孤独な英雄
「──ところで、坊や。おまえの職種はなんなんだい?」
ゼブラ・ゴーシュの問いかけに、ジュノは胸を張る。
「魔杖騎兵です!」
「へぇ……そりゃ、花形じゃねぇか」
魔杖騎兵──騎乗して、魔杖から攻撃魔法を連射しながら敵陣に突撃していく、華やかだが、戦闘工兵についで生存率の低い前衛職種だ。
「僕は背が低いので、騎兵には向いているかなって……」
ジュノは続ける。
「ゼブラ様は……魔砲兵でいらっしゃいましたよね?」
こちらは、味方から〝戦場の女神〟とまで呼ばれる職種。
馬で曳く巨大な魔杖で雨あられと炸裂魔法を敵陣に降らせる、戦場の女神。
そして敵方からは、遠距離の死神。
「──まぁ、こっちも。たまたま適性があってな」
言葉少なに応じたゴーシュは、茶をすすりながら続けた。
「と言っても、算術は苦手でね。俺は魔杖に魔力を仕込む係り……装填手さ」
それは確か、膨大な魔力と〝触れたものに魔力を注ぎ込む魔法〟が必要になる技能だったとジュノは理解していた。
「結局、こういうのは持って生まれた魔力の量が物を言う。……俺が生き残ったのは強かったからでも、努力したからでもない。ただお袋が三塁に生んでくれただけさ」
だが、ジュノの瞳は、その言葉ひとつにも尊敬の光が増していた。
──謙虚だ、と。
けれども、その視線はゴーシュの側では、胸の奥に沈んでいた記憶をえぐる。
彼は目を逸らした。
──整列する少年少女たちの姿。
背丈よりも長い魔杖を誇らしげに抱え、敬礼するその小さな手。
王を帰還させるためとは言え、年端もいかぬ彼らを殿軍の盾とするしかなかった自分は、英雄なんかじゃない。
なのに、その自分を〝英雄〟と呼んで疑わない世界──
彼しか知らない矛盾が、胸を内側で裂く。
マグカップを手に、空を見上げるしかない。
……風の音だけがしていた。
まるで、あのときのように。
ゴーシュはゆっくりと立ち上がる。
「──ま、そんなわけだ」
そして、深く息を吐いた。
「裏方の俺と、花形の坊やじゃ職種が違う。教えてやれることといえば、せいぜい戦場の心得くらいだな」
「ありがとうございます! では、早速……身を清めて参ります!」
ジュノはそう言って駆け出そうとしたが、「待て待て」とゴーシュの声が飛んだ。
「──もう、教えたさ。」
ジュノが振り返ると、そこには悪い笑みを浮かべたゴーシュの顔があった。
「体でおぼえるしかない。こう言うことなは」
「……え?」
ジュノは、きょとんとしたが、ゴーシュは、
「トイレは母屋の裏だ。遠慮なく使え。あと今日は薪もここまででいい」
と、盆を置いたまま母屋に帰って行った。
その数分後より、ジュノは、五分に一度、トイレへ駆け込む羽目になった。
どうも茶に、一服盛られたらしい。
◇