが?」
祭務局の局長が言った。
その一言で、場の視線がそろった。
「はい。報告数の大半が、久良市からのものです」
「理由は?」
「不明です」
とても短いやり取り。
だが、その「不明」という言葉がやけに重かった。
「……規則性がない、ねぇ」
怪務局の職員が、小さくつぶやく。
「───本当にそうか?」
空気が、一瞬にして、変わった。
「この梨口……どのSNSの投稿を見ても、この異常投稿関連のものには、すべて返信をしている。昼夜問わず、24時間ずっとだ」
「それの、何処に規則性が?」
「この梨口の返信は、反復か写真のどちらか。詳しく言えば、他人の返信の反復、クチナシの写真のみ添付という感じだ」
「ふぅむ」
整理されていくはずの情報は、逆に増えていき、結果としてごちゃついていく。
すると、祓務局の局長が口を開いた。
「そういえば、部下がラジオでナシロではなく、ナシグチという読み方なのでは、みたいなのを聞いたとか。ラジオは電源入ってないですよ、勝手に鳴ったそうです」
「そこでクチナシが繋がってくるわけか」
「……なんかもうここまでくると七告では?」
場の空気が凍った。
同時に、この現象に対して、冷静に分析するのは、そろそろ限界なのではないかと感じた。
少なくとも、人間だけでは。
「おい、柊セツナ。起きろ」
「ずっと気になってたんですけど……なんですかこの子」
「祭務局で管理している怪異、統括怪異だよ。聞いたことあるだろう?」
「あー……。ある程度の意思疎通が可能性な怪異を統括してるやつですか……。本物見たことありませんよ」
「まぁ、普段は厳重に管理して、観測されることがないようにしているからな」
柊セツナが、起きた。
ショートの白髪に、翼をもっている。黒い、カラスみたいな翼。しかし柄は、孔雀。ただし、人の目。
「なに……」
「何じゃない、七告かもしれない」
「なに……⁉」
「落ち着くんだ、まだ確定したわけじゃない」
その声掛けは、柊セツナにはまったくとして届いていなかった。
取り乱して、焦り、苦しみ悶え始めた。
「おい、まだ起きてるかわかんないんだって」
「あばばば……」
祭務局の局長は「はぁ」と大きくため息をついた。
「お前が手を貸したら、七告が起きていようといなくとも、対策ができる」
局長が少し怒っているのを見て、柊セツナは渋々納得し、話し始めた。
「七告は────わたしたち怪異を、世界のバグとして処理するプログラム。だけど、それが起きているか、普通の人は感知できない。だから、いつの間にか、居なくなる」
頭では何となく理解できるが、何を言っているのか、この場では柊セツナ以外分からなかった。
「七告の起こりが分かれば対処対策できるのか?」
「がんばれば、できるんじゃない……多分」
ここで初めて、メンツに怯えていたナズナが、口を開いた。
「それだったら、適任がいます」
「───誰だ?」
「それは……」
息を吞む。
「それは、蓬莱セイカです」




