一話 呼声
中休みの屋上。
フェンスの外に足をかけたセイカは、風に髪を揺らしながら目を閉じていた。
胸の奥で鳴り響く、誰にも説明できない「音」が彼女を追い詰めていた。
下ではざわめきが響いている。
「おい!屋上に誰かいるぞ!」
「私先生呼んでくる!」
生徒たちの叫び声が校庭に広がり、騒ぎは波のように押し寄せていた。
セイカは息を深く吸う。
その瞬間――背後から伸びた手が、彼女の肩を強く掴む。
「…まだ、落ちるには早いわ」
振り返ると黒い外套を纏った女性が立っていた。
彼女の銀色の髪が風に美しくなびき、光の波のように揺れていた。
その姿は、騒ぎ立つ群衆とは別世界の静謐をまとっていた。
セイカは震える声で問い返す。
「なんで?誰も私を必要としていないのに…」
彼女の瞳は冷たく、それでいて確信に満ちていた。
「私たちはあなたを必要としている」
彼女はセイカの手を引き、屋上から離れさせる。
下の騒ぎはまだ続いていたが、二人の間には別の緊張が走っていた。
「怪異事務管理所に来なさい。あなたはこっちでこそ意味がある」
セイカはまだ戸惑いの中にいた。
だが、自分だけに聞こえる「音」が現実であることを悟り始めていた。
「来る…ということでいいかい?」
そう言うとナズナはポケットに手を入れ、鍵を探すような動作をした。
「……ッ!」
急なめまいがセイカを襲った。
目の前の銀髪の女性の顔が歪んで見えるようになってくる。
セイカの視界には色々な絵の具を混ぜ合わせたような空間が見える。
やがてその空間の形がはっきりと見えるようになった。
「どこ…?」




