もうじゅうぶんだよ。ボクはしあわせ。
「くーん……」
はじめて目に映ったのは、ボクをたべようとしていたカラス。『捨てられたんだから食ってもいいよな』ってボクをつついた。痛かった。
「めっ! カラス、め!」
そのときだ、ライちゃんとであったのは。ライちゃんは自分の体とおなじくらい大きなカラスを手ではらいのけて、ボクを家の中に入れてくれた。
(からだ、ばっちいけど。入っていいのかな)
とてもピカピカな床……、歩けばあしあとがついちゃう。ライちゃんよりえらいおんなの人が、ボクをあまりよく思っていないのがわかる。
「ライ、勝手に生き物を持って帰ってきちゃだめでしょ」
「いきものじゃなくて、ルイくんだもん!」
ルイ。ボクのことらしい。
なんだかそれがポカポカした。心臓がキュキュって鳴ったきがする。
ライちゃんがたくさんボクに関わってくれる。そのようすを見てライちゃんよりえらいおんなの人が少し困ったかおで『飼っていいよ』と言った。
その日から、ライちゃんは、ボクにいろんなことをおしえてくれた。動物病院にいって目薬をさせば目がたくさん開いてモクモクの美味しそうなソラを見ることが出来ること。
おいしいごはんが、世界にたくさんあったこと。世界は広いということ。
すべて、しあわせなことだな。もうじゅうぶんだよ。ボクはしあわせ。
なまえをもらって、しもふりのソラを見せてくれたこと、ほんとにうれしかった。世界が広いことも。
ライちゃんをしあわせにしたいな。ボクにできることはなんだろう。空をもってかえる……は、つばさが無いから出来ない。とりあえず、尻尾で床をふいてみた。よろこんでくれるかな。
犬はりょうり、できないのかな。おにぎりってどうやってつくるのだろう。おいしくつくりたい。
二足歩行ができたなら、掃除機も掛けてみたい。やりたいことがいっぱいあって毎日たのしいな。
やっぱり、ボクはしあわせなんだとおもう。ライちゃん、助けてくれてありがとうね。
おしまい