十一話 着信
鐘のような。
ラッパのような。
環境音ような。
あるいはそのすべてが混ざり合った音。
そんな音を今、私は聞き取った。
そして同時に、責任感が芽生えたような気がした。
何の責任感なのかはわからない。
単に責任感ではないというだけなのかのもしれないが。今大事なのはそこではない。
「ナズナさんに電話しないと」
現在時刻は午後3時57分。
部活動をやっている生徒たちの会話や掛け声が校内に響いている。
その会話の中身は意味を成していなかった。そしてある特定の言語というのを発しているようには思えなかった。
おそらく、響いて何を言っているかわからないだけなのだろう。
だがなぜか、本来聞き取ることのできない会話な気がした。
学校の生徒玄関の近くにいくつも固定電話がある。
多分学校の中だと職員室以外で電話があるのは、そこだけだろう。
私が使うのは、柱の横にある。一番端の電話。
プルルルル
プルルルル
プルルルル
プル───
「はい、雪零ナズナです」
「ナズナさん、セイカです」
「あセイカちゃん?どうしたの?」
「なんかおかしくって」
「おかしいってどういう感じに?」
「なんていうか、日常の違和感が塵積で、いつもとは違う音が一度だけ聞こえた感じです」
「んー、違和感に関しては、セイカちゃんが怪異という存在を認識したからだと思うのだけれど…」
「問題は音ですよね?」
「そうだねー。音が一番心配だ。他に変なことはなかったのかな?」
「うーん、あ、これは反響のせいだと思うんですけど、部活をしてる生徒の会話がちょっとおかしかったです」
「そうかぁ…七告がもう始まって───」
柱
電話 私
電話<プルルルル
電話<プルルルル
電話<プルルルル
電話<プルルルル
電話<プルルルル
電話<プルルルル
電話<ジリリリリ
電話<プルルルル
電話<ジリリリリ
電話<プルルルル
電話<プルルルル
電話<プルルルル
電話<ジリリリリ
電話<プルルルル
電話<プルルルル
電話<プルルルル
電話<プルルルル
眼に見えている電話の数は有限なのに、聞こえている着信音は無限のように思えた。
いや、本当にこの電話は有限なのだろうか。
私が音を聞き取れるように、見える人には無限にあるように見えるのではないか?
いや、そんなことは関係ない。現に今、私が見えている電話の数は有限なのだから。
「ナズナさん、この固定電話以外の電話がめっちゃ鳴ってます」
「本当?ごめん、ちょっと聞こえない…」
「これって出ちゃダメなやつですよね」
「推奨はしない…けど何が起こるか気になるー」
「えぇ…じぁ出ます?」
「セイカちゃんがいいなら」
私は今、迷っているように装っている。
実はかなり、めちゃくちゃ受話器を取りたい。
だが、本能が駄目だと言っている気がする。
私の手には、隣の受話器が握られている。
体が先に動いていた。
電話の先はノイズが走っている音するような気もするし、永遠の暗闇が続いているような無音の空間が広がっているような気もした。
多分発信元には空間という概念が定まっていないのだろう。
そう考えることにした。そうでなければ、私が今ここにいる理由が説明できない。
「ナズナさん、受話器…取っちゃいました」
これを伝えた瞬間、着信音は、消えた。
「どうだった?」
かなり食い気味に聞いてきた。
「聞き取れませんでした」
これだけだ。本当にこれだけ。あの電話の先を表すには、人に伝えるにはこんな表現をするしかなかった。
「そういうことなら七告が始まったってことかな」
「終わりの始まりですか?」
「まだ終わりと決まったわけじゃない。私たちがどうにかすればいいんだから」
「そういうもんなんですかね」
「そういうもんなんだよこの業界は」
世界の危機に立っている自覚が、私にはまだない。




