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怪異事務管理所  作者: channel
第零告
1/13

一話 呼声

 中休みの屋上。

 フェンスの外に片足をかけたセイカは、風に髪を揺らされながら目を閉じていた。


 胸の奥で鳴り響く「音」。


 誰にも説明できない。

 いや、説明しようとした瞬間に、なぜか息が詰まって、それ以上考えられなくなる。


 セイカは、その音から逃げるためにここに来たのだ。

 その下では、ざわめきが渦を巻いていた。


「おい! 屋上に誰かいるぞ!」


「私、先生呼んでくる!」


 生徒たちの声は校庭に広がり、

 波紋のように連鎖し、やがて“騒ぎ”という名の集合体になる。


 セイカは深く息を吸った。


 その瞬間――

 背後から伸びた手が、彼女の肩を強く掴んだ。


 逃げる暇も、驚く余地もなかった。

 ただ、音が一瞬だけ、止んだ。


「……まだ、落ちるには早いわ」


 振り返ると、黒い外套を纏った女性が立っていた。


 銀色の髪が風に揺れ、

 それはまるで光そのものが形を持ったかのようで、

 屋上という現実から、彼女だけが切り離されているように見えた。


 群衆の騒音。

 教師の叫び声。

 校舎に反響する足音。


 それらすべてとは無関係な静謐が、

 彼女の周囲だけに成立していた。


 セイカは、震える声で問い返す。


「……なんで?」


 問いは短い。

 が、答えを拒むには十分な重さがあった。


「誰も、私を必要としていないのに……」


 銀髪の女性の瞳は冷たく、

 それでいて、奇妙な確信に満ちていた。


「私が、あなたを必要としている」


 断定だった。

 慰めでも、説得でもない。


 彼女はセイカの手を取る。

 

 下の騒ぎはまだ続いていたが、

 二人の間には、まったく別種の緊張が張り詰めていた。


「怪異事務管理所に来なさい」


 唐突な言葉だった。

 しかし唐突であるがゆえに、

 否定する余地も見当たらない。


「あなたは、こっちでこそ意味がある」


 意味。

 その単語が、胸の奥でひっかかった。


 意味がある。

 つまり今までは、意味がなかったということだろうか。

 それとも、意味が分からなかっただけなのだろうか。


 セイカはまだ、戸惑いの中にいた。

 だが、自分だけに聞こえる「音」が、

 ただの妄想ではないことを、

 この女性の存在が証明してしまっていた。


「来る……ということでいいかな?」


 そう言って、ナズナと名乗ったその女性は、

 ポケットに手を入れ、

 鍵を探すような仕草をした。


 その瞬間だった。


「……ッ!」


 急なめまいが、セイカを襲う。


 世界が、傾く。

 いや、傾いたのは自分の認識のほうだ。


 銀髪の女性の顔が歪み、

 輪郭が意味を失っていく。


 視界には、

 さまざまな色の絵の具を、

 無理やり混ぜ合わせたような空間が広がっていた。


 やがて、

 その空間は少しずつ輪郭を持ち始める。


 セイカは、かすれた声で呟いた。


「───どこ……?」

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― 新着の感想 ―
キャラクターたちの掛け合いが最高です!読んでいて飽きません。
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