アーガイルに…ばらしちゃったみたいです
朝日を背に、一人の剣士がこちらに向かってくる。
ジュノは目を細めた。
年の頃は二十代前半か。革鎧に帯剣している様子だ。
ジュノに見覚えはなかったが、それは昨日もゼブラ・ゴーシュを訪ねて来ていた男──アーガイルであった。
アーガイルは、通りすがりにジュノを一瞥した。
「──見ない顔だな。お前もゼブラ殿の挑戦者か」
ジュノは、軽く頭を下げながら返した。
「いえ、インターンです。王都のウィンゲート魔法学校から来ました」
その一言で、アーガイルの眉がぴんと張りつめた。
「……インターン?」
その目が訝しむように動き、鋭くなる。
魔法学校のインターン──それは、最終学年に課される実務研修であり、基本的に有資格の指導者がいる場所でしか受け入れられない。
つまり、責任者ゼブラ・ゴーシュは、この砦に戻ってきているということになる。
アーガイルは、焦り混じりの険しい顔つきになり、ジュノに詰め寄った。
「おい、インターン。ゼブラ殿は、いつここに戻られた……」
ジュノは、意味がわからないのだろう。少し考えてから、正直に答えた。
「戻るもなにも、いま釣りに……じゃなくて!パトロールに出られたところです!」
「はあ!? ちがう! 討伐から戻られたのはいつだと聞いておるのだ!」
アーガイルの語気が強まるが、ジュノにも、意味がわからない。少し戸惑いながら、首を傾げる。
「さぁ……それは……。昨日には砦においででしたが」
それを聞いたアーガイルは額に手を当てた。苦々しい顔が手の下から覗いた。
「なんという事だ……」
そして小さくうなずくと、ふっと前髪を横に流し、気配を切り替えた。
「──感謝するぞ、インターン。俺が馬鹿だった」
言い残し、彼は迷いなく母屋へ向けて歩き出した。硬く乾いた土の道を踏むブーツの音が怒気を含んでいる。
ジュノの背筋に、冷たいものが走った。
「──アーガイルさん、ゴーシュさまは今、森に行ってます。母屋には、誰もいませんよ!」
呼びかけるが、アーガイルは止まらない。
「もうその手には乗らん。今日こそあのインチキ英雄と試合をして、俺は王都に戻る!」
その瞬間だった。
バンッ! っと……
アーガイルの足元で何かが爆ぜた。土煙が舞い、砕けた小石が四方に散った。
彼は咄嗟に一メートルほど跳び退いていた。体勢を低く保つ。先ほど進もうとしていた道の真ん中に──大鍋ほどのくぼみが穿たれている。
遠距離からの攻撃魔法だ。
それも、意図的に彼の足元を狙った警告──。
ジュノにも、それはすぐにわかった。けれども誰が撃ったのか。
ゴーシュさまか。
いや、まさか……
そう考えるよりも早く——
母屋の中から、マールムの、抑制とドスの効いた声がした。